第七話:きみは僕が好き?
「ねえ月守くん。見てよ、あの遠くの空の下。あそこに見えるのが金星だよ」
「ああ、そうだね。もう見えるんだ。知ってるよ、この時期いつも見えるよね」
「へえ珍しい。ニュースでもやってるっていうのに誰も知らないんだもん」
月子は退屈そうに後ろ手に組みながら呟く。僕は
「だって僕は昔から天体観測が好きだったから」
と答えた。
「え? そうなの?」
会話は少しだけ続いた。思いの他盛り上がってしまったため、ここで僕は月子を試すことにした。これ以上彼女と話すと僕の懐に入れる距離になってしまう。もうこれ以上テリトリーに入ってきてほしくなかったからだ。
どうしてそんな気が起きたかわからない。ただその時の僕は彼女に対して何か、インスピレーションを感じずにはいられなかった。
「僕も金星は好きなんだ」
「本当? 嬉しいよ」
月子は跳ねるように喜んだ。僕は続ける。
「じゃあ鈴宮さんは僕のこと好き? 」
この質問をすると大抵の女性は怪訝そうな顔をする。そして軽蔑の眼差しで去っていく。それが正しい。そうして欲しい。
しかし一部のやばい女は僕がからかっていると思って調子よくのってくる。
「きみは僕、月守アポロのことが好きか?」
要注意人物の特定に対し、適切で尚且つ汎用性のある台詞だ。
月子は僕のことを軽い男だと思って離れていくか。別に彼女がどれでも良い。月子は僕の昼寝場所に居ついて安寧を奪ってしまったし、彼女がこの場所にこなくなることで、僕は再び自由になれる。
「どうして金星を知っているからって、月守君のことを好きな理由になるの? 」
月子はそう真顔で返答した。
よかった。内心そう思った自分がいた。兎にも角にも月子は第一段階クリアだと感じたからに違いない。今までの女性たちのように話がめちゃくちゃで道理が通っていないやつではなかった。しかしなぜなのだろう。それがインスピレーションってやつなのだろうか?
「それに金星が見える事なんて毎年当たり前のようにニュース番組でやってる。いわば常識よ。知らないみんなの方が変だもの」
「だよね。冗談だよ」
と僕は慌てて言った。
「冗談言わないで。私軽い男は大嫌いなの」
「そうか。ごめんね」
月子は僕の唯一の居場所を奪った。ここなら誰も来ないし自由に暇をつぶせる。好きなだけ昼寝もできる。どうせ授業なんて受けていても何の役にも立たないし、眠っていた方が脳疲労を防げる分だけよっぽどましなのに。
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(次回:あなたが嫌い)