第六話:決着
次の日。登校中月子の後ろ姿を見つけた。もう話しかけてもいい。そう思えるだけでとても気が楽だ。早速追いかけて肩を叩こう、と考えていると僕の横を安西尚美が通りすぎて行った。僕は様子を見守った。この時間は登校中の生徒が少ないのだが僕たちが通るルートは特に人が少ない。なぜ安西がこの道を通っているのかも含め、何か嫌な予感がする。
安西は月子に徐々に近づいていった。そして
「おはよ。猫女」
猫女?! 僕はぎょっとした。月子も同様に驚いた顔をしている。
「いい気なもんよね。昨日までは『私貧血なんです~』って顔して男子に媚び売ってたくせに。もうよくなったの? 」
安西は噂通りの陰気ないじめっ子だったと僕は今さら気づいた。昔から陰でこのようないじめを繰り返していたのか…… 。実際に見たことはなかったが…… 。昨日女子生徒が話していた水原のことを僕は知っていた。彼女は控えめでおとなしそうな可愛い女子だった。その見た目と優しさから男女ともに人気があり、安西のような自己顕示欲の高い女子にとって絶好のターゲットだったに違いない。安西は月子の肩を掴んだ。そして
「あんたマジイラつく。すかしてんじゃねえよ」
と言い、力を込めた。
「痛いよ…… 。離して、安西さん」
月子が言う。すると安西は
「誰が離すか。あんたのことみんな嫌いだって言ったじゃん? あんたの味方とかあのクラスにいないから。あの月守アポロってのもあんたのこといい加減鬱陶しいって言ってたよ」
「アポロが? 」
すると月子は笑って
「ふふ、安西さんは嘘つきなんだね」
と言った。
「はぁ? 嘘なんてついてねえよ」
安西がそう返すと月子は笑いながら
「私はアポロに好かれてるっていう絶対的な自信があるの。アポロが私のこと嫌いになるはずがない。あの子はとても素直な子だから安西さんみたいな嘘つきと話すのも嫌なんじゃない? 」
と言った。すると安西は馬鹿笑いして
「どんだけ自惚れてんだよ。うけるわ」
と言った。月子はそれを見て
「あなたは誰かを信頼したことないの? まあ、あなたのこと好いてくれるひとなんていないか」
と呆れた声で言った。
「はぁ? ふざけんなッ」
安西がそう言って月子の肩を掴んでいた手に力をこめると、月子は急に
「痛い痛い、やめてよ安西さん…… !! 」
と叫んだ。すると遠くの方に千葉カレンの姿が見えた。千葉は
「月子…… ?!! 」
と一声上げ、安西の様子を見ると、後方を歩いていた男子生徒二人組に
「ちょっと、助けて! 月子が安西さんに絡まれてる…… ! 」
と助けを求めた。
男子生徒たちはそちらを向き、ぎょっとした顔をした。
「まじか」
「おい、やめろよ!! 」
男子二人組は二人のもとに駆け寄り安西を月子から引き離した。すると月子は
「安西さん…… 。なんでこんなことするの? すごく痛かったよ…… 」
と言った。僕は月子の演技があまりに上手すぎて思わず吹き出しそうになった。安西はきつく月子を睨みつけたが、今さら何をしても無駄だった。取り繕うことも、下手に月子のせいにすることもできなさそうだった。する男子生徒の一人が
「安西、見損なったぞ。こんなことするなんて、お前鈴宮さんのこと嫌いなの? …… いじめとかまじないわ」
会話を聞いているとどうやら昔二人は同じクラスだったようだ。男子は続けた。
「お前昔から悪い噂あったもんな。水原のこともお前がやったっていう…… 。実際見てなかったから根拠なかったけど。今回のことは先生に言うから」
すると安西はこう叫んだ。
「待って! 私は悪くない! この人が先に肩を掴んできたから掴み返しただけ! 」
月子は反論した。
「やってないわ。そもそも私安西さんに何の用もないもの。肩を掴む理由もないわ」
「ほんとだよ。安西行くぞ」
そう言って安西は二人に連行された。その内の一人が月子に
「大丈夫? 掴れたとこ痛くない? 」
と聞いていた。月子は
「大丈夫よ。二人とも、ありがとう」
と答えた。千葉カレンは月子のもとへ駆け寄り
「月子大丈夫? やっぱ安西さん最低だね! 痛くない? 保健室行こ」
と畳みかけるように話した。月子は
「ううん、大丈夫。それよりカレンありがと。カレンがいなかったらあのまま肩の骨折れてたかも」
と言って笑った。千葉も同じようにクスクス笑い
「そっか。じゃあごめんだけど私先行く。日直なんだ。また学校でね」
と足早に走り去った。
ご覧いただきありがとうございました。安西と月子の対決(? )がこのエピソードで終了です! そしてそろそろ『月守アポロの鬱屈』も最終回に突入しかけております……! それもこれも皆さんが読んでくださったおかげです。まだもう少し続きますが、応援よろしくお願いします。
次回も読んでくださいますと嬉しいです!
(次回:タイトル未定)




