第四話:反論
呼び鈴を鳴らすと鈴宮教授が出てきた。緊張の面持ちで
「月守アポロです。本日は母と一緒に来ています」
と告げた。鈴宮教授は
「少々お待ちください」
とだけ答え、鍵を開けてくれた。
「アポロ君、と……」
僕はおじぎをした。すかさず母さんが
「初めまして。私はアポロの母です。先日はうちの息子が大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
と深く頭を下げた。僕も同じように頭を下げる。そして母さんは
「おたくのお嬢さん……月子さんに酷いけがをさせてしまって……本当にどう詫びればよいのか。うちのアポロのせいでお父様にもご心配をおかけしました」
鈴宮教授はやっと口を開き
「ええ。そうですね……月子は可愛い一人娘なもんですから。そちら様も同じでしょう? 」
教授が言いたいことはなんとなくわかった。
「はい。うちも一人息子で。大変なこともありますね」
「でしたら私の気持ちをわかってくださりますね? 」
鈴宮教授はこう強く念押しした。母さんはめげずにこう言った。
「はい、理解しております。でも私は月子さんとアポロの友人関係にまでこちらが口出しするのもどうかと思うのです」
鈴宮教授は怪訝な顔をした。母さんは続ける。
「アポロは月子さんのことをとても大切に思っています。できればずっと友達でいたいとも言っています。ですからどうにか、今後も月子さんと友人として付き合っていくことを許可していただけませんか? 」
鈴宮教授は答えた。
「大切に思っている者が安全確認もせず山に連れていきますかね? 」
確かに、本当に痛いところをつかれて僕は心臓を握りつぶされそうになる。母さんは
「そうですね。お父様の気持ちもよく理解できます。そのことについてはきつく言ってきかせました。でも私はアポロの意思を尊重したいのです。お嬢様との付き合いを認めてやってはいただけませんか? 」
「……」
鈴宮教授は沈黙の後こう尋ねた。
「しつこいお方ですね。失礼ですが、あなたは息子さんのために何をされてきたのですか? 」
唐突な質問に対し母さんは驚いた顔を見せた。
「私は三年前妻を亡くしてから娘を一層大切に育ててきました。あの子の見たい景色を見せてやりたい。好きなことをやらせてやりたい。のびのび自由に育ってほしい。……あの子は個性的な子ですので、周りに理解されない部分があります。しかしそれをどうにか守ってやるのが親の役目でしょう? あなたはアポロ君の話を聞いてあげているのですか? アポロ君ときちんと分別を付けて接してきたのですか?…… 非常に失礼なのですが、きちんと接することができていないがためにこのようなことが起こったのでは? 」
怒りをあらわにする鈴宮教授に対し僕はすかさずこう言った。
「母さんはきちんと僕のことを育ててくれています! 」
そして
「僕の話もきちんと聞いてくれていますし、僕にとっては最高の母親なんです! 今回のことは僕一人の責任です。だからこれ以上母を責めることは……」
と言いそこで言葉に詰まってしまった。鈴宮教授は
「わかったよ、アポロ君。君はもう帰りなさい」
と言った。そして母さんの方を向いて
「あとは親同士で話し合いましょう」
と強い目線を送った。母さんは僕に行きなさい、と目で合図した。僕は頷きを返し帰路についた。
ご覧いただきありがとうございました。アポロの『母親に対する思い』をうかがい知れるような内容にしてみました。どうでしたでしょうか。
次回も読んでくださいますと嬉しいです!
(次回:解決)




