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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第四章:恋
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第二話:恋

 正直自分がこんな風になるとは思っていなかった。ここまで人間関係で心が揺さぶられる経験をしたのは、きっと昔のいじめの時以来だ。


 今僕は生きている。生きてこんな素敵な女性と共に山登りをしている。頂上に着いたら金星が待っている。なんと満ち足りた時間なのだろう。


 そんな風に思えるようになったのは、やはり月子が金星と出会い好きになったように、僕が月子を好きになったからだろう。そうだ。僕が先ほど感じた違和感。思考・感情・行動のちぐはぐさの正体はこれだ。しかしきっとそれは自然な流れだ。生きているとあり得ないことだって普通に起こる。


 僕は今の今まで誰も好きにならないと信じていた。恋愛なんて無縁の人生を送るのだ、と。しかし違った。僕は気づいてしまった。月子のことが好きだ――。


 だからと言ってこの気持ちを伝えようなんて思えない。僕は月子とずっと友人でいたい。月子にとっての特別な存在でいたい。月子の恋人はもういる。そしてそれに勝てる自信は、ない。だからせめて彼女の友人枠は僕だけ、そうあって欲しいのだ。


 もう少しでてっぺんに到着するはずだ。その前に僕は話したいことがある。


「月子」


 僕は月子に話しかけた。


「何?アポロ」


 月子が答える。


「足元気を付けて、滑りそうだよ。昨日は少し降ったからね」


「そうだね。気を付けて登ってるよ」


「それならよかった」


 月子はこう言った。


「アポロは優しいね」


 僕は胸が引きちぎられそうでたまらない気持ちになった。こんな気持ちを感じたのは生まれて初めてだった。これが僕の初恋になるのだろうか。そしてこれ以上好きになれる人がこの先現れるのだろうか、と思春期真っただ中の少年のような感情に陥った。実際そうではあるのだが。


 しばし沈黙が漂う。僕は彼女の少し冷えた掌をぎゅっと握りながら進む。すると月子が


「ちょっと疲れたよ。アポロ。少し休もうよ」


 と言った。しかし僕は


「もう少しで頂上だ。がんばろう」


 と言った。


「わかったわ」


 月子が答えた。


 どれくらい登ったのだろうか。全然頂上に着かない。僕はもどかしくなった。なんで着かないんだ。もうかれこれ40分は登っているはず。しかしそれも体感だ。本当のところはわからない。そうだ、水無瀬山には一度も登ったことがないから、30分で着くとは限らない。きっともう少しで到着するはずだ。


 すると月子が


「もう限界」


 とその場にしゃがみこんだ。


「どうしたの、月子」


「足が痛いの」


「ちょっと見せて」


 僕は月子の靴を脱がせた。靴下をめくりあげ足首を見ると赤く膨れ上がっていた。


「大丈夫?すごく腫れてる……」


「大丈夫じゃないわ。めちゃくちゃ痛いわよ」


「言ってくれればよかったのに」


「だってアポロが無理に手を引くから。それに私さっき休憩しようって言ったわよね」


「ごめん」


 何を焦っていたのだろう。僕は馬鹿なのか。彼女にこんな思いをさせ、怪我までさせて。心から自分が情けなくなった。そういえばこの間、月子のお母さんの話をした時もそうだった。月子の気持ちを無視して、僕はどうしてこうも人に悲しい思いをさせるのが上手いのだろう。それも心底好きな人に。

ご覧いただきありがとうございました。次回も読んでくださりますと嬉しいです!恋心の自覚……。青春ですね(笑)

(第三話:しくじり)

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