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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第三章:気付き
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第六話:ソウル・メイト

 その日。撃沈した藤田をよそ眼に僕は月子を天体観測に誘った。

 二つ返事で


「いいわ」


 とかえってきたためかなり安堵した。


「月子」


 僕は月子に呼びかけた。


「何アポロ」


「月子は最高の友達だよ。今日改めて思った」


「何言ってるの! アポロこそ私の最高の友達よ! 」


 僕は少し照れて下を向いた。心が熱い。どうしてこんなにも友達という言葉に敏感になっているのだろう、月子は少し笑ってこう言った。


「友達なんてきっとそこら中にいるわ。少し声をかけて仲良くなって、できていくもんだよ。だから仲良くしたいって気持ちだけあれば自然と仲良くなれるんだ」


 そしてこう続けた。


「アポロは私と友達になった。それには意味があるんだよ! 」


「意味……か。うん。もしかするとあるのかもしれないな」


「そうよ! きっとあるわ! うーん、例えば……私とアポロは前世で深いつながりがあったとか? 」


「ふふ、適当なこと言うなよ」


「だって楽しいじゃない。アポロは町の商人の娘で……」


「僕は女性なんだ」


「そうよ。生まれ変わりに性別は関係ないわ! それで、私は貧しい田舎の村の幼女。ある日私たちは運命的な出会いをするの」


「どんな? 」


「そうね……。アポロだったらどんなストーリーにする? 」


「僕だったら……? 」


 月子は無意識に僕の心の琴線に語り掛けてくる。僕は今まで主導で動くことなどなかった。それを月子は自然と僕に預けた。まるで馬の手綱だ。二人は同じ馬に乗り、熟練者の月子は若輩者の僕に


「ほら、持ってごらん」


 と言って手綱を手渡す。落ちてしまったら二人とも傷だらけだ。無理だよ、でも、握りたい。僕は自分の力で馬に乗りたい。


「僕だったら……。過去の月子と僕はある満月の冬夜、路地裏で出会うんだ。こんな時間に出歩くと危ない。僕は幼女の月子にそう言ってお家に帰ろう、と言って手を引く。君のお家はどこ?そうしたら月子は月を見上げ指さすんだ。あそこ、と」


「すごい、ロマンチックじゃない! 」


「ああ。その後僕たちは理由わけあって盗賊に見つかって追いかけられるんだ」


「その理由って? 」


「うーん……。思いつかないから次へ進むね」


「もぉー! 」


 僕はストーリーを進めた。


「『あなたのせいで私まで追いかけられるはめになったじゃない』。僕はそう言おうとするけれど、月子にはなぜか言えなかった。月を見つめるその目が美しすぎて」


 月子はほぉー、と感心して聞いていた。


「なんてね。どう? よくできた物語だろ? 」


 僕が尋ねると


「上出来じゃない! 最高!! アポロって小説家になれるんじゃない? 」


 と褒めた。けれど間髪入れず


「でもさ、私は金星が好きなのよ。なのにどうして月に住んでるの? 」


 と質問してきた。僕は


「え……」


 と戸惑った。


「そうだなあ。……なんでだろ。かぐや姫とかそういう類の物語を知っているからかな?月って神秘的だろ。だから物語のモチーフによく使われる」


「そっか」


 僕はどぎまぎした。月子は


「ま、月も素敵よね。私月子っていう名前だから月も好きよ」


「そうか……」


「アポロありがと。素敵な物語を聞かせてくれて」


 そう告げて満足げに月子は去って行った。


ご覧いただきありがとうございました。次回も読んでくださりますと嬉しいです!

ちなみに今回の話の内容はなかなかに重要だと作者は思っております。

(次回:新章「恋」第一話:素直になれない)

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