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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第三章:気付き
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第四話:飼い犬

 月子を天体観測に誘おう。そう決めたのはあくる日の夜だった。この間の天体観測は楽しかった。月子も喜んでいた。何よりあの大勢の人たちとの一体感。あれをもう一度感じてみたい。


 もちろん月子と一緒に行きたいし、喜んでほしい。僕のせいで落ち込んだ気持ちを少しでも元の状態へ回復させたい。また元気に笑ってほしい。それらはもちろんある。というよりそれらが本来の目的だ。


 しかし『天体観測』への未知の興奮が湧き上がってきたのだ。その時


「ああ、僕が、行きたいんだなあ」


 と思った。全く、自分と言う人間はどこまで自己中なのだろう。


 僕は早速企画に取り掛かった。まずは行き場所を決めないといけない。昨年鈴宮教授が企画したイベント場所である木漏日山岳もいいな、と思ったが、同じだとおもしろくない。月子ももちろん参加しているだろうから。


 どうせならもう少し難易度の高い山はどうだろう。山に詳しくない僕でも知っている山……。思案の末一つの山が思い当たった。それは水無瀬山(みなせざん)だった。


 水無瀬山は僕らの高校のすぐそばにある山、というより丘のような小高い場所だ。ここなら万が一、日程が合わなくても学校帰りに立ち寄ることもできるし気楽だ。


 重い登山用具などは必要ないし、気負って上る山では到底なさそうだ。難易度はかなり下がってしまうが、二人の初登山には上出来の場所になろう。


 僕は月子と冷却期間を設けた方が誘いやすいかもしれない、と感じた。同じクラスなので少し気まずくはなるが、会話は控えておこう、と思った。

 それから数日間、僕は月子と教室で口をきかなくなった。もちろん屋上へも行かなくなった。


 すると彼女に変化が起こった。彼女も屋上に行かなくなったのである。

 そうすると周りの男子たちはざわついた。特に藤田がそうだ。

 休み時間、ここぞとばかりに月子にちょっかいをかけにいっている。


 僕は今までその様子を横目で見、余裕を持ちながら楽しんでいる節があった。しかし今回は少しばかり焦燥感に陥っている自分に気づいた。僕は他の誰かに月子のことを取られるのが嫌なのか?

 藤田は


「そういえばさー、鈴宮さんって最近あいつとつるんでないよね? 」


 と言い僕を見た。月子の周りに群がっていた男子生徒たちも一斉に僕の方を向いた。

 馬鹿らしい茶番が始まりそうな気がした。邂逅。昔も同じような場面があったっけ。


 あれは小学校高学年の頃だ。僕は自分で言うのも気が引けるが、成績優秀スポーツ万能の文武両道型だった。そのおかげでクラスの女子にモテた。そしてそれをやっかむ男子生徒たちにいじめられていた。


 物を隠されたり陰口を言われたり、石を投げられたこともあった。今考えると、僕は当時彼らはアポロという名に執着していじめているのだと思っていた。しかしいじめられる原因は嫉妬も関係しているかもしれない。男の嫉妬程怖いものははいと言うからな。


 それから変な噂を流された。大体は母さんが絡んだものが多かったが、それが僕には一番耐えがたいことだった。僕の周りから女子が一人離れる度に男子たちは


「ざまあみろ」


 とでも言わんばかりに僕を嘲り笑った。今考えるととんでもない話だ。だが今回も同じような流れになりそうだ。しかし今の僕にはもうどうだっていい。戦う元気が残されていなかったからだ。


 友人である月子を失う事ってこんなにも怖いことだったのだろうか。虚無感。まるで僕の宇宙の中のどこを探しても、大切なものが見つからない感覚。見つかるのはただのゴミばかり。


 以前にも思ったことがある。いったいこの世界の人間はどれくらいまで信頼できるのだろう、と。僕は全く信頼できない。だから疑う。それで案の定噛みつかれる。


 まるで見えない主従関係がそこにあるかのようだ。生意気な犬は飼い主を無視して自分勝手な行動を繰り返す。僕は飼い主(そいつら)の管理下におかれる犬だったのだろうか。手を噛んで逃げ出すばかりでは、誰にもかわいがってもらえない、可哀そうな捨て犬なのではないか……?


 ご覧いただきありがとうございました!

今回もアポロは案の定内省で病んでいます……。ですがそれを書くのが楽しいです(笑)

次回エピソードも読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

(次回:撃沈)

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