第一話:父親の行方
「ねえ母さん。何でギリシャ神話が好きなの?」
いたいけな幼いころの僕はそう尋ねた。
「そうねぇー。それは昔お父さんが好きだったからかしらね」
「お父さん……?」
その頃の僕は自分には父親なんていないんだって完全に信じてた。父さんは浮気が原因で母さんと離婚した。
さすがに離婚理由までは子供には言えないが、母方の親、つまり母さんの母親であるおばあちゃんは
「アポロにはお父さんはいないんだよ」
と。
「僕にはお父さんはいないんでしょ?昔ばあばに聞いたよ?」
それを聞くと少し悩んだ様子で、母さんはこう言ったのを覚えている。
「そっかぁー。ばあばはそう言ってたかー。でもね、アポロにはちゃあんとお父さんがいるんだよ」
「そうなの……?」
「うん。今アポロやお母さんがいる場所にはいないんだけど、離れた場所でちゃんと私たちを見ているんだよ」
「そうなんだ」
「だから、アポロは心配しなくていいのよ。お父さんのこと私は好きだよ。だからお母さんはギリシャ神話が好き。好きな人が好きなものって自然と好きになっちゃうのよねえ」
母さんは自分自身に呟くように僕にそう言い
「アポロもギリシャ神話が好きになってくれたら嬉しいわぁ」
とはにかんだのを覚えている。遠い記憶の中の話だ。実際は浮気なんてしていなかったのにね。父さんは死んだんだ。死因は知らない。
読んでいただきありがとうございました。嬉しいです!次回もよろしくお願いいたします。
(次回エピソード:神話との思い出)