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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第三章:気付き
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第三話:月子の過去

 翌日、登校中の月子の機嫌は上々だった。


「昨日の天体観測、最高だったね! 」


「そうだね」


 僕が答えると月子は饒舌に過去の出来事について話し始めた。月子と正道教授との思い出、寝ぼけ眼で見た流星群、寒くて凍えそうになりながら3時間ほど冬空の下待ち続けた中やっと見られた感慨深い瞬間。


 それらをありありと語る彼女頬は美しかった。僕は生まれて初めて母さん以外の女性を美しいと感じた。時間が止まるような不思議な感覚。僕は目を見開く。しかし、だからと言ってそこに他意は存在しなかった。


「そういえば……」


 僕は話を切り出した。


「何?」


「月子のお母さんの話を聞きたいな」


 月子は少し沈黙して


「……。いいよ。もう死んだけどね」


 と言った。僕は慌てて


「ごめん」


 と言ったが遅かった。月子の顔にはどんよりとした表情が張り付いていた。


「月子……」


「いいの、アポロ。大したことじゃない。そろそろ話したいと思っていたところよ!」


 月子は急に苦い笑顔を浮かべた。それは明らかに凍り付いている。必死に明るく振舞おうとする月子が、僕には痛々しく見えた。


「……お母さんは、登山道で倒れているのを発見されて。その後数時間で死んじゃった」


 僕は言葉を失った。月子のお母さんは故人だった。


「そうなんだね」


 月子は一瞬うつむいて、更に入念に笑顔を作りこみ顔を上げた。


「でも大丈夫! もう3年近く経つからね! 気にしてないよ! 」


 そう言って力こぶを作るようなポーズをとった。強がっているのは明白だった。僕は


「ごめんね」


 と一言告げてその場を去った。


 後悔。その言葉が正しいだろう。僕は今まで月子の何を見てきたのだろう。強情で芯の通った明るい女性。金星が誰よりも好きで、いつも空を見上げている、少し変わった女の子。それだけが月子じゃないってこと、今までどうして気づかなかったのだろう。


 それに僕は月子の友人なのに、なぜその場を立ち去ってしまったのだろう。どうして月子の気持ちに寄り添おうとしなかったのだろう……。


 僕の心は疑問でいっぱいだった。それは自分自身の感情や行動への疑問でもあるが、信念への疑問でもある。僕はあれほど


『困っている人を助ける』


 ということを信条としていた。なのに友人にあんな顔をさせてしまった。逆に困らせてしまった。


「月子の機嫌を取るにはどうしよう? 」


 次に思い浮かんだそのような野暮な考えに、僕は自らに強く失望した。


 閲覧ありがとうございました。最後まで読んでいただけて嬉しいです。もしよろしければ過去の作品なども読んでください!よろしくお願いいたします。

(次回: 飼い犬)

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