第二話:宇宙の記憶
帰宅後、僕は母さんに今日の天体観測の話をした。かいつまんで話すつもりが記憶の隅々まで語りつくしてしまった。母さんは傍で
「うん、うん」
と頷きながら聴いていた。夜が深まっても興奮が冷めやらなかった。こんな年齢になるまで僕は母親っこだ。マザコンだなんて馬鹿にされてもおかしくはない。だが何も悪いとは思わない。僕の母さんは世界一だ、と胸をはって言える。
父さんはいつ記憶からいなくなった? いや、さっきの記憶では僕の中にいたんだ。確かにいた。そして誰よりも母さんを愛していた、僕が知っていた父さんは、母さんと離婚してその後死んだ。それが情報としては正しいと祖母から聞かされてきた。
でも事実だけを見ると感情としてはあまりにも薄っぺらである。それは一夜限りでは到底語りつくせるものではない。その人物が生きてきた過去を飛び越え未来まで話そうと思えばいくらでも話せる。
まるで記憶の小旅行だ。だから父さんの旅は続いている。僕たちが父さんを覚えている限り。
他人の心の中は覗けない。誰にも窺い知ることができない。でも無限の宇宙の下で繋がっている。それでいい。皆いずれ知ることになる。化学は知らない宇宙の謎だったり、人間の存在だったり、深い感情や心だったり。
まだ誰も知らない。それでも明日は来る。そうやって僕ら人間は生きている。生きていく。
この先もずっと。
ご覧いただきありがとうございました。どうでしたでしょうか。次回作もまた読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
(次回:月子の過去)




