第五話:対話とは誰とする?
人と人は対話でしか分かり合えない。言葉がなくても分かり合える、といった類の話ではない。
対話とは無でもできる。でもそこには何らかの熱量が生じている。死人と語り合えるか。きっとできるはずだ。語りたいという熱量があれば対話はできるからだ。
だが僕はそれをしてこなかった。自分から避けていたのは自分のエゴと、自分と他人を分けている、壁だ。それはきっと僕が作り出した幻影だ。傷つくのが嫌だったり、面倒ごとを避けたかったり…… 。理由は多々あれど、人間を理解するのが面倒くさい。
人間はそこら中にいる。天体だって夜空を見上げても見上げなくても天上にいる。みんなを見ている。だから甘んじる。僕はずっと昔から人と話すことを避けてきた。それは自分と話すことを避けてきたともいえる。
そう、月子を見ていて気づいたということだ。
中間地点が見えてきた。
「アポロ!遅いわよ。早く早く! 」
先に到着していた月子と教授は手を振り、教授は
「月子、アポロ君をせかしては駄目だ。それぞれのペースで登るのが山だ。人生みたいなものだよ」
と諭した。
深いこと言うなぁ、と僕は思った。一般人が同じことを言ってもきっと心には響かない。多くを経験してきた鈴宮正道教授だからこそ説得力がある言葉なのだろう。
しかし月子はまだ不満げだ。
「どうしてそこまで頂上まで行きたいの? 」
僕はそっと小声で尋ねた。すると月子は同じく小声で
「実は青空山岳には昔一度家族で来たことがあって……」
「ふぅん」
月子は続ける。
「その時はお母さんもいたんだけど・・。頂上にたどり着く直前で雷雨になったのよ。それで引き返して……」
「そうだったんだ」
「うん。それでお父さんがものすごい剣幕で私たちに謝ったの」
「謝った? 」
「そう。山の天気を読めずお前らを危ない目に合わせてごめんって」
だから鈴宮教授は山や山の天気に関して厳しいのか。
「だったらなおさらお父さんの言うことを聞くべきじゃないのか」
「うーん、もーアポロまでお説教する気? 」
「いやそういうわけではないけど……」
僕は
「でも月子がお父さんの事大好きなのは見ていてよくわかるから。月子もお父さんをもう心配させたくないでしょ」
と言った。それに対して月子は
「もちろんよ。私のせいでお父さんを困らせたくない」
「なら、なおさら。途中まで登れただけでもよしとしなきゃ。ね?」
月子はやっと納得した様子で
「わかったわ」
と言った。そしてこう続けた。
「まったく。アポロには叶わないわ」
閲覧ありがとうございました。このお話を投稿し始めて10日目です!とても楽しく書いています。今後もよろしければ読んでください!
(次回:僕がやりたかったこと)




