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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第二章:山と天体観測
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第三話:鈴宮正道

 天体観測当日。朝はあいにくの雨模様だったが、昼過ぎごろから晴れ間がのぞいてきた。晴れてきて本当によかった。

 月子と学校の正門前で待ち合わせ、そこから現地へ向かう。月子の父親、正道教授は参加者の人数確認や天体観測の準備などをしているため、先に現地へ到着しているそうだ。


 僕は朝から時間を持て余していた。寒いため浴室を温めてシャワーに入り、髪を乾かしお気に入りのネルシャツを下着の上に羽織り、パーカーのジップを上げたら、その上に着る予定のジャンパーを用意する。それはつい最近まで一人で天体観測をしに行くときに着ていたお気に入りだ。

 天体観測なんて言っても本格的に望遠鏡を使用するような大それたものではない。ただふらりと夜に外へ出かけて、人のいない公園などで星を見上げる。それだけだ。


 でもそんな行動で驚くほど心が安らぐ。温まる。冬の寒い時期により一層輝きを増す星空。昔はなんでこんな季節に星はきれいに見えるんだ、なんて揶揄っていたが。今はそれもいいな、と思える。

 寒い時期だからこそいい。星々はみなひしめき合って見える。一つひとつの距離は近いようでものすごく離れているんだ。


 そんな遠くの星々同士は会えることはないだろうが、それでも星座という名を与えられ、神になっている。地上の人間という生き物の、頭という宇宙の中でそんな出来事が起こっているのだなんて、星々は驚くだろう。いや、きっと知っていたのだろう。人間は神様に作られた存在なのだから。


「くだらない」


 とみんなはいう。昔からそうだった。僕をいじめて心を砕いた人たちも、神様はいない、お前がおかしいと決めつける。それでもやっぱり神はいる。僕の心の中にもやっぱり神はいたんだ。それがくじけない心という存在だ。心が神様なんだ。

 なんとなくそう思った。


 校舎の前で月子は待っていた。まだ集合時間の15分も前だというのに、寒さに凍えながら両手をこすり合わせ、息を吹きかけていた。この調子では手袋は持ってきてはいないだろう。ベタだなあ、とドラマや漫画のシーンを思い浮かべ、僕は月子の名を呼んだ。


「おーい月子! 」


 月子は少し安堵の表情を交えた笑顔を見せた。それが今日という日を待ち望んでいたという一番の合図だ。


「お待たせ。遅くなってごめんね」


「いや、まったく。というか集合時間15分も前だよ」


「それでも待たせてごめん。寒かったでしょ」


 そう言って待ち合わせ前に自販機で買っておいた缶紅茶を手渡す。


「ありがとう」


 月子は満面の笑みだ。そんな彼女とゆっくり話しながら目的地まで歩き出した。


「ねえ、アポロってモテるでしょ」


「うん、まあね」


「そんなこと、言えるなんてな~。くやしーー! 」


「ふふ」


 そんなことを、本当に他愛ないことをいつも僕たちは言い合って笑う。それが印のようなものだ。それは二人をつないでいる友情と言う名前の目印だ。


「あのね。今日は私のお父さんが来るの。誘った時言ってなくてごめんね」


「いやいや。パンフ見たし知ってるよ。全然いいよ」


 こう続けた。


「むしろ光栄だよ。月子のお父さんって大学教授でしょ? こんなイベントのゲストで呼ばれるなんてよっぽどすごい人じゃない」


 そう言ってほほ笑むと月子は少し照れくさそうにえへへ、と笑った。


 そうこうしているうちに僕らは集合場所に到着した。辺りには天体観測に参加するのであろうジャンパーを着こんだ人々が、がやがやと暖を取るようにかたまっておしゃべりしていた。月子は周囲を見渡して、父親を捜しているようだった。僕は周囲の様子をもう少し確かめたくて月子から離れようとした。すると月子は


「お父さんのこと探してくるからちょっとそこで待ってて! 」


 と言って僕を引き留めた。


「ぜったい、動かないでよ。こんな人が多いとはぐれちゃうから」


 月子はそれだけ言い残すと遠くの方に消えていった。一人にされた僕は仕方がないから持ってきた水筒の蓋を開け、母さんが用意してくれた紅茶を飲んだ。とても温かい。僕は昔から砂糖をたっぷりとかしたレモンティーが好きだった。母さんは僕がいらないって言っているのにカバンに押し込んで


「はい。これはお友達の分ね」


 と言って笑った。月子の分まで持たされた水筒はずっしりと重く、飲みきれない程の量だった。もう僕は高校生なのに、こんな砂糖のたくさん入ったレモンティー、もし僕に甘党の彼女がいても、その彼女ですら飲まないだろう。でも久々に飲んだそれは驚くほど美味しかった。

 しかしさっき缶紅茶よりこれを渡せばよかった、と後悔した。そうするときっと月子は甘すぎ! とはしゃぐだろう。


 僕は辺りを見渡すと、さっきまでがやがやしていた年配のおじさんやおばさん、家族連れが少し静かになったのを感じた。そろそろイベントが始まるのだろうか。それにしても月子は遅い。もうかれこれ15分は経っているのに、鈴宮教授は見つからないのだろうか。


 その時


「やあ」


 と背後から声をかけられた。振り返るとそこには背筋をピンと伸ばした白髪男性が立っていた。


 ご覧いただきありがとうございました。どうでしたでしょうか。昨日は更新しなかったのですが、投稿頻度はこの先ゆっくりと決めていきたいと思っております。


最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もよろしければ読んでください。よろしくお願いいたします。

(次回:山を登るということ)

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