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月守アポロの鬱屈  作者: 美水
第二章:山と天体観測
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第一話:母さんとの会話

帰宅後食卓で、母さんが僕のことを心配したように話しかけてきた。


「アポロ。何か悩んでいるの? 」


といった具合だ。発端は僕の帰って間もない独り言だった。


「みんな何のために生きてるんだろう……」


普段より少し大きな声だったからか、母さんには聞こえていたようだった。母さんと僕は普段より同じ食卓を囲み、夕食をとっている。パートタイマーをしている母さんとゆっくり話すことができる唯一の時間だ。そのため僕は夕食をとっている時間がとても好きなのだ。


しかし、自分が憂いた独り言を呟いていることにも気づかない程、今日の僕はボーっとしていた。

僕は漠然とした不安や、人を愛すことへの疑問を母さんに話した。すると


「寂しい人生なのね」


母さんはそう言った。


「どうしてそう思うの? 」


「だって、アポロは今まで誰にも愛されたことがないって言ってるようなものだもの。母さん心配しちゃうわ」


母さんは真剣な話をしているのに少しおどけた口調で


「情けない」


とでも言いたげな誇張された顔を貼り付けそう言った。僕はこう言い返す。


「何を言っているんだよ。僕には何も必要ないよ。人なんて所詮他人さ」


「まーた、自分がいればそれでいい、だなんて。母さん寂しいわよ。息子をそんな風に育てた覚えなんてないわよ」 


「ったく……」


母さんは非常に素直な性格だ。あけすけすぎて周囲を驚かせる。小学校の頃、参観日に


「アポロ~、母さん見てるよ! 」


と大声で叫びそれが階をまたいで、上の学年の教室まで聞こえたことがある。

それがまたよく響くのだ。正直言うとかなりうるさい。他の親は黙って見ているというのに。母さんは子供に何か励ましの言葉をかけたかったのだろう。しかしそのせいで瞬く間に


「アポロの母さんはうっさい」


と言う噂が学年中に流れてしまい僕は恥ずかしい思いをした。


しかし口うるさい、というわけではない。話し声や笑い声が規格外なほどうるさい、ということだ。全く自分の親だと到底思えないほどに大きい。僕とはまるで別人種だ。


「いや、僕には神様も星もいるよ。ただ人を信じられないってだけ」


「それがいけないわよ。人なんてみんないい人ばっかりよ。だから助けないとだめって昔から言ってるでしょ?」


「でもそれは神のためでしょ? 神の意志に背いてはだめ。天体も僕のこと、見張っているんでしょ? 」


「はあ……」


と母さんはため息をひとつ漏らした。


「あのね、それは一つの例え話。私は息子にまっすぐに正しく育って欲しかっただけ。それなのにこんなに捻くれてしまうなんてね……。母さん育て方間違えたかしら? 」


左手を顎に当て、大げさに首を傾げる動作をした母さんをよそ目に、僕はいらだっていた。母さんの言うことを素直に信じてしまっていた、あどけなくまっすぐな幼い日の自分がかわいそうだ。だいたい母さんも神様を信じているではないか。僕をこのように捻くれた性格にしたのはどこの誰か。


「母さんは僕にもっと人を信じろってこと? 」


「そうよ。私は人の可能性を知ってほしいだけなのよ。人は簡単に自分を裏切るような……そんな、くずばかりじゃないってね」


「はあ? 綺麗ごと言うなよ。僕が他人の事信じられるはずないだろ」


言い返した僕に母さんは怪訝な表情を見せた。僕は面倒くさくなって


「もう知らないよ」


と自室に上がり扉を閉めてしまった。自分でも大人げないとわかっていたがなぜかむしゃくしゃしていた。


その日、僕は母さんのいる一階のリビングに降りることはなかった。人なんてどうだっていい。他人もこの世界の不条理もすべて、僕には関係ない……。そのように解釈できればどれほど気楽なのだろうか? 僕にはそれが出来ていない。だから僕は生きることが辛い。


翌日になると僕の機嫌はすっかり直っていた。いつも通りの日常。良い睡眠をとることが出来、いつも通りの朝がやってきたからだ。なんの代わり映えもしないこの感じ、別に嫌いではない。


ただ今日も何も起こらないのだろうな、という安堵感が漂う朝はむしろ好きなのだ。退屈な日々、飽き飽きする日々をこよなく愛している。スリルが足りないから何かを求めよう、だなんて一ミリも思わない。


だからどこかに出かけようとも思わないし、人と群れてやれゲーセンだやれカラオケだ、などとほっつき歩くつもりもない。そんな平々凡々な男子高校生のまま成長し、大人になっても何を極めるでもなく、ただ心に実直に生きて死ねるのなら本望だ。他に何の富も名誉も望まない。


「おはよう」


後ろから声をかけられる。月子だ。


「鈴宮さん、おはよう」


僕はすっかり月子と顔なじみになった。それに理由(わけ)あってか月子のまわりにいると不思議と人が寄ってくるのだ。


「おっす、月守」


クラスメイトの藤田が手提げカバンで背後から僕のお尻を叩いた。


「いてっ」


僕は反射的に声をあげる。


「鈴宮さんもはよーっす」


「おはよう」


藤田真司(ふじたしんじ)は間延びした顔の男子生徒で剣道部に所属している。こいつは月子のことを好きで狙っているからわざわざ僕に先に絡んでくる、非常に面倒なクラスメイトだ。


「ごめん僕急ぐから」


そう言って足早に立ち去る。しかしこの展開を藤田は待っているのだ。


「鈴宮さん、おれこの後剣道部の朝練習なんだけど、鈴宮さんはなんか用事あるの?」


「用事って・・・。私は学級委員だから朝ホワイトボード拭きとか靴箱の整理とか持ち物チェックとかいろいろあるけど」


「そうなんだね。じゃあ朝は難しいんだねー」


「何が? 」


「いや、おれこの後剣道部の先輩と試合する予定なんだよね。それ見に来てほしいなーって」


「あっそうなんだ。でも私さっき言ったとおり用事あるから。ごめんね。また今度」


「けっ」

 ご覧いただきありがとうございました。どうでしたでしょうか。文章量に関しては色々と思案しながら進めていこうと思っております。

最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もよろしければ読んでくださいね。よろしくお願いいたします。

(次回:月子からのお誘い)

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