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第八話 今日の依頼完了!

 流石に途中からシルバを起こして、私の護衛という本来の役目につかせた。

 うん、後で頑張っているスラちゃんに一言言っておこう。

 こうして、夕方まで多くの冒険者の治療を行った。

 やはり夕方からは怪我をした冒険者が多く、その分回復魔法の勉強にもなった。

 失礼なことを言ってくる冒険者もいたが、全部おばちゃんが叩き出していた。

 うん、間違いなくシルバよりも護衛になっている気がする。

 そして、医務室が閉まる時間となった。


「いやあ、リンちゃんが来てくれて本当に助かったわ。いつもはポーションや生薬で対応しているから、とても効率が悪いのよ」

「確かに、たくさんの人が来ると対応しきれなくなりますね」

「そうなのよ。時々、『自分でポーション飲んで!』っていう時もあるのよ。報酬を酒代に使ってばっかりいるから、ポーションとか買えなくなるのよね」


 おばちゃんの愚痴が止まらなくなっちゃうので、話しかけるのはこのくらいにした。

 それでも、多くの人を治療できて私としてもとても満足していた。

 満面の笑みのおばちゃんと別れて、私は再び受付に向かった。

 すると、エレンさんのところにスラちゃんもいるのが見えた。

 あの様子だと、スラちゃんもとても頑張ったみたいですね。

 私は、魔法袋から冒険者カードを取り出してエレンさんに手渡した。


「それでは、これから手続きを行いますね。スラちゃんもとても頑張ってくれたから、特別報酬が出ていますよ」


 わあ、スラちゃん凄いなあ。

 ちょっとドヤ顔しているところも可愛いし、シルバも凄いと熱い視線を送っていた。

 ところが、ここでちょっとした事件が起きてしまった。


「ふふ、シルバちゃんもお仕事頑張ったかな?」

「ウォン!」


 なんと、ここでシルバがエレンさんに「僕頑張りました!」って張り切って返事をしたのです。

 うん、これは一言言ってやらないと駄目ですね。


「スラちゃん、シルバは仕事頑張ったって答えていたけど、実は六割は熟睡しているだけだったのよ」

「ワ、ワフッ……」


 私の報告に、スラちゃんは信じられないという表情でシルバを見ました。

 当のシルバはサッと顔を横に反らしたけど、まるで滝のような汗をかいていた。

 それだと、もうずっと寝ていたと自白したようなものだよ。

 そして、トドメの一言がかけられてしまった。


「エレンちゃん、リンちゃんは凄腕の治癒師だね。教会や軍の治療施設での治療も問題ないよ。あと、シルバちゃんは今度は起きていようね」

「ワ、ワフッ……」


 医務室のおばちゃんが、ニコニコしながらシルバの頭を撫でていた。

 おばちゃん自身は悪気があって言っている訳ではないのだが、改めてシルバが寝ていたことがバレてしまったのだ。

 そして、スラちゃんの怒りが爆発してしまった。


 タンタン、タンタン!


「キューン、キューン……」


 スラちゃんは受付から床に飛び降りて、触手で床を叩きながらシルバに説教を始めていた。

 シルバはお座りのポーズから頭を項垂れていて、ごめんなさいとキューキューと鳴いていた。

 時々シルバがチラリと私のことを見て助けてと訴えているけど、今日はこのまま反省して下さい。

 しかし、フェンリルがスライムにガチ説教されているなんて中々ない光景だなあ。

 周りにいる冒険者も、二匹の力関係の構図を見てクスクスとしていた。


「では、リンさんは治療施設での対応可として登録しておきます。ちょうど明後日に教会での奉仕活動のヘルプが来ておりますので、リンさんを指名したいのですが如何でしょうか?」

「ぜひ宜しくお願いします。指名して貰ってありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ優秀な冒険者さんにはガンガンと依頼をこなして欲しいという思惑もありますので」


 その間に、私はなんと指名依頼を受けていた。

 仕事でこんなにワクワクするのって、本当にいつ以来だろうか。

 報酬も貰ったがどのくらいのものかが分からないので、実際にお店に行って確認してこよう。

 あっ、大事なことを聞くのを忘れるところだった。


「エレンさん、どこかお勧めの宿はありますか? できれば、女性が泊まっても大丈夫なところがいいです」

「それなら、この冒険者ギルドから数軒先にある『ヒグマ亭』ってところが良いですよ。元冒険者の夫婦が営んでいて、とてもアットホームな感じです」


 宿の名前はともかくとして、冒険者ギルドがお勧めするのならきっと大丈夫なはずだ。

 色々と揃えないといけないものもあるけど、この後は宿を取ることを優先しないと。

 流石に野宿は危険すぎる。

 ということで、まだ怒っているスラちゃんと怒られて涙目のシルバに声をかけた。


「じゃあ、これから宿に向かうよ。それと、この後何かしたらシルバは夕食抜きね」

「アゥン……」


 バタリ。


 何よりも食事抜きの罰になる可能性が応えたのか、シルバはパタリと倒れてしまった。

 シルバは食いしん坊だから、この後頑張ってリカバリするように。

 スラちゃんがシルバを起こして頭に乗り、私の後をついてきました。


「うーん、だいぶ長居していたんだ」


 冒険者ギルドを出ると、空は既に夕暮れのオレンジで染まっていた。

 家路に急ぐ人も多く、また飲食店にも多くの人が入っていった。

 そんな町並みを歩いていくと、確かに数件先に「ヒグマ亭」という看板が出ている宿があった。

 宿に入ると、恰幅の良い見事な顎髭を蓄えた中年男性がカウンターにいた。


「すみません、部屋をお願いしたいんですけど。この子もいるんですけど、大丈夫ですか?」

「おっ、でっかいオオカミを連れているな。素泊まりと夕食付きってのがあるぞ」


 料金プランと手持ちの所持金を確認したけど、先ほどの報酬額が結構凄い金額って事が分かった。

 なんと、夕食付きプラン二週間分だった。

 特殊な依頼だったとはいえ、冒険者ってそんなにもお金を稼げるのかと知ってかなりビックリした。

 とはいえ、手元にお金を残したいのでここは余裕を持って対応しよう。


「夕食付きを一週間お願いします。前金で払います」

「おっ、気前がいいな。風呂は無いから、町の銭湯を使ってくれ。今、鍵を用意するぞ」


 私は生活魔法を使えるので、直ぐに銭湯に行かなくても大丈夫。

 たまにはお湯に浸かってゆっくりしたいけど、前世だとシャワーで終わりにしていた生活が続いていたんだよなあ。

 部屋の鍵を受け取り中に入ると、シンプルなベッドとテーブルが置いてあるだけの部屋だった。

 荷物は魔法袋に入れるから殆ど無いに等しいし、何よりも前世だと寝に帰っていただけだからベッドがあれば十分。

 部屋の鍵を閉めて食堂に行くと、ちょうど夕食の時間だった。

 冒険者や旅人も混じっているけど、思ったより人の数は少なかった。


「はい、お待たせ。素泊まりの人も多くて、町のお気に入りの居酒屋に行ったりしているのよ」

「あっ、ありがとうございます。そういう人もいるんですね」

「特に冒険者に多いわね。女性や旅人なんかは、安全のために夕食付きのプランを選ぶわ」


 背の高くてスタイルの良い青髪ロングヘアのおかみさんが、肉料理とパンにスープを持ってきてくれた。

 泊まる人によって、食事の取り方も違うんだ。

 すると、おかみさんが小さなお肉を焼いたものを皿に乗っけて持ってきてくれた。


「はい、大きなワンちゃんにもあげるわ。捨てる予定の端肉でごめんなさいね」

「あの、わざわざすみません。ありがとうございます」

「ウォン!」


 まさかのお肉の登場に、シルバは尻尾をぶんぶんと振って超ご機嫌です。

 おかみさんの手前駄目とは言えないので、そのまま食べさせてあげることにした。

 そして、料理もとても美味しかった。

 肉汁が溢れだし、ニンニクがガツンと効いたソースと相まって、久々にお肉を食べたって感じだった。

 スラちゃんにお裾分けしたら、スラちゃんも大絶賛だった。

 やっぱり栄養ドリンクとかじゃなくて、こういう美味しい料理が明日への活力になるんだね。

 大満足の夕食の後は、部屋に戻って早めに休むことにします。


「ほら、シルバもスラちゃんも寝る前に生活魔法をかけるよ」

「ウォン!」


 シュイン、ぴかー。


 やっぱり生活魔法が使えるのはとても便利です。

 お湯を貰って体を拭く人が多いらしく、洗濯もお金を払ってお願いしないといけないらしい。

 その点生活魔法は体も服もいっぺんに綺麗にするので、そういう手間も不要です。

 そして、ベッドに入るとあっという間に眠気が襲ってきました。

 前世の事件から寝るまで、本当にあっという間だった。

 でも、この世界も悪くはないなと、そう思うことができた。


「グゴー、グゴー」


 因みに、シルバは床に丸くなって豪快ないびきをかいていた。

 日中も寝ていたのによく寝れるなと、そう思った。

 スラちゃんは、枕元で大人しく寝ています。

 一人じゃないってのも久々だなと思いつつ、私も眠りにつきました。

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