第四話 王都に到着
ここで一つ問題が生じた。
というか、根本的な問題だった。
そこで思い切って、大きなオオカミに質問してみた。
「あの、つかぬことをお聞きします。ここから町に行くにはどうすればいいですか? この辺りの地理が全然分からなくて……」
「この森はこの国の王都にほど近い。子どもに乗れば、直ぐに王都に出る。詳しくは、スライムに聞くことだ」
あっさりと回答してくれたけど、これで何とかなりそうだ。
シルバが早く乗ってくれとキラキラした目で訴えていたけど、その前に私は魔法袋から紐を取り出して髪をポニーテールにした。
このままシルバに乗ると、髪がバッサバッサと凄いことになりそうだ。
改めてシルバに跨り、オオカミたちにお礼を言った。
「色々とありがとうございました」
「うむ、お主も達者でな。また会おう」
「「「アオーン!」」」
手を振りながら挨拶をすると、オオカミたちも返事を返してくれた。
そして、私はシルバの毛を掴んだ。
抜けにくいから、思いっきり掴んでも問題ないという。
更に、両足でシルバの胴体を挟み込むようにして落ちないようにした。
「じゃあ、シルバお願いね」
「ウォン!」
シルバが一鳴きすると、一瞬にして景色がブレた。
私が想像していた以上に、かなり速い速度で森を駆け抜けていった。
まるで木が私たちを避けるようにシルバは木々の間をすり抜けて行くのだが、私は落ちないようにしがみつくので精一杯だった。
そして、一時間ほど森の中を進んでいき、遂に街道に出たのだ。
「ハッハッハ!」
「あっ、ありがとうね。でも、ちょっと休ませて……」
シルバは無事に任務完了したと満足そうにしていたけど、私はずっとシルバにしがみついていたので全身の筋肉がパンパンだった。
シルバの頭の上に乗っていたスラちゃんもちょっと疲れたのか、木に寄りかかって休む私の胸元に飛び込んできた。
シルバも私の横に座ったので、軽く頭を撫でてあげた。
気持ちよさそうにしている様子を見ると、シルバも人懐っこい大きな犬って感じですね。
そして、スラちゃんは街道のどちらに王都があるのかを教えてくれた。
スラちゃん曰く、シルバという手のかかる弟を面倒みているそうです。
十分に休憩が取れたところで、今度は歩いて王都に向かいます。
「うーん、お天気も良くて風も気持ちいい。こんな自然の中を歩くなんて、本当に久しぶりだなあ」
前世はコンクリートジャングルと言われる都会でひたすら働いていたので、自然と触れ合うこと自体久しぶりだった。
電車の中から景色の移り変わりを眺めることしかしていなかったので、緑あふれる木々を見ながら歩くととても癒された。
こうして更に歩くこと一時間、遂に王都の町並みが目の前に広がってきた。
「わあ、まるで中世ヨーロッパの町並みだ。しかも、結構大きな防壁が並んでいるなあ」
「ウォンウォン」
私だけでなく、シルバもびっくりの光景だった。
石造りの頑丈そうな防壁が高く長く建てられていて、門もとても大きかった。
門からちらりと見える町並みも石造りと木造の住宅が立ち並んでいて、思った以上に文明が進んでいると感じた。
門では兵による検問が行われていて、兵の装備も検問を受ける人の服装もキチンとしていた。
荷馬車や豪華な馬車も見受けられ、人々の楽しそうな声も聞こえた。
そんな中、私たちも検問の列に並んでいた。
「ねーねー、おっきいワンちゃん触ってもいーい?」
「大丈夫だよ。でも、叩いたりしないでね」
「はーい」
途中で小さな子どもがシルバのことを撫でたり抱きついたりしたけど、小さな子どもに悪意がないのが分かっているのでシルバも大人しく撫でられていた。
子どもは、珍しいのが大好きですね。
しかも、シルバの頭の上に乗っているスラちゃんもなでなでしていた。
何だかほっこりする光景に、とっても癒されていた。
しかし、私の順番になって突如兵がざわめき出した。
「はい、次のひ……フェ、フェンリル!?」
「えっ、シルバのことですか?」
「お、おい。応援を呼んでこい!」
シルバを見た兵の表情が変わり、突如多くの兵が現れて囲まれてしまった。
突然のことで、私もシルバもスラちゃんもとても困惑してしまった。
「あっ、あのあの、シルバが何かしたんですか?」
「ウォン……」
「したというか、存在自体が問題というか。とにかく、別室に来てくれて」
ということで、私たちは兵に囲まれながら門を通って兵の詰所に連れてこられた。
その間、シルバはしょんぼりと項垂れながらついてきた。
私とスラちゃんは、歩きながらシルバは何も悪くないよと頭を何度も撫でていた。
そして、取調室みたいな部屋に通され、椅子に腰掛けた。
机を挟んで対面に兵が座った。
門で会った兵とは違い、無精髭を生やした指揮官っぽい人だった。
すると、兵は淡々と私に話しかけてきた。
「まず、簡単に自己紹介と王都に来た目的を言ってくれ」
「あっ、はい。私はリンです。十五歳で、治癒師として冒険者になるために王都にきました。そして、オオカミのシルバとスライムのスラちゃんです」
「ふむ、なるほどね。回復魔法が使えて、冒険者になるためっと」
兵は紙にメモを取りながら質問していた。
事務的な感じもするけど、いわゆる聴取中だから仕方ないのかもしれない。
シルバも伏せの状態で私の側にいるけど、何だか不安そうな表情を見せていた。
「それで、このオオカミとはどうやって出会った?」
「森の中で出会いました。シルバの親が怪我をしていたので治療していたら、私に興味を持ったシルバがスラちゃんとともについてきました」
「森で出会ってついてきた、っと」
カリカリと淡々とメモを取っているけど、この先私たちはどうなるのだろうか。
段々と私も不安になる中、机の上でぴょんぴょんと跳ねているスラちゃんだけは大丈夫だと言ってくれた。
「エーッと、リンの家族構成は?」
「私一人です。両親は幼い頃に事故で亡くなって、代わりに育ててくれた祖父母も病気で亡くなりました」
「ふむ、親類は無い状態っと」
何だか、人のプライベートまで突っ込んでくるようになってきた。
段々と答えにくいことまで聞いてきたので、私も答えづらくなってきた。
前世で警察の職務質問とかを受けたことがないから分からないけど、ここまでの質問をしてくるのだろうか。
そんなことを思っていたら、取調室に一人の男性が入ってきた。
白色に金の装飾の施された鎧を身にまとっていて明らかに周りの兵と装備が違うのだけど、容姿も違っていた。
長身の金髪サラサラヘアで、甘い顔立ちも合わさってか「ザ王子様」って感じだった。
まさに、信じられないレベルの美男子だった。
その男性が部屋に入った瞬間、兵の雰囲気がピリピリとし始めた。
「な、なぜこの場にルーカス様が……」
「フェンリル連れの少女が現れたとなれば、お前たちでは判断できないだろう。だから、こうして私が来たのだ」
聴取をしていた兵が直立不動のまま敬礼をしているけど、見た目もさることながらこの男性は軍の偉い人なのだろう。
それも、ちょっとではなくかなりだ。
そして、男性は聴取結果が書かれている紙を手にして、そしてため息をついた。
「言いたいことは多々あるが、今言っても仕方ない。後は私が聴取を行う」
「はっ……」
聴取を行っていた兵は、かなりバツの悪そうな表情をしながら取調室を出ていった。
やはり、私に質問していたことは良くなかったのだろう。
ただ、聴取を行う人が代わっただけでまだ状況は改善していなかった。