第一章:なんか知らない人が尋ねてきたの巻
どうもー、80年前の戦争で生まれた妖機刃っていう武器を回収して封印する『封刃師』の中でも最カワ銀髪美少女の美上珠乃ちゃんなのですけど、
「で、キミ誰さん?」
今日も仕事で廃病院の心霊スポット半壊させてたら、なんか知らない気配が一つ。
────半壊した、この放射線科の部屋の入り口、
もう閉まらない扉の影から現れる一人。
妙な女の子だった。
なんで女の子かわかったかって言うと、まぁ結構体型出てる服なんだ、露出ないけどさ。
────デザイン違うだけで私の着てる特殊な服と同じ。
妙な女の子だった。黒い、明らかにこっちと同じ様な蒸れて切るのが嫌な戦闘服の。
で、何が妙って、襟で顔の下半分隠してるその目と髪。
褐色気味で、青い目で、金髪。
染めたせいで根本が色変わるプリンみたいなやつじゃあない、地毛の金髪。結構癖っ毛フワフワな感じ。
「妙な女の子が出てきたもんだねぇ?
明らかに関係者だ。私らの組合の会報誌には顔載ってない気がしたけど」
さて、此処まで説明してあげたんだ。
どうリアクションする……?
「…………封刃師とお見受けする」
最初の行動は、一礼。
綺麗な日本語で、静かに頭を下げてそう声をかけてきた。
「そ。一応封刃師な美少女の美上珠乃ちゃんだぞー?
君は誰さん?」
「…………アンナとだけ名乗らせてもらう」
「ちゃんと名前を教えてくれるとは丁寧な人だね。
刃守か」
静かに、何も答えないアンナちゃんとやら。
どーしよ、否定も肯定も無いってことは、肯定してるって意味じゃんよ?
私の喰霊をはじめとした、旧日本軍の魔改造妖刀兵器の『妖機刃』。
それを、戦後守り続けている一族にして使い手の総称、それが『刃守』。
まぁ私も広義の刃守ってヤツだね。
少なくとも、こんな中二病全開コスプレみたいな服着てたら多分『刃守』でしょ。聞くまでも無い。
聞いたのはあくまで、反応の確認のためだよーん。
「……こうして会ったのは、頼みがあってのこと」
と、アンナちゃんとやらは顔を上げて私をまっすぐにその青い瞳で見つめてくる。
「あらまぁ、何かな?」
「────そこに転がる妖機刃を渡してほしい」
それは中々凄い頼み事だった。
「…………まず、その頼みを聞くかどうかの前に、一つ周りを見てほしいんだ」
私は、このとんでもない頼み事をしているアンナちゃんとやらに、この悲惨な事になっている元放射線科のレントゲン室を指で人なぞりするように見せる。
あ、視線は一瞬しか逸らさない。中々戦闘慣れしておられる。
「この、廃墟とはいえコンクリと鉄筋の塊に、月も見える様な切り傷……いやレーザー傷を付けたのが、そこの『眼魔』の力だ」
《ははは……やりすぎて力もしばらくは出ないがね……》
床に転がる、奇妙なライト付き剣な妖機刃、眼魔を拾い上げて、アンナちゃんに掲げて見せる。
「───渡しても良いけど、最後は返す事。
そして、ちゃんとこの出来る美少女封刃師の珠乃ちゃんに、使用目的ぐらいは話す事。
最低限それぐらいは約束して貰わないと、こんな核爆弾並みに物騒な物、渡せないでしょ?」
鋭く、アンナちゃんの青い目を見て言う。
「ッ…………言えることは、極めて個人的な決着をつけるために、その核兵器が必要なんだと言うこと。
返す約束ができる。だが……時間がかかるかもしれない……!!」
「………………」
襟の下の表情がずいぶん苦しそうだねぇ。
嘘はついてない。隠し事があるとは正直に言う感じかね。
「…………こんなことを言うヤツに誰が貸すかってことは分かっている。
だが……たとえ力づくでもそれが必要なんだ……!」
「………………」
「そうだ……たとえ力づくでも!!」
相手が、腰から武器を抜いたのが見えた。
二つだ。二つの妖機刃。でも形は同じ。
なんとまぁいわゆる全体の名前に反した、リボルバー型の銃だった。
左右の手に一つずつ、銃型の多分妖機刃をこっちに向けてきた。
なので、私は大人しく眼魔のなんかライフルっぽい柄を向けてアンナちゃんへ差し出した。
「───は?」
「貸してあげるよ。というか、君すでに刃守なのに他の妖機刃使えるの?そこは心配だけど。
ま、条件は3つに変更ね。
最後は返して。理由は詳しく話してもらうのと、」
私が懐から何かを取り出した瞬間、罠かみたいな目で迎撃をしようとするアンナちゃん。
まぁでも、取り出したのは私の携帯電話だけど。
「!?」
「連絡先ぐらいは教えてよね?
携帯電話持ってないとか言わないよね?」
「…………!?」
***
その後、紆余曲折あって私とアンナちゃんは外に出ていた。
ここで話すのもマズいのか、アンナちゃんをとりあえず家に連れて帰るために。
「銀次さーん!遅れてごめんー!」
外の荒れた道路の近くには、ゴツい4WDな車と、まさにそんな車に乗ってそうな体格の良い厳ついグラサンのおじさんがタバコを吸っていた。
今夜なのに相変わらずグラサンなんだよね……
「どうやら、終わったみたいで。
怪我ないかい、珠乃ちゃん?」
「まぁね。後変なお客と、情報通りの妖機刃回収したよ。
というか、銀次さんほどの人がこんな可愛い侵入者を見逃すの?」
ふと、銀次さんはタバコを携帯灰皿で消しながら、アンナちゃんにグラサン越しに視線を向ける。
一瞬、アンナちゃんとの間に剣呑な空気が流れた。
「見逃した訳でもねぇんだ。
ただどうも、前職で見知った顔だった様な気もして見逃してやったのさ。
どっちにしろこうやって挨拶が出来るだろうしな」
「…………公安か」
アンナちゃん、まさかの見た目からの答えの定番、ヤクザ以外で銀次さんの職業を一発正解。
私だって最初ヤクザって思ってたのに!
「どうも。公安警察の言えない部署のお巡りさんです。
銀次って呼んでくれやお姉ちゃん」
「……偽名にしたって、その筋に寄せすぎだ」
「え、偽名なの?」
ガッハッハ、と豪快に銀次さんは笑う。
「まぁ何だって良いだろ?
どうせ俺にゃあ、しばらくは警察の席も生きてる記録もねぇ、あの廃墟にいた幽霊と同じモンさ。
それよか、いつもの家で良いんでしょ珠乃ちゃん?
送り迎えでガス代別で給料貰えるんだ、ささ行きましょうや」
なんていう物なので、とりあえず私達は銀次さんの車の後部座席乗って、さっそくシートベルトを閉めて発進するのだった。
…………バックミラーに、多分銀次さんのお仲間の車が数台、続いて後をついて来てた。
「…………封刃師、」
「珠乃ちゃんでいいよアンナちゃん」
「珠乃。眼魔を求める詳しい理由を知りたい、だったな」
数分後、まだ後15分ある道のりで、アンナちゃんは口を開いてくれた。
「…………殺したい相手がいる」
でもって、予想通りの驚きの言葉が出て来た。
「……殺したいなら、包丁とか普通の銃でも良いんじゃない?」
「…………普通なら、そうだろう」
普通なら。
……つまり、普通じゃないって事を言っているんだねアンナちゃんは。
「……確認するけど、殺したい『相手』って言ったよね。
殺したい『人』じゃなくて」
「……察しがいいな」
「…………言っとくけど人殺しはなるべく無しにしたいよ。
面倒臭いし、何よりこっちの銀次さんに迷惑がかかる」
「嬉しいねぇ。確かに殺しは後処理が面倒くさい」
「………………珠乃は、理由を話せばコイツを……眼魔を使っていいと言ってくれたな。
ならばウソはつかないでおきたいが……正直言えば話して納得するかは別だとも思っている」
「ああ、そうかつまりは、
古巣の『不滅教団』の絡みってやつか」
銀次さんの言葉に、アンナちゃんは目を見開いて直後に銀次さんを睨んだ。
「さすがは公安だな……!」
「この案件に絡むと褒められるこちが多くて良いねぇ」
「…………あのね、二人で納得しないで欲しいな。
そりゃ私、喰霊が無いならただの女の子だけど、説明は欲しいよね?
で、どっちから説明してくれる訳?
ここは大人で公安でつまり警察で色々知ってる人から?」
ククク、って笑う銀次さんの番らしい。
「公安ってのはね、この日本の治安を汚い手で守るお仕事なのは知ってるだろう?
いろんな場所に身分隠して潜り込んで、時たま法に触れることもあえてやる。
そんな俺たち公安の仕事の一つに、新興宗教の監視って奴がある。
なんせ、珠乃ちゃんが生まれるずっと前に宗教家がテロをやっちまったもんでね」
そんで持って、と言いながら銀次さんは明らかに見えなさそうで、明らかに見えてる視線でバックミラー越しにアンナちゃんを見る。
「そんで持って、そっちのお嬢さんは俺の仕事場じゃ有名人でね。
新興宗教『不滅教団』。
最近裏の世界のあちこちで悪さしてるわ、王道詐欺まがいの資金調達しているわで有名なカルト宗教じゃあないか?
殺し、敵対教団潰し、随分と武闘派な噂だ。
その不滅教団の殺し屋とあっちゃあ、こっちの持ってる名簿じゃあ上の方に名前も顔も書いてあるのさ」
殺し屋?穏やかじゃあ無いねぇ。
チラリと隣のアンナちゃんを見れば、まぁ静かに銀次さんを睨んでいる。
「……逮捕するのか?」
「そいつはアンタの話次第で、隣の珠乃ちゃんが決めてくれる」
「………………」
「…………荷が重いんだけどー?
警察仕事して?」
「ははは。あいにく、俺たちは銃が効くかどうか分からん相手には無力でね。
そんで?冴島杏奈ちゃんよぉ?
全部話してくれるって聞いたが、当然珠乃ちゃんにも俺が知っている情報も含めて話すんだろうなぁ?」
戯けてるようで、多分視線の見えないサングラスの奥の目は鋭いんだろうな。
やっぱ、怖いね。大人の凄み。
「…………どう説明しようか迷っていた。
言ってくれて感謝する」
そんな相手に対して、アンナちゃん分かりやすいチクチク皮肉を返していた。
そして、視線を私に移す。
……長く立ててた服の襟を外して、意外な程美人な日本人っぽくは無い顔を見せて来た。
「……私は、見ての通り多分日本人じゃ無い。
マザーに聞いた話だと、この県には無いどこかの貧民街で死にかけてた赤ん坊だったらしい。
でも物心ついた頃には日本語で生活してて、思考も言語も日本のものなのは間違いない」
「そっか。まって、マザーって何?」
「私が……殺してさしあげたい相手だ。
大昔は、人間だったらしい」
…………
「不滅教団は、乗っ取られた。
マザー本人は元から人外だが、別にそこの公安が危惧するような危険なカルト宗教じゃなかったはずなんだ。
…………いや、それももう過去の話だ。
今は……アイツのせいで、私もたくさん手を汚してしまった。
それは良い。もう諦めている。
だが……アイツがマザーに今もしていることは許せない……!」
まだ、どう言うことかはなんとなくしか分からない。
ただ、アンナちゃんが相当怒ってるのは分かった。
「アイツってのは、今の教祖か?」
「まって、まず分からないんだけど、
そもそも不滅教団って何よ?やばいカルトってことと、ああ今はね?
そのマザーとか言う偉い人が人じゃ無いこと以外よくわかんないけど?」
「…………マザーは、教祖で、教団を作った人で……
そして、教団の神そのものだ」
おぉ、神様か。
「……驚かないのか?」
「私、神様の知り合い何柱かいるしね。
なんなら、一柱は毎日顔合わせてる」
「あの人……じゃねぇか、あの神様拝んでから俺も健康が良くってね。
おかげで信心深くなっちまったよ」
「というか、口ぶり的に西洋型のカルト宗教ってことか。
この国の神様って妖怪との差が薄いよ?
脅かしてくるから疎まれてるか、気が良いから好かれて祈られて奉れてるかの違い。
私の家の神様もさ、気の良い人だけど……
祟り神だしね、分類で言えば」
なんて、戯けて言う私に、アンナちゃんは意外なほどキョトンとした顔になっている。
「…………そうか」
気のせいか、そう言う顔の険しさが薄れた気がする。
「…………正直、マザーは怪物なんだろうなってずっと思っていたんだ。
マザーは、命を吸って生きている。普通の食事は食べられない。
なのに、味が微妙な食事を私達に振る舞うし、昔私達が作った失敗したクッキーを美味しいって言ってくれた。塩と砂糖間違えてたのに。
マザーは、命を吸う動物相手でも欠かさず感謝するような人柄なんだ。良い人だった……たまに天然で人のことよく分かってないせいで鬱陶しいけど」
そう語るアンナちゃんは、どこか嬉しそうで楽しそうだった。
良い思い出を語る普通の女の子の顔だ。
「不滅教団だって、最初はそんなマザーがただ身寄りのない子や行き場のない人を集めてただ施しをしているだけの物だった。
…………アイツだって、マザーに救われた一人なのになんで……」
でもすぐに、
苦虫を噛み潰したような……怒りというより、『悲しさ』でどうにかなりそうな顔を見せるアンナちゃん。
「……アイツって言うのも殺したい相手かな?」
「……………………正直迷っている」
意外な返答だった。
「許せない事をした。アイツの馬鹿げた計画を止めないといけない。
けど…………たとえもう人じゃなくてもアイツも……」
なんとも苦しそうな声だった。
何というか、得体の知れない女の子が、何か苦しんで潰れそうな女の子に見えた。
「…………アイツの計画は、言ってしまえば教団にもっと力を。
本物の神秘で、今も眠る兵器の……妖機刃を回収しての教団のオカルト武装化……!」
「……いつものパターンか」
「ウンザリするぜ。妖機刃案件は大抵こうだ」
どうやら、アンナちゃんの言う『アイツ』はもう耳にタコできてそのあと治ってしまうぐらい聞き飽きた理由で妖機刃を集めているらしい。
「その過程で、私はこの『犬神』の2丁に出会った。
……コイツらがどれほど恐ろしい存在なのかも、使って良く分かったよ」
アンナちゃんが取り出す、二つのリボルバー型拳銃。
なんか弾が出るところが二つある奴だな……
「…………無口なタイプだ」
《無口だよ、犬神くん達は。
素直な良い子だよ》
喰霊の言うとおり、意志は感じるけどこっちに話しかけてはこない。
喰霊の言う通りの性格なら────こう言うのは厄介だ。
「……直近で、殺しに使った。
今まで使った武器が、人を殺すのには難しい代物だったと思うほど……恐ろしい」
「…………アンナちゃん、刃守の才能あるよ。
程よく仲良しで、恐ろしさが身に染みてる」
「…………だがそれでも、この眼魔も必要だった……
私があそこに行ったのは私の意思だが……封刃師がいるのは予想外だった」
《おや。では今宵の私は女難の相が出ていたと言うわけか》
「運がなかったね、眼魔。
なんでその眼魔が必要に?」
「…………私の敵が、元仲間が妖機刃を集めはじめた時の事前に情報収集を見た。
アイツにとっても不都合な能力を持つ妖機刃のリストの内…………マザーを殺せてしまう妖機刃のうちの一つが、眼魔だった」
「へぇ〜……放射線レーザービーム出せるような妖機刃ならなんでも殺せそうだけどねぇ……」
《自慢ではないが、君の相棒の喰霊でも無ければ勝てる自信はあったのだよ。
レントゲン装置にされた結果、強力な放射性物質という力を得たのでね》
「……喰霊、そう言えばさ。
この話題のマザーとか言う怪物さん、どうも能力似てるよね?命吸うあたり」
《そうかなぁ?僕は血も肉も骨も命もなんでも食べるけど》
「…………マザーはやはりマシな怪物なのかも知れないな」
それは同感。
相棒だけど、喰霊は割とヤバい妖機刃だし。
「…………マザーだけを殺したいのは、何も苦しみから解放させたいからだけじゃない。
マザーの手で人間を辞めた他の皆も、マザーが死ねば連鎖的に死ぬらしいからだ」
「なるほど。
便利な怪物さんだな」
「だから、アイツもマザーを利用したのかも知れない。
…………なんでだ……なんでそんな事を……!!」
ふむ…………
さて、要するにアンナちゃんの目的は『敵討ち』と『死は救いの怪物を救うため』って訳だ。
泣ける話だね。泣けるはないだけど、物騒なもの使うしかないと。
「…………銀次さん、確認するけど、このままだとアンナちゃんは逮捕だよね?」
「そりゃあ、殺人、障害、銃刀法違反。
表の法律だけで、院行きは確実さぁな」
「じゃ、その教団壊滅まで逮捕はまってもらえる?」
「そりゃあ勿論。
俺たちゃ、クマや妖怪殺す手段はねぇからな。
そう言うのはあんたら専門家の猟友会方に依頼するしかねぇんでさ」
「…………じゃ、後は眼魔の意思か」
そう言うわけで私は眼魔に触って、流し込む。
私の力を、いわゆる霊的なパワーを。
なんか、これやる時めっちゃ光るから、アンナちゃんにもガン見されちゃってた。
《ほう、封印を解くと言うわけですか》
「封刃師、妖機刃を封印する者とか名乗ってるけど、要するに私は喰霊のなんでも食べる力で妖機刃のパワーを充電切れそうなまで吸い取ってるだけだしね」
《刺激的で美味しかったです》
「だから、こうやって刺激的で美味しくいただいた分を返せばもう使えるってワケ。
で、眼魔君どうする?
アンナちゃんに協力する?」
この変な形のヤバい武器に、あえてそう問う。
《良いのかね?もう私は自由だ。
第3の選択肢である暴れて逃げるもできるわけだ》
「!
それは困る!!眼魔、お前の力がいるんだ!!」
《ほほう!
…………まぁ、良いでしょう。そちらの封刃師君にも言ったのだが、私は暇なのだから。
しかし、二つも妖機刃を使うとは剛気な、いや目的の為には寿命も惜しくはないと言う様子ですかな?
面白い!
このままどこかにまた安置されるよりはずっと刺激的だ!短い間楽しもうではないか、主殿?》
「じゃあ、さっきの条件で、ホイ」
と言うわけで、アンナちゃんへ眼魔を渡す。
「……!
…………必ず約束は守る。
腹は立つが、そこの警察にも全てが終われば出頭する」
「……じゃあ、後はこっちの仕事の話か。
その例の教団の場所に行くなら、私もいかなきゃになったしね」
「……そうか。封刃師の役目をか」
「よくあることだよ。
宗教を作った頭のおかしい奴の御神体だったことも何回もある。
しかも、アンナちゃんのいる教団が明確に妖機刃を集めているって言うのなら、アンナちゃんが何してようとその教団に私、カチコミ申し上げないといけないんだ」
よし、話は決まった。
「でもまずは、関係各所っていうか、お家帰って『カガチ様』と正太おじさんに相談だ。
後は『刃守組合』に相談して、すぐ呼べる人以外で何人か刃守のみんなに協力も仰がないと」
「俺も、公安としてはそっちの突入に合わせて人員揃えねぇとな。
一斉摘発とは、県警のお上どころか本庁からも色々まわらねぇと」
まぁでも、話は決まったけどそれはそれとして用意しないとね。
「…………何から何まですまない」
ふと、アンナちゃんがそう呟いた。
「違うでしょ。そこは感謝だ」
「…………ありがとう。
正直…………話まで聞いてもらえるとは思わなかった。
長々と、つい感情的になるほど話してしまってすまない。初対面で、敵同然の相手だというのに……」
…………
「そういうとこだと思うよ、私がアンナちゃん信じたの」
「?」
「いきなり切りかかってこなかった。
知らないかも知れないけど、刃守の組合の人ってよその土地だと血の気が多かったり話聞かない人多くてさー?
問答無用で味方だってのに斬りかかってくるようなのもいるんだよねぇ。
アンナちゃんは、まず話してくれた。
なら、一回ぐらい騙されても良いさ。
ま、騙されたって分かったらその時は容赦しないけど」
「……」
随分意外そうな顔をされたわ。
で、すぐに姿勢を正すアンナちゃん。
「心から感謝する。
言葉だけで申し訳ないが、私は嘘は言っていない。
この眼魔は全てが終わったら必ず返す。
かならず……!」
「へいへい、まぁそういうのもとりあえず家帰ってみんなに話してか─────」
ズドン!!
突然、後ろですごい音が鳴った。
慌てて振り向くと、この車に後ろからついてきていた他の公安さんの車が派手に横転してた。
「なんだ!?」
「……アンナちゃん、君の知り合いかなあれ?」
見ると、横転した車の上に人がいた。
まるで、あの車にタックルでもして吹き飛ばしたみたいな様子だ。
「…………尾けられていた!?」
「やっぱ知り合いか。
どう見ても人間辞めてる集団だもん」
どうやら、長いお話付きのドライブの終点は、お夕飯とか待ってる私の家じゃないらしい。
ゾロゾロ道の脇からやってきた異様な集団が無言で教えてくれた。
***