第〇二話|藍色
「孤独を生きる人とて、社会に関わらず生きていくのは不可能である。」
僕、二条渚は鈴響高校に入学した高校一年生だ。
入学式は校長先生の”ありがたいお話”や来賓祝辞などを経て、案外早く終わった。
入学式はクラス別に座るとかではなく、会場に着いた先着順で前から並んでいくという方式であった。
基本そういうのは先に”クラス別に並んで”挑むものではないのかと思うのだが...
高校のクラスは、中学から進学した生徒と、高校から入学した生徒とで混合のクラスが組まれるようで、
高校一年生は全四学級のようだ。
やはり第一学年、最初の学級。これは大事である。最初の雰囲気はその後にも影響しうるだろう。
そしてどうやらクラスを記した用紙は、教室がある棟の一階にある掲示板に張り出されているらしい。
いかん、まだ見ていなかった。
入学式が行われた場所から一度少し掲示板によって、教室に向かうこととなった。
入学式の会場から教室棟の方へ少し歩き、不意に横を見れば太陽から放射された熱波が僕を襲ってくる。
一時の暑さに耐えて、教室棟一階の掲示板を確認する。
自分の出席番号と名前が書かれた紙と、目の前の掲示板を交互に見てみる。
「....................」
「....................」
あった。
僕は二組だ。
一年生の教室は二階にあり、階段近くの手前から一、二、三、四組とクラスが並んでいるらしい。
掲示板から階段までのろのろとでも、はきはきとも違う歩き方で進んでいく。
一階から二階に上る際にある窓には、反射的に目を閉じてしまうほどの燦燦と輝く太陽と、
暑さのわりに、大量発生していないであろうプランクトンのおかげで、ブルーというよりも
エメラルドグリーンに近いような色をした海が、風と戯れているのが見えた。
その光景を僅かに感じながら、自分の教室へと向かって行く。
今後愛着の湧きそうな木製で肌触りの良い、後ろ側のドアを開けて教室へと入る。
既にクラスメイト達は何人か来ているようだが、思ったよりも来ていない。半分少しだろうか。
僕は左右で言えば左側で、前後で言えば後ろ側に”自分の居場所”があるようで、
特に誰かの席を経由したり、話したりなどせずに席を見つけて座った。
既にそれぞれの机には、入学関係色々と重要な資料が入っているであろう茶封筒があり、
先に軽く目を通しておくことにした。
「今後の学校生活についての注意点」、「学級だより」、色々と入っている。
そしてその中に、「寮について」のプリントがいくつか入っていた。
鈴響高校には寮があり、学生の大半はその寮で生活をするらしい。
この寮は基本的に男女別で、学生数も多いのでいくつかの棟が存在する。
昔からの名残で、それぞれの寮ごとに特徴というのがあるらしい。
学問の才に優れた生徒が多い「蛍雪寮」。
藝術の才に優れた生徒が多い「幽玄寮」。
貴賓高き名家出身の生徒が多い「精華寮」。
運動の才に優れた生徒が多い「白露寮」。
よく物語に出てくる”設定”のようなものがまさか存在するとは、少しばかり驚きである。
歴史ある寮があるというのは受験する際に耳にはしていたが、まさかこんな”おまけ”がついているとは。
少し”面白い”と思った。
事前に寮に入る人は申請が必要で、入学式後に入寮できるというふうに聞いていた。
僕の自宅から通学すると、片道一時間半はかかってしまうので、流石に寮に入った方がいいということ
になり、寮に入ることになっているのだが。。
果たして、どの寮に入ることになるのかと思っていたが、このプリントの最後に書いてありそうな気がする。
「....................」
「....................」
僕はどういうわけか「幽玄寮」だった。
確かに僕は文学や芸術は好きだ。自分が思うままに解釈できる。
何故それがわかったのだろう。筆記試験後の面接でだろうか。
思い返せば書類審査の中で、そういう項目も含まれていたような...
この高校の教師や試験制度を振り返ると、少々感心できた。
僕が知らない”感情”や”出会い”がこの高校では見つかるかも知れない。
少しだけ、僕の心の中の灯がぱちりと音を立てたような気がした。
そして僕は、お気に入りの曲である”らっどうぃんぷす”の”SUMMER DAZE 2021”を再生し、
つい最近原作である本を買った「ペンギン・ハイウェイ」の続きを読み始めた。
これからどういう日々が訪れてくるのか、少しばかりの希望を持ちながら。