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御穴を掘る  作者: 珉砥
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しかし、この女は何を考えてここに来てこんなことをしているんだ?便利に利用している身で偉そうに言える立場ではないが、彼氏の立場に身を置けば許しがたい行為ではないか。俺も気持ちいいとか言ってる場合ではないだろう。

だが気持ち良いのは事実であって、これをやめるのは中々の抵抗がある。俺は快感をむさぼっているのではなく、火傷した背部を癒しているのだ。治療をしているのだ。患部が癒されている過程で込み上げてくる喜びの感情なのだ。やはり気持ちいいものは気持ちいいのだ!

「あぁっ!」

思わず声が出た。

「あっあっ」

なぜかやす子も声を上げる。

これではまるであれの最中ではないか。ここに今誰か入ってきてこの場面に出くわしたら完全に誤解されてしまいかねない状況である。

今にもニヤニヤ笑いながら横川が「もなかだった?」とでも言いながら入ってきそうだ。

横川というのは大学で同じ教室の知人でよくここへ遊びに来る男だ。来る時は母親が作ってくれたゆで玉子を大量に持ってきてくれる。おれはそれを一気に4個くらい食べるのだが、田辺と言うやつに見つかると怒られる。

「てる!玉子は1日1個までだよ」

全くなんて硬い頭のやつなんだ。田辺は真面目を絵に書いたような男だ。

いや、そんなことはどうでも良い。今のおれたち二人を客観的に見たと仮定しよう。おれの火傷した背中にやす子が巨乳を押し当ててあんあん言っている。つまりうつ伏せに寝ているおれに、女のやす子が覆いかぶさっているわけで、これで喘いでいるのは違和感しかないではないか。おれがやす子に犯されていることになりはしないか!少なくともそう見えるはずだ。

ん?でもどうやって?多分どんなに探しても、こんな女性が背後から男性と〇✕するような体位のAVは見つかりそうにないぞ。これは前代未聞のまぐわいだな。いや、決してまぐわってはいないが。

おれは冷静になった。すこぶる賢者モードに突入した。

「ありがとう。とても楽になった」

おれは賢者を装ってやす子の巨乳に押しつぶされた状態のまま落ち着いた声を作ってそういった。むろん顔もそれなりにイケメン風にしたつもりだ。

「えっ。もういいの」

「うむ。さすれば速やかにどいてくれ」

「うっ・・・」

何か言いたげな表情を浮かべているであろうやす子の、吸い付くように背中に張り付いていた柔らかいものが離れた。

「今日はありがとう」

いつもはやす子がやってくるとぶっきらぼうにしか対応していなかったのだが、今日はお世話になったので少し優しくした。

「てるくんて草食系だね」

やす子の言う草食系が何を指しているのかは知らないが、想像するに、ここまで来てなぜことをいたさないのか、と言った非難の意味を含むだろうと思われる。やす子の気持ちは察するに余りあるが、そうなのだ。おれは女性に対して淡白なのである。これはどうしようもないことなのだ。

おれが無言を貫くと、やす子はそそくさと服を着て部屋を去った。

ポツンと1人残されたおれはぶり返してきた背中の痛みに悶えた。


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