8.自己紹介をします
「佐藤真緒。23歳。看護師をしていました」
机を挟んで向かい合う、アルフレッドさんとジェイドさんに向けてまずは簡単な自己紹介から始めた。
あの恐ろしいほどのご尊顔を持つアルフレッドさんはなんと、この国のここら一帯を治めている領主さんだという。
隣にいるジェイドさんはアルフレッドさんの側近だそうだ。
ジェイドさんもアルフレッドさんとは違った魅力をもつイケメンさんだ。
たれ目がちなアンバーの瞳に、癖のある赤茶色の髪。
チャラそうではあるが、優しいお兄ちゃんタイプだ。
年齢を言ったあたりで二人が驚いた表情をしたのに気付いたが、まあ日本でも若く見られたこともよくあるのでそこはスルーした。
驚いたことにわたしは実に丸々3日も寝ていたそうだ。
どうりで歩こうとしたらふらついたわけだ。
ここはどこなのか、というわたしの疑問にアルフレッドさんは簡単に説明をしてくれた。
お腹がすいているだろうとスープを用意してくれつつこの世界の話を少ししてくれたのだが、なぜかアルフレッドさんはそのスープをスプーンに掬うとわたしの口へ運んだのだ。
自分で食べられるのになぜだろう、と疑問が沸くもにこにこと嬉しそうにスプーンを口の前に持ってこられたわたしは、これがここでの流儀かもしれないと解釈し口を開けた。
もちろん、男性に耐性のないわたしの顔はゆでたこのようになっていただろう。
だが、今わたしの年齢に驚いているところを見るともしかするとかなり幼く思われていたのかもしれないと思いなおした。
外国人から見る日本人って若く見えるって言うし、わたしは身長153センチという小柄な体型も相まって未成年に見られることもあったから。
「なるほど、救世主様はケガの治療に携わるお仕事をしていたという事ですね。どうりでアルのあの傷を見ても落ち着いていられたわけだ」
わたしの仕事内容をかいつまんで説明すると紙にペンを走らせながらジェイドさんが頷いた。
「それで、その仕事の帰りに突然光に包まれたと?」
「そうですね。突然地面が光ったと思ったら体中を包まれて。気づいたらあの熊のようなものが目の前にいたって感じです」
ジェイドさんとアルフレッドさんが目を合わせ頷き合う。
「やはり、伝承通りのようです。突然光に包まれてこの場に連れてこられる。これは今までこの国や世界中で語られている救世主様がこちらに来た時の様子と全く同じです。それにこちらでは聞かないニホンという国も伝承と全く同じ」
「と、いうことは・・・」
わたしに全く自覚はない。
自覚はないのに、突然やってきたこの世界でわたしは救世主様と呼ばれる存在のようなのだ。
なんでわたしなんだろう、とか疑問はつきない。
なにも特別なことはない、ふつうの人間だ。
「わたしは、帰れるんでしょうか」
疑問の中でもずっと気になっていたことが言葉となって出た。
「それ、は…」
ジェイドさんが言いにくそうにしながら視線をアルフレッドさんへとやる。
「…今まで見たどの伝承にも、元の世界に戻ったという記述はないのです」
申し訳なさそうに瞳を伏せるアルフレッドさんをぼんやりと眺めた。
もしかして、という思いがやっぱりなという感想にかわる。
「そう…ですか…」
自然と出た声が若干暗さを含む。