5.見たこともないイケメンがいました
重く沈んだ体がゆっくりと浮上する。
左手がやけに温かく、そこから温かい何かが体中をめぐっている。
まだまだ体は重いし、頭はぼぅっとしている。
それでもゆっくりと瞼を動かせば視界が広がった。
見えたのは…。
「ふわあ…、すっごいイケメン…」
心配げにこちらを窺うのは、恐ろしいくらい整った顔。
今まで見たどんな俳優やモデルよりも整っている。
いや、これはもうご尊顔と言わないといけないレベルだ。
体が動いていたら拝んでいたかもしれない。
見たこともないきれいな金を帯びた銀色の髪。
肩より少し長めのそれは後ろでゆるく縛られている。
キリっとした形のいい眉に、切れ長の目。
すっと通った鼻筋。
薄めの唇。
その全てがバランスよく顔におさまっている。
これが黄金比か、なんて働かない頭でどうでもいいことを考える。
そしてひときわ目につくのはその。
「キレイな目…」
透き通るような紫の目。
自分の誕生石でもあるアメジストの色だ。
ふにゃりと笑うと、陶磁器のような白い肌が朱に染まるのが見えた。
全ての筋肉がいうことを聞かないので、きっと間抜けな笑顔を晒してしまったことだろう。
だが、わたしの持ち上げた瞼はそこまでしかもってはくれなかった。
まだ体が重く、ひどい睡魔に抗えずわたしはまた瞼を閉じた。
ずっと手をつながれていたことも、その後優し気に頭をなでられていたことも気づかないほど、深い眠りについていた。
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「…なんか、よく寝た…」
寝すぎた時のような怠さはあるが、頭はすっきりしている。
体もなんだか満ち足りたように元気が溢れ出るようだ。
ぐっと伸びをしてゆっくりと起き上がる。
簡易的なベッドだが、真っ白なシーツで手入れが行き届いていることがわかる。
石でできたような部屋でベッドのある壁側に小さな窓がある。
そこからは先が見えないほどの深い森が見えた。
部屋の大きさは8畳くらいだろうか。
ベッドわきに小さな机と水差し、丸い簡素な椅子がおかれている。
そういえば、すごいイケメン見たような…。
そっとベッドから降りようと足をつけたところで目の前にあったドアが開いた。
先ほどわたしが考えていたイケメンその本人が驚いたように目を見開き、口をパクパクさせていた。
イケメンはどんな表情でもイケメンなんだな。
なんてどうでもいいことを考えてしまった。