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10.アルの過保護がとまりません

 帰りの行程は行きよりもスムーズだった。

 本来の力に戻った魔獣は森の奥深くにいるのか出てくることはなかったし、わたしも素直にアルに甘えて荷物をもってもらうことにした。



 砦に着いて早々、騎士団や魔術師団の人はそのまま王都に戻るようであっという間の解散となった。

 流石に鍛えている人は体力が違うものだと感心する。


 アルはジェイドさんと砦の兵士たちを労うとともに報告書作成のため一人一人聴取を行っている。




 わたしはと言うと、待っている間ゆったりと客室でお茶を頂いていた。


 泉で感じた第3の魔力…。

 わたしはお腹に手を当てる。

 小さくて微かだけど、ここに確かにあるもの。

 そこにはなぜだか確信めいたものがある。


 これはきっとわたしとアルの…。




「マオ、待たせたな。帰りの準備も整ったし本邸へ帰ろう」

 客室に入ってきたのは聴取を終えたアル。

 わたしはアルの顔をじっと見る。


「マオ?」

「アル、あのね。まだ不確かなんだけど。それにまだまだ早すぎる段階だと思うんだけど…」

「どうした?」

 アルが不思議そうな顔をしてわたしを見てくる。

 何かを感じ取ったのかソファに座るわたしの横に腰掛け、視線を合わせてくる。


「わたしの中に、別の魔力を感じるの」

「えっと、それは俺の…」

 さっとアルの顔が赤くなり口元を覆う。

 いや、違うから!


「じゃなくてっ!また、別の…」

 そう言いつつお腹をさすると、アルが察したのか目が見開いた。

「ほ、本当に…?」

「多分なんだけど…」

「マオっ!!」

「わっ」

 がばっと抱きしめられ、アルの胸にぎゅうぎゅうと顔が押し付けられちょっと苦しい。


「ありがとう!マオ……」

 アルの声が震えているのがわかる。

「でも、これがそうかどうかわたしにも判断がつかなくて」

 もし違うとなったらアルを失望させてしまう、と慌てて付け足す。

 アルはゆっくりと体を離しわたしの目を覗き込んできた。

 すごく嬉しそうな顔だ。


「子ができたかどうかは魔力に敏感な母親ならいち早く気づくと言う。マオはきっと敏感なのだろう。マオには俺の魔力もわかるみたいだし」

「そ、そうなの…?」

「お腹に触れても…?」

 アルの言葉に頷くと、そっとアルの手のひらがお腹に触れる。


「俺にはまだ感じ取ることはできないが、マオがそう感じるなら間違いないと思う」

 アルが愛おしそうにお腹を眺めながらそう言う。


 計算的にも向こうの世界でも検査薬で出るかどうかの時期だろう。

 それでも確かに感じる魔力の欠片。

 わたしは未だお腹にあるアルの手のひらに手を重ねた。


「うん。確かにここに感じるよ」









 砦から本邸までの馬車は慎重に慎重を重ね、普段の2倍の時間をかけられた。

 わたしはもちろんアルの膝の上だ。

 クッションを重ね、振動には細心の注意を払われた。


 ようやっと本邸に着くと、すでに治療師がいた。

 初期の初期過ぎて他の人では妊娠と決定できるほどの魔力は感じられなかったが、わたしはすぐさまベッドに寝かされ安静を余儀なくさせられた。

 まあ、当初はわからなかったとは言え魔の森の遠征に行っていたのだから、本邸のみんなが心配するのもわかる。

 特にアルはこんな大事な時期にわたしを魔の森に連れて行ったことをかなり後悔して、その心配の仕方にはこっちが逆に心配になるほどだ。


 なのでとりあえずわたしはおとなしく皆に従った。



 正式に妊娠が確定したのはそれから数週間後。

 他の人でも魔力が確認できるほど育ってきたらしい。

 アルなんて1日に何度もお腹を確認しに来るほどだ。



 それからアルはすぐに王都にも連絡を入れたらしいが、その日から宰相さんからぶっとい封書が届くようになった。

 抗議の手紙らしい。


「毎度毎度飽きずに同じような内容の書面だ」

 封筒の中身を確認してアルがげんなりした顔をする。

 アルのお父さんも同じように結婚前にアルができたから、その嫌味と王都での結婚式の話だ。

 だけどもそんな分厚い抗議の手紙もアルはどこ吹く風だ。

 わたしを見るたび幸せそうな顔をしてお腹を撫でている。



 まあでも宰相さんの言い分もわかる。

 妊娠したため、結婚の予定がずれてしまったのだ。

 いろんな行事を管理する宰相さんとしては頭が痛い問題だろう。

 こちらでの結婚式は神殿でお互い口上(誓いの言葉みたいなもの)を述べ、署名して陛下からの許可を得るという簡単なもの。

 これは領地にある神殿で行われることになった。

 なのでこれはいい。


 問題はその後の行事。

 王都での結婚パレードだ。

 そんなものがあるのか、とちょっと尻込みしたのは秘密だ。

 王族が行っている行事だが、救世主であるわたしも同等に扱うということで行われることになっているもの。


 あれだ。

 屋根のない馬車に乗って手を振りながら王都中を回るのだ。

 ロイヤルファミリーだ。

 庶民には慣れようもない行事だが、決まり事なら仕方ないと腹をくくるしかない。



 だけどさすがに王都へ行くには妊婦には厳しいので、こちらは子供が生まれてからすることになった。

 時期をずらすだけですることは決定らしい。







 そんなわけでわたしはアルの邸で絶賛妊婦ライフを送っている。

 だけど……。


「マオ、階段は危ない。落ちたらどうするのだ」

「マオ、重いものは持ってはいけない」

 アルの過保護加速中。

 階段は毎日抱きかかえられるし、アルの言う重いものが差すのはナイフとフォークだ。



「アル!あのね妊婦はね適度な運動も大事なの!歩かないといけないの!あと、ナイフとフォークは重いものに入りません!」

「だ、だが…」

「わたし看護師やってたんだよ。その辺の知識は任せてよ」

「そ、それを言われると」

「とにかく過保護禁止だから」

「す、済まない。子を言い訳にしただけだ。ただ俺はマオに食べさせたかっただけだし、抱きかかえたかっただけだ」


 しょ、正直すぎか…。

 しゅんと項垂れたアルにこれ以上何が言えるだろう。


 結局わたしもアルには甘いのだ。

 とりあえず歩くのは納得させたが、今日も今日とてわたしは階段では抱きかかえられるし食事の時は常に食べさせられている。


 このやりとりはここずっと続いているため、使用人の人たちからは生ぬるい視線を送られている。

 でもまあ、こういうやりとりにも幸せを感じてしまうのだからわたしも重症だ。

 前は冗談で言ったが、わたしももうアルなしでは生きられないかもしれない。

 アルの過保護を受け入れ、それに幸せを感じてしまっているのだから。


 これから先もずっとアルの過保護は天井知らずで、わたしもそれを受け入れていくのだろう。

 そんな未来を想像して笑みが漏れた。


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