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7.魔の森へ出発です

 それから10日ほど準備期間を設け、今日魔の森に出発した。

 魔獣の凶暴化は国の一大事ということもあり、王都からも騎士団と魔術師団が派遣された。

 名目は泉を浄化するわたしの護衛だ。


 そしてわたしは今大きな荷物を背に森の中を歩いている。

 中身は簡単な着替えと毛布、そしてフリーズドライと他の食料が少し。


 一番嬉しいのは水がいらないってこと。

 水は魔法で出せるから。

 ここに水が入ると重さで体力が奪われていたと思う。



「普段より瘴気が少ないな。これもマオちゃんの影響か」

 隣を歩くジェイドさんがアルに話している。

 どうやらわたしがいるだけで瘴気が少し和らぐらしい。


 あれかな。

 空気清浄機的な。


「気分が悪くなるほどの瘴気はないようだ。マオは疲れていないか?」

「うん、大丈夫」

 心配げな表情のアルに笑って見せる。

 体力勝負の看護師をしていたのだ。

 これくらいはまだ大丈夫だ。


「魔獣もまだ強敵は出ていないようだし」

 前衛を務める兵士の人たちの戦闘の音が聞こえたりもしたが、今のところけが人もなく魔獣を討伐できているようだ。





 数度の休憩を経て、日が暮れてきたころ野営の準備が始まった。

 と言っても荷物は人が運べるくらいしか持てないからみんな外でごろ寝だ。

 わたし用に簡易テントを持っていく案も出たけど、荷物がかさばるからと丁重にお断りした。

 わたしの為だけに誰かが重い荷物を持つのは申し訳ないしね。



 それにしても…。

 いくら体力に自信があっても…。


「つ、疲れた………」


 所詮舗装された道しか歩いていない現代っ子だ。

 道ならざる道を歩くのがこれほど大変とは。

 だけども泣き言なんて言ってられない。

 また明日もあるのだ。

 行くと決めたのはわたしなのだから。





「マオこっちへ」

 腹ごしらえを済ませ、早めの就寝をと思ったところでアルに手を引かれた。

 連れていかれたのはみんなが固まって寝る場所より少し離れた場所。


「今日、俺は見張りなんだ」

 そう言ってわたしの持つ毛布でわたしを包んだ後、木の幹に座るアルの膝の上に乗せられた。


「地面で眠るよりは体が楽だろう」

「いやいや、アルがしんどいでしょ」

「大丈夫だ。マオが他の男たちに混じって眠るなんて俺がどうにかなりそうだ」

 冗談っぽく言うが、それはアルの気づかいだろう。

 それでもアルの膝の上は暖かくて居心地が良くて。

 疲れていたわたしにはそれはすごく有難くて。

 わたしはアルの申し出に素直に甘えてその大きな胸にもたれ掛った。


「ありがとう、アル」

「大人数だから少し行程に遅れが生じている。おそらく明日も野営になるだろうからゆっくり休んでくれ」

 アルの低くて心地よい声が子守歌のようで睡魔がすぐに襲ってくる。


「うん、ありがとう…」

「おやすみ、マオ」

 額に柔らかい感触を残して、わたしの意識は途切れた。








 2日目は徐々に魔獣が増えてきた。

 空気も重くなっている。

 これが瘴気だとアルが教えてくれた。

 泉に近づくにつれ瘴気も濃くなっていくだろうという見解だ。


 わたしの横には常にアルとジェイドさんがいる。

 その二人も徐々に濃くなる瘴気に警戒を露わにしてきている。



「キラービーの大群だ!!」


 大きな声が前方から聞こえる。

 それとともに不快な羽音を耳が拾う。

 その姿が目視できるようになるとアルとジェイドさんがわたしを庇うように前に立つ。



 だがそれよるも前に立つ人物が。

「ここは私に任せてもらおう」

 シャーロット先生が涼しい顔をして私たちを見た後、迫る大きな蜂の大群と対峙した。

 手のひらを前に差し出した後、感じたのは冷気と熱気。

 瞬間、前方から飛んできていた蜂の大群がボトボトとその場に落ちていった。

 その姿は干からびたようにカラカラと風に吹かれて転がる。


 …これって…まるで…


 わたしは驚きのあまりシャーロット先生を凝視した。

 そんなわたしを見てシャーロット先生は不敵に笑う。


「マオ様のフリーズドライの原理を利用させていただきました」

 やっぱり…。

 わたしにとっては携帯食の作り方でしかなかった。


 それは魔法の専門シャーロット先生からすれば攻撃にもなるということ。

 考えもつかなかったことで多少放心してしまったが、この世界では魔獣との戦いにおいて普通に命を落とすことだってあるのだ。

 どんなことからでも魔獣を倒せるヒントになればそれを使うのは当たり前のことだろう。


「マオ、大丈夫か?」

 呆けたわたしをアルが心配そうに見ていた。


「うん、大丈夫」

 わたしはこの世界で生きていくと決めたのだ。

 わたしだって誰かを護るため、自分が生きるためにちゃんと攻撃する覚悟でここにやってきているのだ。

 攻撃魔法が使えないなんて言うつもりはない。

 魔法を扱うことはできるのだ。

 わたしになかったのは何かを攻撃する覚悟だけ。



「マオは魔獣を討伐する必要ない。泉の浄化のために魔力を温存しておいてくれ」

「わたし、大丈夫だよ」

 アルはわたしが攻撃できないことを知っている。

 だから、心配かけないためわたしは力強く笑った。


「俺たちの仕事を減らされても困るしな」

「そうそう、マオちゃんは浄化という最重要な仕事があるから。これ以上俺たちの活躍の場を取らないで」

 冗談めかして笑うアルにジェイドさんもそれに倣う。


 本当にいつもいつもわたしは周りから気遣われて、甘やかされている。

 でも…、確かに今回の最重要任務は泉の浄化。

 それにどれほど魔力を使うかわからない以上、温存するのが得策だろう。

 浄化はわたしにしかできないのだから。


「わかった。わたしは浄化のことだけ考える」

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