5.魔の森の異常 sideアルフレッド
「ジェイド、あれから魔の森はどうだ?」
「今は沈静化している。お前とマオちゃんが王都に行っている間に砦付近に現れたのは凶暴化していると言っても兵士たちで討伐できる個体だったから被害はない。ただ…」
考え込むようにジェイドが顎に手をやる。
「なんだ?」
「いや、お前が王都に行っている間俺も一度砦に行ったんだか、瘴気が濃くなっているように思う。それは兵士たちからの報告もあった。濃い瘴気の所為で体が重く気分が悪くなる者もいるみたいだ」
瘴気が濃くなっている…。
そういった話は過去にも聞いたことがなかった。
だが、確かにジェイドから渡された報告書の中に砦の兵士たちのそういった声があがっているのも確か。
「色濃くなる瘴気…」
「なんだ?」
呟いた声に反応したジェイドが俺を見る。
「あ、いや。ジェイドは知らないか?救世主様の伝承なんだが」
「伝承?」
「そうだ。色濃くなる瘴気から始まる救世主様の」
「それって…先代が言ってたやつか」
「父が?」
「お前が小さいときとかによくその伝承を口にしていた。聖なる力で安寧をもたらすというやつ」
もしかすると口伝での伝承なのか?
そんな考えが頭を掠める。
俺は書庫へ向かうべきドアへ向かう。
「おい、どこへ行く?」
「少し気になることがある。古い文献をあたる。ジェイドは砦へ行ってくれ。瘴気が濃くなってきた時期など詳しく知りたい」
「わかった」
伝承の救世主様の力は様々だ。
見たこともない攻撃魔法を操ったり、結界を張ったり中には万物の鑑定を行える者もいたらしい。
だが、この伝承にいたっては瘴気が濃いときに現れるとある。
瘴気が出る場所というのは世界でも限られている。
それはここと同じように魔の森であったり洞窟であったりするのだが、その瘴気によって生み出されるのが魔獣とされている。
遠い昔は魔獣による被害があったともされるが、今はそれぞれそこを管理する者たちで抑えられている。
だが果たしてそうなのだろうか。
ただ単に魔獣が今は弱体化しているだけ。
どんどん凶暴化する魔獣。
そして濃くなる瘴気。
瘴気が濃くなるにつれ魔獣が凶暴化するのであれば今後どうなるのかわからない。
元々弱い個体が凶暴化しても今はまだ抑え込める。
だが、マオが来た時のようなブラッディベアレベルの魔獣なら?
「俺でも討伐できる自信はない…」
死にそうになった過去を思い出し俺は頭を振る。
そんなことを言っている場合ではない。
なんとしても守らなければ。
俺には大事な者がいる。
マオを護ると誓ったのだ。
この街だって俺にとっては守るべきものだ。
◇ ◇ ◇
「アルフレッド様、こちら領主代々の手記になります」
書庫に着いてからクリスにも手伝いを頼み、昔の文献を読み漁っていた。
俺はクリスから手渡されたウォーガン辺境伯初代が遺した手記を手に取る。
何度も書き写しされて伝わるため紙はまだ新しい。
我が領地の始まりは500年ほど前に遡る。
その時起きていた魔獣との戦いで一番功績を遺した平民が陛下より賜ったのが爵位とこの領地。
魔獣を抑え込むのが目的で一番強かったものに魔の森の管理という役割を持たせたというのが正しい。
初代ジーン・ウォーガンとその妻エマ。
そのジーンが書き記した手記に最初に書かれていたのはあの伝承。
―――色濃くなる瘴気
かの者光により導かれ現れん
夜の闇の髪
黒曜石の瞳
聖なる力で安寧をもたらさん
聖なる力は浄化の力
瘴気を光へ変える力
魔の森深くに眠る青の泉
瘴気濃くなりて黒き泉へ変わるとき
魔獣は真の力に目覚めるだろう
それを止めるは浄化の力
聖なる力で色濃い泉を浄化せん―――
「これがあの伝承の全て」
今のこの状況と同じじゃないか…。
瘴気が濃くなり、魔獣が力を増しているのは黒い泉の所為…?
そしてそれを止めることができるのはこの地に来た救世主様。
「…マオ………」
他に何かないかと手記を読み進め、俺は最後のページで手が止まる。
「なんだ、これは…」




