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3.アルからもプロポーズしてもらいました

 なぜだかその日、わたしはレーナや他のメイドさんたちによって念入りに磨かれていた。


「レーナ、今日何かあったっけ?」

「ふふ、今日は庭園にてマオ様が戻ってこられたお祝いを使用人一同でさせていただきたいと思っています。驚かせるために今日まで内緒にしていました」

「え、お祝いなんて、そんなわたしのほうが感謝しているのに」

「ただ、みんなマオ様と楽しみたいだけなのですよ」


 ふふっと楽し気に笑うレーナにわたしもくすっと笑う。

 そういう事ならわたしも楽しむだけだね

「そっか、うん。わたしも楽しみ」


 今日はレーナの見立てで真っ白なドレス。

 でもこれってなんだかウエディングドレスみたいで、ちょっと緊張しちゃう。

 こっちの世界では結婚式に決まった色の服装はないみたいで、相手の色が入った服やアクセサリーで着飾るのが主流だそうだ。




 庭園に着くと、使用人たちみんなが道を作るように並んでいた。

 その先にはバラのアーチをバックに立つアルがいる。


 しかもアルも真っ白な正装姿だ。

 輝きが何割も増している。

 眩しいですアルさん。


「マオ、綺麗だ」

 アルはわたしを見るとふわりと笑った。

 いつでも褒めてくれるアルに顔の温度が上がる。


「あ、ありがとう。アルも素敵だよ」

「マオこれを」


 わたしの目の前に差し出されたのは大きな花束。

 オレンジや黄色といったわたしの好きなビタミンカラーで纏められている。


「わぁ、きれい…。ありがとう!アル!」

 お礼を言うとアルは少し頬を赤らめた。

「可愛いな…。毎日でも贈りたいくらいだ…」


 いや、嬉しいけど毎日は大変じゃないかな。

 飾るところもなくなっちゃうよ…。


 そんなことを思っていたら、アルがわたしの片手を取りながら目の前で跪いた。

 取った手の甲にキスをしてわたしを見上げる。


「マオ・サトウ。私アルフレッド・ウォーガンはマオただ一人を妻とし、愛し慈しみ一生守っていくことを誓う。マオどうかこの私と結婚してください」

「え…」


 わたしの頭はフリーズ状態。

 何これ………。

 そんなプロポーズみたいな…。


「俺からの求婚、受けてはくれないのか?」


 くいっと首をかしげるアル。

 そんなこと…。

 受けない訳ないじゃない。


「お受けいたします」

 そう答えればアルは嬉しそうに笑って、胸元から小さな箱を取り出しわたしの目の前でその箱を開けた。


「え…、こ、これって」


 シンプルなプラチナのリングの立て爪に嵌められているのは濃い紫の石。

 街で見た紫晶石よりも濃く輝きがすごい。

 そして、大きい。


 カラットとか詳しくはないけど、指の太さ近くまでの大きさだ。

 まさかの婚約指輪?


 でもこの世界にそんな文化はなかったはず。

 もしかしてわたしの為に?

 わたしの日本の文化で合わせてくれたってこと?


「受け取ってもらえるか?」

「は、はい…」


 言うとアルはわたしの左手を持ち、その薬指に嵌めてくれた。

 サイズは体から指まで測られているからさすがに正確だ。

 ぴったりと嵌った指輪を見つめる。

 アルの目の色。


「ありがとう…。アル。…嬉しい……」


「マオ、それで…。済まない。この指輪交換はどの場面でするのが適切かわからなくてな…」

 アルが出したのはシンプルなリングが二つ入った箱。

 それはどう見ても結婚指輪のようで。



「ふっ!あははっ。今婚約指輪もらったとこなのに、結婚指輪も用意してくれてたんだ!」


 プロポーズと結婚式ごちゃまぜだ。

 だけどもわたしの為にわたしの国のことを調べてセッティングしてくれたことが何よりも嬉しい。


「アル、大好きだよっ」

 ひとしきり笑ってわたしはアルに抱き着いた。


「マオ…」

 そしてアルの手をとり目を見る。


「わたし佐藤真緒は、アルフレッド・ウォーガンをただ一人の夫とし、病めるときも健やかなるときも愛し敬い一生傍で生きていくことを誓います!アルもさっき誓ってくれたでしょ。で、誓いのキス…、や、これはいいか」

「キスか。なるほど」


 さすがに使用人一同見守る中キスするのは恥ずかしいと思ったのだが、アルの顔はこれ以上ないくらいに輝いている。


「いや、なんで嬉しそう…んっ」

 顔を固定されて唇を押し付けられる。

 しかも何度も角度を変えて。


「いや…ちがっ……こんな激しいのじゃ……」


 キスの合間に抗議するも全く受け入れてもらえない。

 それどころかどんどん深くなって…

「んーっ!」

 どんどんと胸を叩いたところでようやっと解放された。


 これ違う。

 わたしの知ってる誓いのキス違う…。




「……そ、それから、指輪の交換を…」

「なるほど」


 肩で息をしながら言うとアルはケロリとした表情で指輪を見る。

 前から思っていたけど、アルには羞恥心というものはないのだろうか。


 わたしはもう周りを見ることすらできない。

 持っていた花束をそっと受け取りにきたレーナの顔も見れないくらいだ。




 アルから指輪を手渡されわたしはアルに、アルはわたしに指輪を嵌める。


 瞬間周りから大きな拍手が上がった。

 みんなからのおめでとうの言葉や本当に嬉しそうな表情がわたしにとっては一番の贈り物で。


「みんなありがとう!」


 わたしにはみんなにお礼を言うことしかできない。





 そのあとはウエディングケーキが出てきたり、赤飯やわたしの好きな和食や洋食。

 いろいろごちゃまぜで、それも楽しくておかしくて。


 幸せだと思った。

 大好きな人がいて。

 わたしを思いやってくれる人たちに囲まれて。


 ずっとこうやってみんなと楽しく生きていきたい。


 そんな思いを胸に、その日はずっとみんなで笑って過ごした。



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