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12.アルの甘さが加速しています

 あれからわたしにやっと王宮を出る許可が出た。

 今はアルのタウンハウスに来ている。


 そうなのだ。

 わたしは正式にアルの婚約者として認められたのだ。

 だからわたしがここにきても誰に咎められることもない。


 明日には王宮より大々的に発表もされるらしい。

 結婚式などは準備もろもろあって半年後。

 なんだか怒涛の展開だが、わたしはアルの傍にずっといると決めたから。

 もうここまできたらなんでも来いだ。


「すまない。ここには必要最低限の使用人しかいなくて…」

 タウンハウスのお出迎えは40代くらいの執事さんとメイドさんが数人だった。

 王都滞在中のみに使われるお屋敷で、今回はアルののみの滞在だから人員は少なくしていたみたい。

「大丈夫だよ。わたしは元々一人暮らししていたし」

 お世話をしてもらう方が慣れなかった日本人なのだ。


 ソファに座るとメイドさんがお茶を淹れてくれた。

 温かいお茶が疲れた体に染みる。

 ほうっと息を吐いてカップを置くと、隣に座ったアルに抱きかかえられた。


「えっ、アル…?」

 膝に乗せられ背中と腰にきつく巻き付かれた腕に身動きが取れない。


「マオ、マオ…。やっとマオと会えた気がする」

「んっ…」

 首筋に熱い息がかかって思わず声が出た。

「マオにはまた助けられた。ありがとう。毒に倒れた時、マオの声が聞こえた。俺はあの声で戻ってこられた」

「良かった。必死で呼んだかいがあった」


 腕が緩められて、額に優しくアルの唇が降ってくる。

「マオ、好きだ…」

「わたしも…。気づくの遅くなったけど、わたしずっとアルのこと好きだった。王宮で誰と会っても話しても考えるのはアルのことばっかりだったよ」


 頬にもこめかみにも柔らかいアルの唇が押し付けられる。

 くすぐったくて身をよじるとアルの手がわたしの頬を固定してきた。

 キラキラ輝く紫の目が細められる。

 圧倒的な経験不足でいつ目を閉じていいかもわからない。

 気づいたら触れるだけのキスをされて、離れたときにアルの熱い吐息を感じて。


「マオ、愛している…」


 そう言われながらもう一度唇が合わさって。

 何度も啄むようなキスを繰りかえすから、だんだんわたしも息があがってきた。

 待って。

 わたし初心者なんだけど、こんなにするものなの…?

「ある…も、おしまい………」

 アルの口に手を持っていくと、手のひらにまでちゅっと音を立てられる。


「残念」

 甘い!

 ひたすら甘いよ!!



「そ、そういえば、宰相さんってアルにやけに当たりが強いね!」

 姿勢をただし話題を変えようと気になっていたことを聞いてみる。

 ただし膝の上からはおろしてはくれていない。


「あー…。まあ、うん」

 珍しくなぜだか歯切れの悪いアル。

「あ、話しにくいことならいいよ。ちょっと気になっただけだから」

 何か政治的な何かとか貴族の確執的なものがあるのかもしれない。

 だが、そんなわたしに首を振ったアル。

「いや、マオに話せないことはない。ただどう言えばいいかと思ってな。宰相殿は俺の母親とは幼馴染だったんだ。3大公爵の一つである宰相殿は格下の伯爵家である母と強引に婚約を結ぼうとしていた。そんな矢先に母は父と出会った。お互い大恋愛で婚姻を結ぶ前に俺ができた。貴族の特に上位貴族は…あー…、処女性を大事にしていて…、宰相殿は母のことは諦めざるを得なかったわけだ」

 なんだか言いにくそうに言っているが、簡単に言えば宰相さんはアルのパパにママを寝取られたってことかな。

 トンビに油揚げ的な。


「まあそれから辺境伯へのあたりがきつくなって…」

「それって完全なる逆恨みじゃ…」

「まあ、そうなるな。王都では常に嫌味を言われているが、もう慣れたな」

 ふっと自虐的な笑みを浮かべるアル。


「宰相さんはアルのお母さんのことが好きだったんだね。アルのお母さんは綺麗だったんだろうな」

 なんせアルがこの顔である。

 これはどちらかの遺伝子からと見た。


「母は昔、妖精姫と言われていたほど美しい人だったらしい」

「妖精姫!アルとは似てる?」

「よく言われる」

 それならば納得だ。

 アルの人外の美しさはお母さん譲りかあ…。


「そういえばアルも難攻不落?の氷の騎士とかって…」

「な…!どこでそれを………っ」


 アルがわかりやすく動揺している。

 レアだ。

 耳まで赤い。


「カミラ様からだけど…」

「っ、王妃殿下か…」

「ふふ、面白いね。そんな二つ名とかみんなあるものなの?」

「俺のはいつの間にかそう呼ばれるようになってた…。俺は今まで恋愛とか興味なくて婚姻も考えてこなかったから、女性に対しても扱いが冷たいと言われていた。そこから来たんだろう」

「この世界の人たちって綺麗な人多いのに、一人も良いと思う人いなかったの?」

「いなかったな。マオに出会うまでは一人も。俺は綺麗とか可愛いとかは、マオにしか抱いたことがない感情だ。俺にとって女性はマオかそれ以外か」


大きな手が頬に当てられ、紫の目が揺らめいている。

「あ、そ…そうなの…」

 なんだか地雷を踏んでしまったようだ。

 踏んだら最後。

 赤面間違いなしのアルの甘い攻撃が降ってくるのだ。


 ちゅっと額にキスを落とされ顔が熱くなる。

 そのままアルの唇はわたしの頬やこめかみにリップ音をさせながら落ちていく。


「マオ今日は一緒に寝たい」

「…うん…って、え!?」

「何もしない。離れていた分、近くにいたいだけだ。駄目だろうか…」 

 う…。

 アルのお願いが出た…。

 これに否と言えるはずもなく。

 わたしはコクリを頷いた。

 眼前にはそれはもう嬉しそうな顔をしたアルがいた。






 お風呂を済ませてベッドに行くと、もうアルがベッドに腰掛けていた。

 お風呂上がりのアル…。

 やばいね色気。

 乾ききっていない水分多い髪。

 少し上気した頬。

 無駄に開いている胸元…!

 視線に困るんですが…っ。


「マオ」

 そんなわたしの様子を気にもせずアルが両手を開いてくる。

 磁石に引き寄せられるようにアルの目の前までいくと、くいっと手を引かれわたしはそのままアルの胸に飛び込んだ。

 目の前には彫刻のような胸筋。

 程よい弾力がありしっとりしている。

 わたしと同じ匂いのはずなのに、石鹸の香りにもくらくらしてくる。


「マオ、いい匂い。」

 そんな、スンスン匂わないでほしい。

 丁寧に洗ったけども!


「マオ、帰ったらすぐに部屋を整えるから、終わり次第移ってほしい。もうマオに客室を使わせたくはない」

「部屋って…」

「俺の部屋の隣。夫婦の部屋だ」

 満面の笑みでそう言って、わたしを抱えて布団に入り込む。


 夫婦…。

 そうか。

 そうだよ、結婚するんだもん。

 その時を思い浮かべて悶絶しそうになるわたし。



「マオ、おやすみ」

 キラキラな笑顔で額にキスをされて。

 体にはアルのたくましい腕が巻き付いて。

 わたしの頭にアルがすりすりと頬を摺り寄せる。


「お、おやすみ…」


 ………って寝られるかーーーー!





 なんて心の中で絶叫していた時期もありました…。

 ええ、ええ。


 気づけば朝でした。

 ほんとこんな時でも爆睡してしまう自分が恨めしい。


 さわやかな朝にきらっきらのイケメンのドアップを見られるなんて。


 うん拝んでおこう。


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