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9.全員助けられたようです


 ちゃんと戻ってきて。

 わたしもあなたと一緒に生きていきたいから。

 これから先もずっと…。






 目が覚めたらローブを着た大勢の人に囲まれていた。

 寝顔見られた!?

 恥ずかしい!

 と思ったのが最初。


「アルは?」

 顔色も戻ったし脈も触れたから大丈夫だと思うが、やはり心配は尽きない。

 わたしは一番近くにいる人のローブを掴んだ。

 そこで初めて気づいたが、わたしがローブを掴むその人はシャーロット先生だった。

 金色の刺繡がついた黒いローブを着ている。


「アルフレッドならもう目が覚めている。ここに来たがっていたが、宰相初め上位貴族に苦言を呈され別部屋で待機中だ」


 良かった…。

 ほんっとうに良かった!


 それにしてもまだアルに対しての風当たりが強いようだ。

 わたしの気持ちは固まっても前途多難か…。

 うーんと唸ったところでハタと気づく。

「ほかの人も?」

 何しろあれだけの人数だ。

 途中で気を失ってしまったため全員の無事を確かめていなかったのだ。

「みんな無事です」

 その言葉に今度こそ本当に安堵の息を吐いた。



「ときにあれは救世主様特有の解毒と生命力向上の魔法ですか?」

 興味津々という感じでシャーロット先生が前のめりに聞いてくる。

「おそらく…そうだと思います」

 なにしろ声に従っただけなので、細かいことはよくわかっていないのが事実だ。

 なのでかなりふんわりとした返答になってしまったことは否めない。


「救世主様のお力はまだまだ未知数のようですな」

 部屋に響いたのはシャーロット先生の声ではなく低めのいい声だ。

 その人はローブを着ている集団の中でも年齢が上であろうナイスミドルの方で、ベッドの方へ一歩前に出て人懐っこい笑みを浮かべた。


「お初にお目にかかります。私は王宮魔術師団で団長を務めております。レイモンド・ブラックと申します」

「あ、ご丁寧に。わたしは佐藤真緒です。ベッドの中からのご挨拶ですみません」

「いえいえ。それにしても我々魔術師団で丸二日魔力を譲渡してもまだ全回復できないとは」

「え…、あ、魔力を回復させてくれていたんですね。ありがとうございます」

「いえ、とても貴重な経験をさせていただきました。さて救世主様も無事に目を覚まされましたので私どもはこのへんで」


 恭しく頭を下げたレイモンドさんはすぐにその他大勢の人たちと部屋を出た。

 助けてもらったのにあんまり挨拶できなかったな、なんて思っていたら目の前でシャーロット先生が手を叩いた。


「ではまず、なにかお腹に入れましょう。落ち着いたら陛下が話をされたいと言っていました」

「わかりました」

 頷くとすぐに部屋から王宮付きのメイドさんが入ってきて温かいスープの乗ったお盆をテーブルのようにしてベッドに置いてくれた。

 すでに準備をしていてくれたのだろう。

 わたしが目覚めたらすぐに食べられるように。

 わたしはいろんな人に感謝をしつつスプーンを手に取った。




「あの、シャーロット先生ありがとうございました」

 温かいスープを食べ終えて、わたしは改めてシャーロット先生に頭を下げた。

 食べている間、シャーロット先生はベッドわきの小さな椅子に腰かけてずっと待っていてくれた。


「私は何も。それよりもアルフレッドを手遅れなんて言って申し訳なかった」

「いえ。あの場合はそう考えるのが普通だと思います。あの時わたしを正気に戻してくれたからみんな助けられました」

「私としては念願の救世主様の魔法をこの目で見られるという栄誉を頂けただけで」

 変わらないシャーロット先生の研究堅気な発言に笑いが漏れる。

 そういえばあの時はそれどころじゃなかったけど、シャーロット先生もドレス姿だった。

 こんな美人さんがあんなに着飾っていたのに朧げにしか記憶がないとは残念なことをしてしまった。


「あ、そういえばどうしてあの時毒に冒された人と無事な人がいたんですか」

 シャーロット先生はじめ他の人も何人か毒に冒されていない人はいた。


「ああ。魔法だよ。魔法に通ずる者なら、ああいった場合の対処法も身に着いている。あの場合は水と風の魔法を使って自分の体の周りに膜を張り毒の侵入の防ぐ。陛下もそうやってご自分の身を守られていた」

「なるほど…」

 なんでもないことのように言っているが、咄嗟の判断でそこまでできるのってすごいことだよね。

 わたしなんてぼうっとして毒打ち込まれたにもかかわらず勝手に解毒までしてくれるんだから、そう意味では救世主ってやっぱりチートなんだな…。


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