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7.夜会という名のお見合いが続きます

 あれから10日ほど経った。

 毎日のように開催される夜会という名の見合いにわたしの精神は疲労困憊だ。


 ここにきてわたしでもわかる。

 みんなが見るのは救世主様という人物。

 わたし自身を見ているわけではない。

 救世主様という立場ももちろんわたしなのだろうが、そうではなくわたし自身には全く興味を持たれていないというか…。


『救世主様はどのようなお力を使われるのですか?』

『救世主様は魔力量が無尽蔵だとか』

『黒き髪に黒曜石の瞳。伝承に違わぬそのお姿はとても人目を惹きます』


 力と魔力と容姿。

 わたしに質問される3大ワードだ。


 時に王妃様のように向こうの世界に興味を持たれる方もいるが、そういう人たちはどこかわたしを神聖化しているようで気を抜いたら拝まれそうで怖い。


 宰相さんも加わってとにかくいろんな貴族の人たちとは顔見知りにはなった。

 どんな職に就いているか、領地の特産は何か、あとは魔力量や得意魔法など。

 ここまでくるとホントお見合いだよ…。


 だけども、どうも本心は見えない。

 貴族って腹のうちを見せないって聞いていたけどここまでとは。

 こんな上辺だけのおしゃべりで結婚を意識するほど仲が進展するのだろうか。

 わたしは無理だな…。


 いろんな貴族の人たちからどんな賛辞の言葉を述べられても、思い浮かぶのは全く会えないアルの姿。

 人づてに話しを聞いて思った。

 アルだって貴族でずっと腹の内を見せない生活をしてきていたのだ。

 常に無表情でご令嬢にすら必要最低限の言葉しか交わさない。

 はじめ話を聞いたときは誰の話だ?なんて思ったりもしたけど、それがきっとこちらの常識。

 だけど、わたしと接するアルはとても自然体だ。

 きっとわたしが貴族の常識と程遠い言動だから合わせてくれていたのかもしれないけど。

 それでもわたしはそんなアルの言葉に行動に救われてきた。

 わたし自身を見てくれていた。

 常にわたしのことを考えて、どこでもわたしが居心地よく過ごせるように。


 優しく輝くアメジスト。

 甘い響きで呼ばれる名前。

 会いたい、とそう強く思う。


 もうわかっている。

 この気持ちが恋愛かどうかよりも、わたしはこの先誰と出会ってもアル以上に好意を寄せる人はいないと。

 今一緒にいたいのは誰か。

 その答えはちゃんと自分の胸にある。


 







「お疲れのようですわね」

 その言葉でテーブルの向かいに座るカミラ様が心配げな表情でわたしを見ていたことに気づく。

「あ、申し訳ありません…」

 そうだ、今はカミラ様とのお茶会だ。

 連日の夜会に疲れているわたしの息抜きの場なのに。

 ついつい夜会を思い出して暗い顔をしてしまった。

 カミラ様に心配をかけて情けなくもある。

 カミラ様だって公務があるのにこうやって時間を作ってくれているのに。


「謝ることはありません。毎日のように慣れない夜会でお疲れになるのは必然です」

 そんなわたしにも優しい言葉をかけてくれるカミラ様。

 だめだな。

 わたし弱っている。

 涙腺が崩壊しそうだ…。


「宰相にも困ったものですが、こちらからも強く言えずごめんなさい」

「いえ!カミラ様が謝ることでは…。わたしこうして時間をつくってくださってお茶をご一緒できること本当に感謝しているんです。それなのに暗い顔しちゃって、ダメですね」

 笑顔をつくるもどうもうまくいかない。

 感謝していることは本当のことなのに、うまく言葉と表情がつながらない。

 わたし、ちゃんと笑えなくなってる。


「思うことがおありなのですね」

 カミラ様に隠し事はできない。

 きっとわたしの本心なんて見抜いちゃうから。

 だから素直に言葉がこぼれる。

「会いたいんです。アルに…」

 言葉は本心だが、楽しいお茶会でこんな愚痴みたいなこと言ってしまった。

 いたたまれなくて顔をあげられない。

 このままじゃカミラ様にまで気を使わせてしまう。

 そう思いわたしは顔を上げた。

 目の前のカミラ様がいつの間にかわたしの横に立っていた。


「あ、あの、ごめんなさい。楽しいお茶会に…」

「大丈夫ですよ」

 カミラ様の手がわたしの背にそっと添えられる。


「大丈夫です」

 同じ言葉を繰り返して何度も背をさすってくれる。


 その手が暖かくて、声が優しくて。

 わたしは涙がこぼれるのを止められなかった。


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