6.マオと離れて過ごす日々 sideアルフレッド
マオは今何をしているのだろう。
マオと出会ってからこれほど離れることがあっただろうか。
王都に来てまだ3日なのに、もうずっと会っていないようだ。
「アルフレッド様、本邸のジェイド様より早馬が届きました」
「ああ」
王都のタウンハウスの執務室で執事から書類の束を受け取る。
ぱらぱらと捲りながら目を通していく。
仕事でもしていないとおかしくなりそうだ。
陛下の言い分もわかる。
いや、陛下というよりは宰相であるヴィーグル公爵殿か…。
あの男がマオを王都に留めおきたい筆頭者であることは確実だ。
マオの引き渡しを急かしてきたのも宰相殿なのだから。
陛下との謁見でチクチクと嫌味を言われたことを思い出す。
23年貴族として生きてきて、腹の内を探らせない仮面をつけることは慣れているはずなのに。
腹芸とは程遠い素直なマオに感化されたか。
『ほう。氷の騎士がいい表情をするようになったではないか』
シャーロット様にも似たようなことを言われたがもはや陛下にまでそう言われるとは…。
この国では未婚の女性が婚約者でもない異性と行動を常に共にとることはない。
本邸でのマオとの接し方がこの国では異常ととられてもおかしくないのだ。
この国のことをよくわかっていないマオはそのことを不思議にも思わなかっただろう。
俺がただそうしたかっただけ。
もう何人かの貴族とは顔合わせをしたのだろうか。
その光景を思い浮かべるだけで家全体を凍らせてしまいそうだ。
人に執着することがなかった俺にこんな強い独占欲があったなんてな。
マオのお披露目の日、俺は王宮の警備を命じられた。
しかも会場であるホールから一番遠い北塔付近だ。
体よくお披露目の夜会から追い出されたのだ。
俺が今までマオを独占していたのがよほど気に入らないらしい。
まあ、それも想定内ではあるが。
それよりもマオに何も告げずに王宮を出たことが心残りだ。
すぐ戻ると言ったのに。
その言葉を果たせぬまま。
マオはしっかりしているが結構寂しがり屋だ。
今頃寂しがってはいないか。
これは俺の願望だろうが…。
ぱらぱらと捲っていた書類に気になる文字を見つけ手が止まる。
ジェイドからの魔の森に関する報告書だ。
マオが領地を離れたしばらく後に魔物がまた砦付近に出たという報告。
「そういえば、マオが本邸にいるときに魔物の目撃情報はなかった…」
魔物自体ブラッディベアほどの大物でなかったため、砦の兵士で討伐完了とある。
「救世主様であるマオと魔物との関係性…か」
マオが来てから本邸に置いてある伝承を読み返してみた。
救世主様の活躍は多岐に渡る。
その国その国で何か困ったことが起きた時にその力に特化した救世主様が遣わされているかのようだった。
この国に来たのは100年以上前。
スターク国東側に位置する町で大干ばつが起き、大規模な食料不足に陥った。
その地にいる者たちで水の魔法を使っても回復しないほどの干ばつ。
そこに現れたのが救世主様。
無尽蔵の魔力で水を作り、乾燥地で今や常識となっているカンガイ農業という方式を生み出した人物。
その方は作物に詳しく、またその方が育てる作物は大きく美味しく育ったという記述もある。
また別の国では隣国との戦争中に現れた救世主様が、今だ破られることのない結界を張り他国からの侵入を一切許さない国になったとか。
「そういえば、あの伝承の一節…」
マオが現れた時に思い出した一節。
どこかの伝承で読んだと思っていた。
だが、色濃くなる瘴気から始まるあの一節はどの伝承にも載っていなかった。
瘴気の話などこの国ではうちの領地くらいしか出てこないだろう。
俺はあの伝承を一体どこで…。
その時ノックの音が響いて俺の思考はそこで止まった。
「どうした」
「王宮からです」
「わかった」
手紙の中を取り出しさっと目を通す。
タウンハウスに着いて早々王宮へあてて、俺はマオとの面会の取次ぎを申請した。
その返事だった。
「くそ…」
取次ぎ不可の文字の書かれた手紙が俺の手の中でくしゃりと音を立ててつぶれた




