5.わたしのお披露目会だそうです
眩しっ!
目がチカチカする…。
すごいシャンデリアがわたしのいる中2階から直接目に飛び込んでくる。
わたしは今大変場違いな場所へと駆り出されている。
眼下には大きなホール。
わたしはホールのらせん階段上部の踊り場にいる。
煌びやかなドレスや上質な礼服を着た人たちを見下ろしている状態だ。
まあその人たちはというと…。
跪いているよね…。
もう何度目の光景か。
クラリとめまいがしそうなこの光景にもとにかく踏ん張ってその場で立っている。
ヒールが高いよお…。
足がガクガクする。
数時間前の和やかなお茶会とは打って変わっての華やかな場所。
シルバーのキラキラしたドレスを身に着けて、頭にも耳にも首にも大変大きな透明の宝石を付けて。
向こうでいうダイヤモンドのような感じだ。
金額のことはわからないけど、ついつい考えちゃうのは庶民のクセみたいなもんだよね。
足元も同じくシルバーの恐ろしくヒールの高いパンプス。
黒髪を目立たせるためとかで髪の毛はハーフアップにされている。
眩しく輝くその場所でわたしは無意識にシルバーブロンドを探してしまっていた。
だが、見つからない。
アルは来ていないのかな…。
手すりを持つ手に力がこもる。
「皆の者、楽にせよ。今宵はこの国に156年ぶりに現れた救世主様を紹介しよう」
王様の発言により、跪いていた人が次々に立ち上がり一斉にこちらを見上げてきた。
「ひえ…」
そんな言葉が出てしまったが必死に飲み込み、わたしは引きつりながらも笑みを浮かべる。
「マオ殿だ」
未だかつてこんなに注目を浴びることがあっただろうか。
いや、ない。
震える足で一歩前に出る。
目の前には大きな階段だ。
これをこの注目の中、降りろと…。
階段ってどうやって降りるんだっけ?
足って右足から?それとも左足からだっけ?
もはやパニックだ。
そんなわたしに影ができる。
「ア…」
アル、な訳がなかった。
「へ、陛下……」
「手を」
「すみません…」
すっと差し出された手を取ると、陛下はゆっくりと階段を下りた。
後に続いてなんとか躓くことなく下に降りられたわたしはそっと息を吐いた。
そのまま宰相さんが言っていた通りわたしは用意された王様の隣の席に着いた。
わたしの隣には相変わらず鋭い視線をした宰相さんが立ち、次々来る貴族たちの紹介をしてくれていた。
とはいえ、覚えるのが苦手な長いカタカナ名。
もう頭がパンク寸前。
なんだかいろいろと口上を述べられるも全く頭に入ってこない。
とりあえず宰相さんからは笑顔で一言言うように言われている。
「よしなに」
これだけある。
そう言ってまた次の人へ、となるのだ。
「救世主様、よろしければ軽食など」
一通り挨拶が済むと、隣の宰相さんが横を指し示しながらそう言った。
ホールのサイドにはテーブルに様々な料理が置かれている。
どれも一口で食べられそうなものばかりだ。
「あ、いただきます」
緊張のため全く空腹を感じなかったが、挨拶も終えた今ほっとしたのか少しお腹が空いていることに気づく。
わたしは促されるまま料理の乗るテーブルに向かった。
「いかがでしょうか。今回紹介した中でも最初の数人はこの国でも重要な役割を担う貴族たち。年齢も20代と救世主様とも話が合う者がいるかと」
後ろを歩く宰相さんがそうわたしに囁きかける。
本題はそれか、と思った。
お披露目もあるのだろうが、きっとそういった貴族たちとの顔合わせも兼ねているのだろう。
「わたし、今まで結婚を考えたこともなかったもので」
言いながらわたしの目線は美味しそうな料理たち。
見ているとさらにお腹がすいてきた。
だが残念なことにわたしの体にはきつーくコルセットが巻かれている。
とりあえずな魚介類のカルパッチョのようなものと、瑞々しい果物を数種類お皿に盛ってもらった。
「でしたら是非ともこの機会に考えていただきたく。容姿、能力、性格など救世主様のお好みに合わせます故」
マッチングアプリか!
カルパッチョのようなものを一口口に入れながら思わずツッコミが脳内で出る。
なんというかここにきて宰相さんの表情がここまで変わったのは初めてではないだろうか。
すごく前のめりだ。
よほどわたしと重要な貴族との縁談を望んでいるようだ。
だが申し訳ないが先ほどのあいさつでは名前と顔が一致している人がいない。
いや、頑張ったよ。
でも次々来るから…。
覚える前に次の人が来てしまって。
かろうじて名前を憶えても顔が思い出せない。
そんな感じだ。
まことに申し訳ない。
心持ち興奮している宰相さんに心の中で謝っておいた。
そう、決して宰相さんがアルのことは全く頭数に入れていないことに腹を立てているわけでない。




