2.魔獣との攻防 sideアルフレッド
大きく振り上げた腕の下へ潜り込み、素早く振り下ろされる腕より速くブラッディベアの胴を目掛け下から上へと剣先を振り上げる。
どろりとした血が体中にかかる。
だが、目の前のブラッディベアはそんな傷をものともせず鋭い爪を俺に振り下ろしてくる。
「っく!」
素早く横へ体を滑らせその爪を避けるが、なぜか力が入らずその場に膝をついた。
その隙をつくように今度は下から爪を振り上げられた。
間に合わん…!
「ぐ…っ」
気だるい体を叱責して後ろに飛びのくも一歩遅く、目の前に自分の鮮血が飛び散るのが見えた。
「アル!!」
さらに振り下ろされてきた爪を後ろから飛び出してきたジェイドが剣ではじく。
「アルフレッド様!!」
「とにかく支援だ。氷風、火以外の魔法でアルフレッド様を守れ!」
後方からは絶え間なく氷の矢や風の刃がブラッディベア目掛けて飛んではいるが、どれもブラッディベアに傷を負わせることができていない。
「なんって防御だよ…」
ジェイドが呟きながら俺の前に立ち剣を構える。
俺は膝をつきながら手を地面に置き、魔力をこめる。
目の前のブラッディベアを足元から鋭くとがった氷で串刺しにした。
動きを止めたところでさらに魔力を込めその体ごと氷漬けにしていく。
だが、その体の大きさと今の自分の体の状態から体半分ほどしか凍らせることができない。
今まで討伐してきたブラッディベアとは明らかに違う。
黒い毛に覆われた個体。
太い腕に鋭い爪。
口からは牙が見え隠れしている。
姿かたちは今までのそれと同じ。
だが、その大きさが、力が防御が、その全てにおいて今までの個体とは比べ物にならない。
いまだ力が入らず、震えも出てきた体だが気合で立ち上がる。
足止めできている間に止めを刺す。
剣を握りブラッディベアに寄るも、どうも足元がおぼつかない。
この症状はどう考えても・・・。
「…毒、か……」
「な、なんだと?」
俺のつぶやきを拾ったジェイドが焦ったように返す。
「血にも…、爪にも毒があるようだ……っは…」
かすむ目を頭を振っておいやり、ふらふらになりながらも剣を構える。
傷は致命傷ではない。
だがこの毒が厄介だ。
これまでブラッディベアに毒があるなんて聞いたことがない。
もちろん今まで討伐してきた個体にもそういったことはなかった。
何が理由かはわからないが、魔物が進化していることだけは確実だった。
「マジかよ…」
普段軽口しかたたかないジェイドの焦った声音。
瞬間目の前のブラッディベアが大きな咆哮を上げた。
ブラッディベアの体を覆う氷がはじけ飛ぶ。
「ぐっ!!」
「ぐわっ!!」
周りから兵士のうめき声が聞こえる。
その咆哮が衝撃波となり、近くにいた俺やほかの者たちの動きを封じた。
なんっだ、この力は…。
諦めるわけにはいかないのに、俺は大きく振り上げられた腕がそのまま振り下ろされるのを見ていることしかできなかった。