2.王宮は何もかもがゴージャスです
わたしは今、馬鹿みたいに口を開けて目の前の建物を見上げている。
「おっきい…」
これぞヨーロッパのお城!というのにふさわしい豪華で壮大な白亜の城が目の前に聳え立つ。
海外旅行なんぞしたことないわたしには、テレビや写真でしか見ることができないお城だ。
アルの本邸を出て5日目の朝にこの立派なお城に着いた。
道中は極秘扱いのわたしたちは、当初より決められている街の宿に夜更けに着いてひっそりとご飯を食べて眠りそして朝も早いうちから出発、ということの繰り返しだった。
そのため休憩はこまめに取られていたものの早めの時間にこの王宮に着けたわけでもある。
「ふわあ…。」
馬車から降りて案内されるがまま立派な門をくぐれば、足元はピカピカの大理石。
屋根がある外廊下だ。
屋根を支える柱は真っ白で上部の飾りは天使を模しているようだ。
この場所は中庭なのか、緑あふれる空間にこの廊下がまっすぐ続いている。
緑の香りと鳥のさえずりに疲れた体も癒されていくようだ。
木漏れ日のあるあそこに寝転がったら秒で寝る自信がある。
アルの本邸の庭もすごく広いし花が溢れていてすごくいい雰囲気なのだが、ここはもうピクニックにでも行くような森のようだ。
さすが王宮。
規模が違う。
そんな森を眺めながら長い廊下を歩いていくと、真っ白な細かい文様が施された大きな扉の前に来た。
扉の両側を守るように立つ騎士のような人がその大きな扉を開けると、中に真っ赤な絨毯が敷き詰められたホールに入った。
両側には大きな階段。
そちらにも真っ赤な絨毯が敷かれている。
一歩進むと先ほどとは打って変わって毛足の長いふかふかの絨毯に思わず躓きそうになる。
そのたび大きな手がわたしをしっかりと支えてくれる。
そうだ、わたしにはアルがいる。
わたしが横を見上げると、大丈夫だというようにアルがほほ笑みながら頷いてくれる。
シャーロット先生は家に用事があるというこことで、王宮の手前で降りてしまった。
なので、わたしは今アルと二人、王宮の中を案内されつつ歩いているわけだが。
長い…、遠い…。
先ほどから階段を上ったり廊下を曲がったりとどれだけ広いのか。
いや確かに外からみたお城はかなり大きかったが。
もう迷子になる自信しかない。
そうしてようやっと一つの部屋の前で立ち止まった。
「こちらで少々お待ちください。先にアルフレッド様に謁見の許可が下りています。」
「マオ、すぐに戻る。」
アルはそう言うと促されるままその扉の中に入っていった。
「救世主様はこちらへどうぞ」
アルと離れたことで多少の不安を感じつつ、案内されるがままその人の後について歩きだした。
アルと別れて1時間ほど。
わたしはというと、別室に案内され王宮のメイドさんにお茶を淹れられ色とりどりのお菓子を目の前に置かれ、アフターヌーンティーのようなスイーツブッフェのようなおもてなしを受けていた。
3人は余裕で座れるほどの大きなふかふかの濃いグリーンのソファに、真っ白な大理石のテーブル。
そこに所狭しとおかれたスイーツの数々。
部屋は10畳ほどで絵画や壺などがセンス良く棚に置かれている。
まあ、芸術などにはとんと疎いにわたしにセンス良くなんて言われても誰も喜ばないだろうが。
わたしは周りの美術品を一通り眺めた後、自身の目の前のスイーツを見る。
向こうの世界でも目にするようなマカロンやミニケーキ。
チョコやゼリー、シュークリームなどもある。
どれもおいしそうなスイーツなのに。
それらを目の前にしてもわたしは楽しめないでいた。
アルの本邸ならばレーナや他のメイドさんたちともおしゃべりをしながら楽しいティータイムを過ごすのだが、なにせこちらのメイドさん先ほどから目も合わせないし話ができそうな雰囲気がない。
淡々とお茶を淹れてくれてスイーツやお茶の説明はしてくれるもののそれはどこか業務連絡のようで、楽しいティータイムとは程遠い。
こういう時、わたしはアルの家では恵まれた環境で過ごしていたのだと痛感する。
きっとこの距離感がこの世界でのわたしと使用人たちとの距離なのだと思った。
お礼を言ってしまった時なんて表情を崩さなかったメイドさんの顔が引きつったようにも見えた。
わたしはいかに自分が無知なのか思い知らされる。
これもきっとアルがわたしに住みよい環境を提供してくれていた優しさのお陰で、本来ならばこういった対応がここでは普通なのだろう。
なんだろう。
無性にアルに会いたくなってきた。
その辺も含めてちゃんとお礼が言いたい。
わたしは薫り高い紅茶を一口口に含んだ。
紅茶に詳しくもないわたしでもわかる、高級そうな香りが口の中に広がる。
それでも考えるのはアルのこと。
まだお話は終わらないのかな…。
慣れない場所、他人行儀なメイドさん。
わたしはひどく心細さを感じていた。
結局、すぐ戻ると言っていたアルとはその日会うことができなかった。
そしてまさかその日以来、何日も会うことができなくなるなんてこのときは思ってもいなかった。




