1.魔獣の脅威 sideアルフレッド
「アルフレッド様、砦より緊急要請です」
ノックとともに入ってきた部下が告げた言葉に俺は顔をしかめた。
「状況は?」
見ていた書類を目の前にある書類の山へバサリと置きながら、部下に先を促す。
「ブラッディベアが砦付近の森で暴れています。今までの個体と違い、力も大きさも段違いだそうです」
「またか」
最近起きている異変。
スターク国の西側にあるこの領地には魔の森と呼ばれる瘴気が濃い森が広がっている。
代々この領地を治める領主にはその瘴気から生れ出る魔物を討伐するため、剣はもちろん魔法の腕がたつことが要求される。
この地を治める現領主である俺はこの地を治めるべく幼いころから努力を重ねてきた。
気づけば23になった今では王都にいる騎士にも負けない強さを身につけた。
幼いころから神童と言われた俺は魔力が強く、剣技もおろそかにすることなくとにかく己の力を磨き続けてきたのだ。
そんな俺は15歳のときに事故で両親を亡くした。
前領主であった父親が亡くなり、課せられたのは領地運営という重責。
幸運なことに周りには恵まれていた。
優れた部下や父の代からの側近などの力も借り、数年で運営も軌道に乗った。
そんなこの領地で今一番頭が痛い問題。
魔の森の魔物たちの力が増していること。
魔力・体力・攻撃・防御、すべてにおいて今までの個体をしのぐ強さの魔物が多くなっていることは自分自身討伐してきて感じていることだ。
「すぐ向かう。ジェイド」
一礼した後ドアから出た部下を見てから同じく膨大な書類に埋まる側近へ目をやる。
「はいはい、俺も行きますよ」
赤茶色の短髪をかき上げたジェイドがため息をつきつつ立ち上がる。
「…まったく、書類が減らねぇよ」
ぽつりと一人ごちたジェイドをおいて一足早く俺は部屋を出た。
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本邸より馬を走らせること30分。
魔の森手前にある砦に馬を預け、俺とジェイドは十数人の兵士とともに森へ入る。
「相変わらず嫌な空気だな」
隣で腕をさするジェイドに軽く頷きながら先を急ぐ。
べっとりとまとわりつくような空気感。
瘴気と言われる魔物の元になるもの。
「あそこです!」
しばらく歩くと開けた場所にソレはいた。
開けたと言っては語弊があるかもしれない。
その場所は暴れているソレが作ったようなものだった。
そこら中に倒れた樹。
根元から掘り起こされたものや真ん中あたりで折られているもの。
真ん中にいるソレ、ブラッディベアは大きな躯体をしならせ、そこらじゅうの物を手当たり次第に破壊していく。
大木の幹ほどある太い腕に鋭い爪。
振り回すたび樹が倒れ大きな爪痕が地面につく。
周りを取り囲む十人ほどの兵士はそれをよけつつ魔法や剣で応酬しているが、疲労色濃く全員が傷を負い肩で息をしている状態だ。
これ以上進ませるわけにはいかない。
魔獣を町へ出してしまうと甚大な被害をもたらすことは火を見るよりも明らかだ。
ここで食い止める、そんな必死の思いで兵士たちは戦っていた。
「ア、アルフレッド様!!」
一人の兵士がこちらを確認して安堵の表情を浮かべた。
「けが人は後方支援へまわれ!」
声を張りあげ、俺は腰の剣を抜きながらブラッディベアに向けて駆け出した。