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7.街へ連れて行ってくれるってよ

「マオ、ずっと忙しくして済まない。なんとか調整ができたので明日は休暇を取ろうと思う」

「そうなんだ」

 ここにきて2週間ほど。

 ずっと休みなしのアル。

 向こうだったら過労死レベルのブラックすぎる企業だ。


 ゆっくり休めるといいね。

 なんて思っていたらアルの口から思ってもみなかった提案が。


「その、街へ出ないか…?」

「え…?」


 街、というとここに来た時に馬車から見ただけのあの…?

 活気があって楽し気な声が聞こえていたあの場所…?


 なんとなく救世主という立場では外に出てはいけないのかな、と思っていたからこちらから言い出せる訳もなく。

 本邸も庭も広いからそれほど退屈せずにいたのだが。


 街とな!


「行きたいっ!」

「そ、そうか。実は明日はマオの予定も空けてもらっていたんだ」

 手際よすぎか。


 だが、なにはともあれ。

 街だーーーーー!!





 白のブラウスにモスグリーンのスカート。

 スカートは腰回りに紐が編み込まれ、パニエが入ったかのような膨らんだデザイン。

 丈は珍しくひざ下(ここに来てからのスカート丈はすべて踝がかくれるほどのロングだった)で、ロングの編み上げブーツ。


「マオ様、お似合いです」

 準備を手伝ってくれたレーナが楽し気に笑う。

 どうやらこれは町娘風だそうだ。

 鏡の前でくるっと回るとふんわりスカートが揺れて可愛い。

 シンプルなロリータファッションみたい。


「あとはこちらを」

 レーナに渡されたのは明るいブラウンのウィッグ。

 黒髪は目立つみたいなので変装用だ。

 それに黒縁メガネをかければお出かけコーデの出来上がり~。


「ありがとう、レーナ!」

「楽しんできてくださいね」


 部屋を出るとノックしようとした格好で固まったアルがいた。

 アルは白のシャツに濃い茶色の革のパンツにショートブーツを履いていた。

 アルは街の人には顔バレしているので変装の必要はないのだが、わたしと服装を合わせたいとのことでアルも街の人たちのような装いだ。

 だが、とわたしは目線を上げる。

 ボタンを2つほど外したそこは鎖骨が見え、鍛えられた胸筋も見え隠れしている。

 なんていうか…。


 色気がすごいのよ。

 隠せてませんよ、色気。

 ほんとに同じ年なのか。

 いやもうわたしに色気がなさ過ぎて申し訳なくもなる。

 それなのに、アルはわたしを見た途端顔を輝かせた。


「マオ…っ!可愛い!」

「あ、ありがとう…」

 いつもいつも褒め殺しのアルに、わたしはいまだ慣れない。


「マオ、手を」

 すっと差し出される手。

「あ…うん」

 これはあれだ。

 エスコート、そう貴族社会では当たり前のやつ。

 うん、決して甘い雰囲気のアレではない。

 だれともなく言い訳をしつつわたしはアルの手を取った。

 瞬間アルはあろうことかわたしの指と指の間に指を絡ませるいわゆる恋人繋ぎをしてきて、ぐいっとわたしの体を引っ張った。

 自然とくっつく腕の感触に心拍数急上昇だ。

 目を上げると極上の笑みを漏らすアル。

 顔がいい人の笑顔の破壊力といったら。

 距離の近さやアルのわたしを見る目が恥ずかしくて自然と視線も下に下がる。

 




 と、そんな照れはどこへやら。

 街に出ると全部が目新しくて、あっちもそっちも気になって仕方がない。

「ははっ、やはり手を繋いでいて正解だな」

 ふらふらと右に左に行くわたしをそのたび繋がれた手が引き戻してくれる。


 だって仕方がないではないか。

 見たことがない屋台があちらこちらに。

 何を隠そうわたしはお祭りでテンション上がるたちなのだ。

 何年も行っていないが、とにかく物心ついたころからお祭りは好きだった。

 ここはそんなお祭りの雰囲気に似ている。

 屋台には美味しそうなお肉の串焼きが売っていたり、カラフルなフルーツや野菜が並んでいたり、雑貨やアクセサリーもある。


「この広場は普段からこういった屋台が出ていて、店を持たない商人や小遣い稼ぎの子供たちが手作りなどを売ったりしている」

 広場の奥には店舗が立ち並ぶ通りが見える。

 お店を持たない人でもこうやって商売ができるのはいいよね。

 こういった場所で掘り出し物を見つけるのも楽しいものなのだ。



 それにしても、とアルを見上げる。

 アルが当主であることは知っているようだが、結構みんな遠巻きに見ているだけで声をかけられたりはしていない。

 誰もがみんな驚いているような顔をしている。

 はじめは当主のアルが街を歩くのが珍しいからかな、と思っていた。

 だが、アルと一緒にこの街に来た時みんな歓声をあげていた。

 手を振ったり話しかけたり。

 だけども今はみんななんとも言えない顔をしている。

 そう、隣のわたしを見たあたりからざわめきというかどよめきが起こっていた。

 口をあんぐり開けたまま微動だにしない人や、なぜか生暖かい視線を送ってくれる人。

 さっき買ってくれたこのフルーツジュースの店員さんも顔を赤らめてはいたが、どこか信じられないものを見たかのようにちらちらわたしとアルを見てきていた。


 首を傾げつつも近くにあるベンチにアルと並んで座る。

 わたしのジュースはきれいな赤い色をしている。

 飲むと甘酸っぱくてすっきりしている。

 イチゴのような甘さに柑橘のさわやかさが混じったような。

「美味しい…」

「それは今が旬のオランドベリーだな」

 ふむ、聞いたことがないな。


 今までいろいろと食材の名前を聞いてきたが、やはりここは異世界。

 似た味のものはあるが、同じ食材は見たことがない。

 アルの手元をみると、わたしとは違うこれまた鮮やかなグリーンのジュースをもっている。

「こちらはメンタという野菜にいろいろなフルーツが混ぜられて飲みやすくされているものだ」

「へえ」

「さっぱりしていて好きなんだ。……飲んでみるか?」

「え!いいの?あ、じゃあアルもわたしの飲んでいいよ」

 わたしはアルが差し出したジュースのストローに口をつけた。

 ミントっぽい!

 すっと鼻を抜けるのは薄荷のさわやかな香り。

 そのあとでほんのりとフルーツの味が混じる。

「さわやかだね~」

 そう言ってアルをみるとなぜか真っ赤で固まっている。

「あれ?飲んだらまずかった…?」

 飲んでみるか、と言われて飲んだが、なにか粗相をしてしまっただろうか。

「い、いや…そういうわけでは…。マオが気にしていないなら…」

 最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったが、問題はないようだ。


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