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6.やっかいな同居人 sideアルフレッド

「かわいい子じゃないか」

「…シャーロット様」


 執務室に顔を出したのはマオの魔法の授業を受け持っているシャーロット・エーカー。

 エーカー公爵家のご令嬢だ。

 由緒正しい3大公爵家のひとつ。

 だがその3大公爵家の令嬢でもあるこの目の前の方は若いころから魔法に没頭し、21歳の若さで王都の魔法師団の副団長まで上り詰めたほどの方。

 変わり者の令嬢として王都では有名だ。


 俺が出会ったのは王都の騎士団に所属した13のころ。

 そのときはすでに魔法師団の副団長だった。


「まさかあなたがマオの魔法の先生とは思いもよりませんでした」

「魔法師団の団長宛ての手紙の内容はわたしには筒抜けなのだよ」

 それはかなり問題があるのでは?

 そう思ったが口には出さなかった。

 何か言えば10や20返ってくるのだ。

 黙っているのが一番いい。


「こんなに面白いこと、ほかに任せるわけがないだろう」

「研究室にこもっているものだと」

 この変わったご令嬢は魔法に取りつかれ数年で副団長をやめ、その後は研究室で魔法についての研究に没頭していたのだ。

 魔法の実力、知識とも彼女以上の魔法の先生はいないだろう、と思う。

 幼いころからなにかと揶揄われてきたから苦手意識はあるが。

 魔法の先生の紹介を魔法師団の団長に向けて頼んだところ、やってきたのが彼女だった。

 王都から来たのだから住む場所がない。ここに住まわせてくれ、という申し出とともに。

 昔から思い付きで動き回る人で当時の魔法師団の団長や下に付く部下たちがいつも尻拭いをしていたのを目にしていた。


「実は救世主様の魔法は5属性以外ではないかという見解もあってね。それをこの目で見られるのだからこの機会をみすみす見逃す気はないよ」

「マオのこと研究対象かなにかだと…?」

 若干ピリッとした殺気を放ってしまったが、目の前の人物はどこ吹く風だ。


「難攻不落の氷の騎士はすっかり陥落したようだな。人らしくなってきたではないか」

「………」

「マオ様を研究対象というよりはマオ様の魔法を研究したいとは思っているがな。だが本人がどうも綺麗すぎてな。毒気を抜かれまくりだ」

 くつくつと笑う様子に息を吐く。

 この方のこの表情によほどマオは気に入られたということがわかる。

 人に興味がないことに関しては俺よりもあちらの方が上だ。


「アルフレッド、これからが大変だぞ。救世主様が現れたと王宮で噂になっている。かん口令が敷かれていたとはいえ、あの様子だと王都中に噂が広まるのは時間の問題だな。お前に対するやっかみもこれから増えるだろう」

 急にシャーロット様の声が真剣味を帯びる。


「承知しています」

「まあ、伝承の救世主様だからな。さすがに魔力が豊富だ。それでいて吸収も早い。言ったことをすぐ理解する頭。様々なものをイメージできる想像力、そしてそれを完全に具現化できる豊富な知識。彼女はかなりの魔法の使い手になる。それを知られればますます王宮いや王都は必死にマオ様を手中に収めたがるだろうな」

 マオが優秀だと言うのはシャーロット様だけではない。

 マオのために依頼したどの先生も口をそろえて言う言葉だ。


「だが…」

 ふと、目の前のシャーロット様の声が低くなりそちらをみると面白そうににやりと口元を歪ませる。

「攻撃に関しては全く使い物にならない」

「攻撃魔法ですか…?」

「何かを攻撃するイメージが全く持てないようだ。たとえば殺傷能力の高い高温の炎を創り出すことはできる。氷の矢も風の刃もその場に創り出せるのに、それを何かに向けることができないのだ。練習で使ったのはただの板だが、それに向けて放つように言っても板に当たる前に消え失せる。意図してやっている感じではなかった。おそらくマオ様のいた世界の影響だろう。戦いのない世界だと聞いた」


 確かにマオは優しすぎる。

 マオのいた世界はきっと平和で優しい場所だったのだ。

「マオを戦わせる訳ないでしょう。それは私たちの役目です」

 マオに魔法の先生をつけたのは戦わせるためじゃない。

 この世界を知りたいというマオの思いに応えただけ。

 マオを守るのはオレでありたい。

 そのための努力ならばいくらでもする。


「ちゃんと守ってやれよ」


 俺の気持ちを知ってか知らずかそう一言残してシャーロット様は執務室を静かに出て行った。


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