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4.この世界のことを勉強します

 今までこれほどゆったりした時間を過ごしたことがあるだろうか。

 午前中は昨日レーナが言ったように仕立て屋さんがやってきた。

 体のサイズを測られるなんて学生の制服を仕立てた時以来だ。

 まあ、制服の流れ作業的な感じではなくもっと細かいサイズまで測られたわけだけど。

 それもあれよあれよという間に終わってしまって、この国のドレス事情など知るはずもないわたしはあとはお任せにしてしまった。


 そして今は昼食後のティータイムだ。

 ゆったりとソファで寛ぎながら香りのいい紅茶を飲んでいる。

 なんというか、優雅なひと時だ…。


 それに引き換えアルはかなり忙しいのか、昨日は夕食をとってすぐに執務室へ舞い戻ってしまった。

「来たばかりなのに案内もできずすまない」

 申し訳なさそうに眉をさげるアルに何が言えるだろう。

 仕事なのだから気にしなくていいのに。

 領地を管理するということは想像以上に大変なことなのだろう。

 ここら一帯治めているということなのだから、向こうでいう知事か市長か。


「マオ様、よろしければお屋敷内をご案内しましょうか?」

 2杯目の紅茶を淹れてくれたレーナが大変魅力的な提案をしてくれた。

 ここにきてわたしはまだこの部屋とダイニングしか往復していない。

 その提案にわたしは一も二もなく食いついた。

「ぜひ!ありがとうレーナ!!」


 わたしがお礼をいうとレーナはいつも困ったように笑う。

 わたしはこの世界では王族と同等の扱いだと聞いたから、おそらく身分とかの問題なのかもしれない。

 格上が頭をさげるのはよくないこと、なのかな…。

 挨拶は基本だと教えられ、とにかく謝罪とお礼は丁寧にを心掛けてきたからわたしも急には変えられない。

 昨日この家についたときにアルがわたしの思うように、と言ってくれたおかげでとくに注意もされないけど…。

 今のままじゃだめだな、と思う。

 郷に入っては郷に従え、だ。


 とりあえず、この国のこととかマナーや常識は早めに学ぼう。

 それまでは許してもらうとして、勉強については時間があるときにアルに相談しよう。





 だが………。


「昨日の夕食も今日の朝食もとても美味しかったです。ありがとうございます」

 厨房を覗かせてもらえば美味しかったご飯を思い出し。


「キレイなお花ですね。え!もらってもいいんですか。わあ…嬉しい。ありがとうございます」

 庭を見せてもらえば見たことのない花が色とりどりで目を輝かせ。


「こ、ここにある本どれでも読んでいいんですか?え?借りて部屋でも読んでいいんですか!汚さないよう丁寧に読みますね。ありがとうございます」

 最後に案内された書庫ではその量に圧倒され。


 わたしはその場にいる人たちに声を掛けずにはいられなかった。

 その先々で驚いた顔をされたけど、まあ勉強するまでは許してほしい。


 もはや図書館と言ってもいいほどの広さをもつ書庫で手近にあった本を一冊取り出す。

 ぺらぺらとページをめくると、なんとわたしは文字まで読めた。

 それならとこの国の歴史や初級マナー本など、あとは大変興味深い初級魔法の本を見つけてそれも一緒に持てるだけ借りた。

 そう言ってもほぼレーナが持ってくれた。







「マオ、今日はいろいろ本を借りたんだって?」

「そうなの!ここの蔵書ってすごいたくさんあるのね。図書館みたい」

 夕食の席でアルに今日あったことを話すのが楽しみの一つだ。


「仕事するにしてもこの世界のこと知らなすぎだし」

 何気に言った言葉にアルの表情が抜け落ちる。

「し、仕事…?」

 なんか変なこと言っただろうか。

 頭を傾げつつわたしは自分の考えを口にする。

「いつまでもここにお世話になるわけにはいかないし、仕事してお金ができたら家を借りて・・・」

「なぜ!?」

 がばっとアルが私の両肩をつかむが、何気に痛い。


「わ、わたしは成人しているし、働かざるもの食うべからずかな、って…」

 思わず日本のことわざを言ったわたしに、心底不思議そうな目を向けないでほしい。

 いや強制的にこちらの世界にやってきたのだとしても、自分の食い扶持は稼がないといけないと思うのは大人にとっては普通の考えだと思う。

 そう言うと、アルの手から力が抜けた。


「マオには国から予算が降りている」

「そうなの!?」

 アルの言葉に驚く。

 なんというビップ待遇。

 さすが王族と同等の権利を擁する救世主だ。


「マオはここから出ていきたいのか?」

 久しぶりに見た、アルのしょげた犬バージョン。

 その顔でそんな悲しそうに見ないでほしい。

 私の心臓がもたない。


「出ていきたいって言うか。すでにお世話になりすぎていると言うか」

「出ていきたいというわけではないなら、ずっとここにいてはくれないだろうか。国から予算は降りてはいるが、俺でもマオ一人くらい養える。魔獣の多い地ではあるが、マオには決して苦労はかけない。」


 え?プロポーズ?みたいなセリフを言わないでほしい。

 絶対勘違いしちゃうよ。

 わたしが本気にしたらどうするのだ。

 ちょっと、いやかなりぐらついたことは内緒だが。


 でもここでお世話になるとしても、このまま何もしないというのもな…。

 根っからの労働者だったわたしにとって、何もしなくていいという時間は落ち着かない。

 休日でも医学書など読んだりして常に仕事のことを考えているような社畜っぷりだ。


「あ…」

 ふと思いついたことがあるが、それをアルに言うのは図々しくないか、とも考える。

「どうした?何かあるのなら言ってほしい。マオにはできる限りのことをしたい」

 真剣な表情のアル。

 わたしに予算が出ているのなら少しくらいわがまま言ってもいいのかな。

 そう思い、口を開く。

「あの、わたしこの世界のことを知りたいの。本は借りたけど教えてくれる人がいるなら、その方が身につきそうだし。どうかな…」

「すぐ手配しよう」

 ぎゅっとわたしの手を取り力強く頷いてくれた。


 仕事のことはまた後で考えるか。

 とりあえずこの国や世界のことを知っていかないと。

 勉強は結構好きだから俄然楽しみになってきた。



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