3.これはスイートルームでしょうか
「ひ、広い…」
部屋に案内されたわたしの第一声がこれだ。
部屋に入った瞬間とにかくその広さに驚いた。
ホテルのスイートか、といったツッコミが出る。
いや、泊まったことはないが。
ネットで見ただけの知識だ。
大きな部屋に座り心地の良さそうなソファにテーブル。
「こちらは洗面所とお風呂場になります」
入り口右手側の扉をあけてレーナさんが案内してくれる。
広い洗い場の端のほうに鎮座するのは、予想をうらぎらないねこ足のバスタブ。
洗面所の次は広い部屋の奥に続く寝室へ。
こちらもまた広く、窓際には大きなベッドが。
その大きさはクイーンかキングか。
どちらにせよわたしが3人ほど寝ても余裕な大きさ。
しかも一度は夢見る天蓋付きだ。
びっくり所満載だが、寝室の奥にあるクローゼットを開かれたときには顎が外れるかと思った。
幅5メートルはあるかと思われる広さに並んだ服の数々。
上の方には帽子にバッグ。下は当たり前のように靴がずらりと並んでいる。
端にあるチェストにはアクセサリーが。
真ん中らへんの引き出しを開けてすぐに閉めてしまったわたしは悪くないはず。
「あの~、これって…」
恐る恐る聞く。
だって!
わたしの部屋だと案内されている以上、聞くまでもないだろうけど!
けど、もう数がおかしいよ。
わたし何人いるの?って話だ。
「もちろんマオ様の分です。時間が足らず既製品のみになりますが、明日には仕立て屋が参りますのでマオ様の気に入るデザインをお選びくださいね」
「し、仕立て屋…。はは……」
カルチャーショックすぎて乾いた笑い声しかでない。
「さ、マオ様どうぞこちらでおくつろぎください」
一通り部屋を案内してもらって最初のソファの部屋にいくと、なんとそこにはいつの間に用意されたのかお茶が用意されていた。
しかもケーキスタンドには色とりどりの小さなケーキやマカロン。
さらにはセイボリーまで。
「ゆ、夢のアフターヌーン」
日本でヌン活という言葉があるようにわたしも例にもれず写真映えするアフターヌーンの画像をよく見ていた。
そう見ていただけだった。
いつか行こうとか思っていたそれは叶わなかったが、まさかこちらの世界で叶えられるとは。
「美味しそう」
ふっかふかのソファに座り、目の前の芸術品のようなスイーツを見る。
「レーナさんも一緒に食べませんか?」
こんなにたくさんあるし、こちらに来て初めての女性ともう少し話したい。
そんな思いを込めて言うと、少し困り顔で笑うレーナさん。
「マオ様、私のことはぜひレーナと。あとはメイドである私は救世主様と一緒にお茶をするのは…」
「ごめんなさい、やっぱりダメなことなんですね」
知らないこととはいえ、常識外れなことを言ってしまったと恥ずかしくなった。
「いえ、いただきましょう」
「え!」
「アルフレッド様からも許可はいただいているので、ここは遠慮なくいただきます」
「あ、でもわたしもこれからはこの国の住民になるので、あまりにも常識外れなことをしていたら遠慮なく言ってください」
もうそれはガンガン言ってほしい。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。
「ふふ、かしこまりました。でもそれはゆっくりと覚えていきましょう」
「れ、レーナ…えと、じゃあいただきましょう」
アルのときもそうだけど、ほぼ初対面で呼び捨ては結構勇気がいる。
他の人にわたしの様をやめてもらうことは砦のときに諦めた。
どうやらわたしの立場的上、他の人が様なしで呼ぶことは難しいと言われてしまった。
それでもお茶をすることはお許しがでたので、美味しそうだし楽しもう。
「アルフレッド様があれほどの感情をお出しになられて、おそらくこの本邸の使用人みんなが驚いていると思いますよ」
レーナがわたしのカップにおかわりのお茶を淹れてくれる。
美味しいケーキやマカロンにお茶が進む。
女子会のようで楽しい。
話題は自然と当主でもあるアルのことへと。
「そうなの?」
聞くとアルはどうもほかの人の前では常に無表情らしい。
さきほどのわたしとのやり取りでは信じられないものを見た、とレーナが言うのだ。
わたしといるときのアルはよく笑うし、照れるし困った顔もする。
すごく表情豊かだと思うけど・・・。
あの顔であの優しさだからさぞやモテモテだろうと思っていたのだが・・・。
「アルフレッド様が初めてお連れになった女性がマオ様なのです」
いやまあ、そう言うとちょっと何か含んだ感じになるけど、わたしの場合保護という言葉がしっくりくる。
それにしても意外だな。
真面目な性格だなー、とは思っていたから遊んでいるとは思わないが。
彼女の一人や二人とか、この世界観ならもしかしたら婚約者とか、そういう人が少なからずいると思っていたけど。
そう思ってレーナに聞いてみた。
「アルフレッド様にそのようなお方はおりません。私はこちらでお世話になって8年になりますが、今までアルフレッド様に女性の影を感じたことも噂を聞いたこともないほどです」
「そ、そうなんだ」
わたしはそれを聞いてなぜだかちょっぴりほっとしてしまった。