9.甘い性格はこの世界の標準装備なのか
「マオ様、少し外へ出ましょう」
がたりと椅子を鳴らして立ち上がったアルフレッドさんがわたしの手を取り立ち上がらせた。
おそらく気を使ってくれたのだろう。
気持ちを整理したいわたしはありがたくその提案に乗らせてもらうことにした。
こくりと頷いたわたしの手を引いたアルフレッドさんとともに部屋を出た。
「あの、アルフレッドさん、様はやめてもらってもいいですか?慣れなくて…」
この砦では、みんなから救世主様と呼ばれ自己紹介後はアルフレッドさんにはマオ様と呼ばれ、なんだかいたたまれない。
日本にいたときに、様呼びなどされたことなんてないのだ。
そこは文化の違いだろうけど、慣れないものは慣れない。
それにその呼び方は距離を感じてなんだか寂しい気もするのだ。
アルフレッドさんはそう言ったわたしを不思議そうに見て優し気に目を細めた。
「救世主様はこの国では王族と並ぶ身分と権利が与えられるのです」
王族と同等!?
いやいや柄じゃないよっ。
「だ、ダメですか?もしや、アルフレッドさんが罰せられたりとか…?」
様は慣れないが、そのせいで罰なんて受けたりするのはいただけない。
「救世主様が望めばそれが法律にもなり得ます」
なにそれ、怖い。
わたしが悪い奴だったら独裁者になっちゃうよ。
国乗っ取られちゃうよ。
やらないけど。
「では、マオ、と呼んでも?」
「あ、はい。お願いします」
突然の名前呼びで心臓が跳ねる。
声もいいんだよね。
こういうのイケボって言うんだっけ・・・。
「ではマオも俺のことはアル、と呼んでほしい。同じ年だし敬語もいらない」
突然フランク!
でもこっちのほうが全然イイ!
だが、同じ年とな!?
「お、同じ年…。アルフレッドさんが」
わたしよりかなり背が高いアルフレッドさんを見上げる。
180は超えてそう・・・。
いや、年齢に身長は関係ないけど。
まあとにかく落ち着いた物腰というかなんというか、同じ年には見えないのだ。
「アル、だ」
まっすぐ目を見られて顔に熱が集中するのを感じる。
「あ、アル…」
ここにきて名前呼びを強制。
なんだか一気に壁がなくなったような気がする。
「ん…。よくできました」
そう言って優し気に笑うイケメンの破壊力、半端ない。
もうほんと、アルフレッドさん、じゃなくてアルは自分の顔面偏差値をもっと自覚するべきだと思う。
熱くなった頬っぺたを両手で覆いながらジトっとした目をアルに向ける。
「俺もマオと同じ23歳だが、老けて見えたか?」
廊下を歩きながらアルはいたずらっぽく笑う。
「あ、えと、落ち着いているからもう少し年上なのかと…」
「っふ、マオは若く見えるからな」
「いいですよ、どうせ子供に見えたんでしょ」
唇を尖らせながらそっぽを向くと、大きな手が頭に降りてきた。
「……可愛いな…」
「っえ!」
ぽそりと呟いたアルを仰ぎ見れば、とろけるような色をたたえたアメジストの瞳。
「マオは可愛いな」
あ、あまーーーーーーーい!!
懐かしい芸人の突っ込みが脳内にこだました。