我死未遂
--あれはそう・・・火事だった。
真夜中、俺と妹は寝ていた。両親はその日も仕事で家にいなかった。
そんな日に家に火がついた。気がついた時には遅かった。
一階はすでに炎が広がっていて、煙が二階へと昇ってきていた。
「鈴っ! 鈴! ・・・大丈夫か? はやくこっから出よう! かなりやばい」
眠っていた鈴を起こし、必死に出口を探した。
「なんでだよっ!まだ二階には炎はきてないはずなのにっ!」
ベランダ、窓などの家の出口となりそうな場所にはすでに炎上していた。
「くそっ・・・鈴・・・大丈夫、大丈夫だからな。きっとなんとかなる」
炎はじりじりと二階へと上がってくる。煙はすでに部屋内に充満していた。
「漣兄ィ・・・苦し・・・い・・・」
「く、くっそ・・・・・・」
――体が・・・・軽い・・・。重さを感じない・・。
少しずつ目を開いてみた。真っ白な空間。あまりの白さに目がくらんだ。
「なんだ・・・ここ・・・。・・・鈴? どこだ、鈴っ!」
走り出そうにも走り出せなかった。いや首から下は動かせなかった。
漣がもがいていると、突然目の前に白いワンピースで仮面をつけた女があらわれた。
「ふふっ、こんにちは? いえあなたからしては『はじめまして』、かしら」
現状を把握できていない漣はまだ何も言えずにいた。
「ん? そんなに緊張しなくてもいいのよ、落ち着いて・・・。まあまず今の状況を話すわ。
あなたは今、生と死の境界にある世界にいる。あなたは今、死んでもいないし、生きても
いないわ。・・・まあ強いて言うなら保留?ふふっ」
無邪気そうに彼女は話続けていた。連は口を開こうとした。だが不可能だった。
「あら? なにか言いたいの? だ~め、この頃のあなたいつもうるさいんですもの、ふふっ。
まあ大丈夫よ。直にあなたは生の世界に戻されるわ。それは決まっていること。でもそれから
どうするのか、それはあなた次第。覚悟しといてね、これから世界は変わってしまう。
なにがどう変わるのか、それはあなたの目で確かめなさい? それと私、あなたにこれからを
生きる力をあげなきゃいけないのよ。あ、これも決まっていることね? ふふっ。
何に使うかはあなた次第だけど一つアドバイスをあげる。これから直に人に手を触れない
ほうがいいわよ。大変なことになるわ。でも、どーーしても憎くて憎くて殺したいようなやつが
いたら右手で触ってみなさい。殺せるわ。間違って左手で触っちゃだめよ? こっちもこっちで
大変よ。ふふっ。」
世界がかわる?生の世界?何一つ理解できなかった。
「そろそろね・・・。ばいばい。あっちでまたいつか会いましょう。ふふっ」
女は消え、あたりが真っ暗になっていく。そして意識も・・・。
「・・・ん! 漣! おい、漣」
――ん、親父の声・・・?
少しずつ目を開けた、どうやらここは病院らしい。俺は・・・そうか火事だったのか。
「鈴・・・鈴は・・・?」
親父と母さんは何も言わない。そして少したって静かに話した。
「鈴は・・・、鈴は・・死んでしまった・・・。」
死んだだって? 鈴が? 俺は生きてるのに? なんでだよ・・・・。
「一人にしてくれ・・・」
漣は少し口を開いて、言った。
両親はいなくなり、病室を見回す。
カレンダー、テレビ、ベッド・・・。いたって普通だ。
ふと仮面の彼女のことばを漣は思い出した。
・・・手?
自分の手を見てみると手の甲に文字が浮き上がってきた。
「封」が右手、「刻」が左手。
すると突然持っていた掛け布団が右手から石化していった。
驚いて漣は手を離した。
「なっ、なんだよこれ。布団が石に? っ! なんだよ、これ!」
漣の右手をおいたものはすべて石化していっていた。
混乱した漣は部屋から出ようとした。しかしその前に扉が開いた。
そこには一人のスーツ姿の男が、いた。
「よお、こんにちは、だな」