8.自販機にて-和也は千歳に問う-
60話で終わる予定です。
そんな、息を整えている千歳に、
「何か飲む?」
自販機を指差しながらそう聞く。
[いいよ]と断ろうとする千歳に[いいから]と再度促し、
「じゃあ、ホットコーヒーの甘いやつ、きみと同じので」
二人で同じ銘柄のコーヒーを飲みながら、しばらく休んで千歳が、
「やっぱり気にしてるでしょ、この前の話」
と切り出してきた。
「ゲホゲホッ」
――もう、相変わらず単刀直入だなぁ、思わず吹き出しそうになったぞ。ってか、思い切りむせたし。
と思いつつも、
「そりゃあ気にしていないかって言われたら、そりゃあ気にしているよ。やっぱり、どう考えても雰囲気おかしいし」
と返した。
気のせいか? と言われれば、どう冷静に考えてみても他の人の、自分へのあの対応はやはり引っかかる。別に密接な友人関係までを求めている訳ではないが、もう少し接し方というものがある、と和也は思うのだ。
これが中学校までなら話は分かる。そう、いじめられていたから。それの名残だ、といわれればそれまでなのだが。
「晴樹君や達弘君、それにあたしがいるだけじゃあダメなの?」
「うーん、そういう訳じゃあないんだよ、別に多くを求めているつもりはないんだ」
――ただ、そこが引っかかるんだよ。
千歳は何か考えている様子だが、言葉が見つからないようだ。
そして、
「確かに、良いうわさは聞かないよ。でも、それだけで判断するのは早いんじゃない?」
やはり前回同様に言葉を選んでいるのか、そうつぶやくように話した。
「そうか、そんな感じはしてたけど……」
こちらも言葉を詰まらせる。
「でも、言い方は良くないかも知れないけど、そんなもんじゃあないの? あたしだってそんなに友だちが多い訳じゃあないし」
言われてみれば、千歳も学校内で他の生徒と話をしているのはあまり見かけない。大体が達弘か晴樹、和也、久美、たまに上村と松野、あとは思い浮かばない。そういう意味では千歳も和也とあまり変わらないとも言えるのだが。
「分かった、分かったよ。別に千歳を困らせる為に言っている訳じゃあないんだ。それに、ここで議論しても何かが変わるでもないしな。今は少なくてもこうして話せる友人がいる、そういう事でよしとするよ」
――ここは引こう、これ以上言っても水掛け論だ。
和也はそう思い、それ以上この話題を話すのを止めた。
「ありがとう」
千歳から感謝の言葉が出たのはちょっと意外だった。和也には正直、その[ありがとう]が何を示しているのか分かりかねた。が、もし彼女も自分の事を友人として認識してくれているのだとしたら、それは素直にありがたい事だ。
「ところで帰り道、反対だろ? 近くまで送るよ」
話題を変えてそう続ける。
「あ、うん。でもそれじゃあカズが逆に遠くなっちゃうけど?」
遠慮がちに言う千歳に、
「オレはいいんだよ、一応男の子だし。少し運動しないとな。それにこの自販機の場所だってすでに千歳ん家とは反対だろ?」
――理由付けは本当に何でもいいんだ。ただ、何故かもう少しだけ千歳と一緒にいたい。今日の雪といい、本当におかしな日だ。
「んじゃあ、行くか」
すっかり空にした缶をゴミ箱に捨てて歩き出そうとした時、
[助けて!]
和也は、頭の中に響く声と痛みに見舞われた。
「痛っ」
びっくりして思わずしゃがみ込む。
「どうしたの?」
異変に気付いた千歳がよってくる。
「いや、何でもない。ちょっとめまいがしただけ」
一瞬で声と痛みは消えていた。
実は、こういった経験は今日が初めてではなかった。以前にも何度か違和感というか、そんなもの感じる事があった。
それは、例えば言葉だったり、風景だったり、感情だったり、時間感覚だったりとさまざまであった。痛みを伴うものも中にはあったが、そういったものはやはりほんの一時的なものだったので、あまり気にはしていなかった。
いや、気にしないようにしていたと言うほうが正解か。いちいち気にしていては身が持たない。
――また、いつものやつかな。でもこれだけハッキリとしたのは始めてかも。
それに、突然だったのでびっくりして余り覚えていないけど、あれはどこかで聞いた声のような気がするのだが。
60話で終わる予定です。