7.帰宅途中に-友達って?-
60話で終わる予定です。
20話までは毎日2話ずつ、それ以降は日~木曜は1話分を、金,土曜は2話分をアップ予定です(例外あり)
「うーっ。まだ寒いなぁ」
なんとか部活を切り上げて、千歳にああは言ったものの、和也は家に向かっていた。
春が来た、といっても五時半頃には日は沈み、この地方特有の風の強さが身にしみる。おまけに今日は特におかしく、北の地方でもないのに雪までちらつき始める始末。
――こんな時は、あったかいモンでも飲むのが一番だ。
このくらいの時間になると、さすがに和也でも目が覚めるらしく、すっかり本調子になっていた。
「さてと」
和也は、いつもの自動販売機に寄る。
百円玉をいれて、しるこがあれば、と探したが売り切れていたので、不本意ながら二百五十ミリリットルのロング缶のホットコーヒーを買う。
それにしても今日は本当に寒い。和也はコーヒーを飲みながら、ふと思う。
――さっきの部長じゃあないけど、友違って何なんだろう。
そう和也が思う理由。それは彼の生い立ちに一つ理由がある。
彼はいい意味で[事なかれ主義]である。自分から問題が起きそうな案件や事柄には首を突っ込まないで、人に合わせるように努力してきた、つもりである。だが、小中学校の頃、彼はいじめに遭っていたのだ。
彼は母子家庭の生まれだ。物心ついた頃には既に父親は家にいなかった。
人間という生き物は自分と違うものを排除するものである。和也の境遇を皆[可愛そう]とは思わず[排除してしまえ]と動いたのである。
母子家庭、というだけでいじめの対象になっていたのだ。和也にはそれが初めは分からなかった。だが、いつの頃からか仲間外れにされ、仲間外れから発展したいじめに遭うようになっていた。
そのいじめというのも、身体的なものであれば証拠も出来るしまだ何とかなりそうなものなのだが、いわゆる[精神的なもの]であった。高校に入ってそれはいったん収まった。というのも、小中学校のようにエスカレーター方式に学年が上がるのではなく、高校には受験というものがある。和也の進学した高校は県内でもそこそこ名の知れた進学校でもあったのが影響したといえるだろう。
勉強に興味がない、勉強についてこられない人間はこの高校に入れなかったのだ。言葉を変えれば、いじめなどというものに構っていられる人間はふるいにかけられたのだ。
現在はその事もあって、一応[普通の]高校生活を送っている。
――オレが困った時、手を貸してくれる人はちゃんといるのだろうか。今まで友だちって言って来た奴は、多少なりともいた。でも本当に裏切らない人間なんて具体的には何人いるだろうか。もしかしたら本当に困った事が起きても、この十字路みたいにみんな全く知らん顔、なんて事にならないだろうか。以前のようにいじめに発展、なんてならないだろうか?
和也は薄暗い道を、同じくらい沈んだ気持ちで家に帰ろうとした。
と、うしろから、
「カズっ!」
聞きなれた声がする。見ると千歳が走ってこちらに向かって来ていた。
「おま、千歳!? どうして?」
今日はつくづくよく驚く日だ。
「今日が発売日の新刊本って、確か無かったはず、週刊誌の発売は昨日だし。あたし、本の虫だよ。そしたらきみが行くところっていったら、あとは[家に帰る]でしょ? そして、この自販機に高頻度で立ち寄る、っと」
今までダッシュしてきたのを和也の前で止まる。
すべて千歳の読み通りだ。彼女は和也から少し遅れて学校を出てここまで走って来たので、少し息が上がっている。
60話で終わる予定です。