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6.文芸部にて-和也は思う-

60話で終わる予定です。

20話までは毎日2話ずつ、それ以降は日~木曜は1話分を、金,土曜は2話分をアップ予定です(例外あり)

 放課後、和也は三階の視聴覚教室の前にいた。


 ここが和也の入ってる部活、文芸部である。


 ドアを開けると、いつものように雑談が聞こえる。


「やっ」


 案の定、真っ先に声をかけてきたのは千歳だ。そのうしろでは、晴樹と久美、他の人たちがトランプに熱中している。実は彼らとは部活も一緒だったりするのだ。


 ちなみに達弘は塾通いなので部活には入っていない。


「あーっ。三、ダウト、四、ダウトっ。へっヘーん。ほい、ラスト五。あっがりっ」


「ぶーっ、それダウトだっ」


「残念でしたー」


 ――みんな元気だな。


 そう思いながら見回す。


 まだ三年生が引退していない為か、二十数人はいるだろうか。友だちとしゃべってるやつ、一人黙々と本を読んでるやつ、晴樹らみたいにトランプで遊んでるやつ。誰もがそれそれ楽しそうにみえる。


 が、和也がいつも思うには、自分たちの世界は作っていても、千歳や晴樹以外は、積極的に向こうからは話しかけて来ない。彼がこちらから話しかければ、確かに話の輪は出来ないでもないが、向こうから話題を作りに来るという事はなかったりするのだ。


[まったく気にならない]かと言えばそれはウソになる。それなのに和也がこの部に留まっている理由、それは千歳と晴樹がいつも話し相手になってくれるからだ。


 ――――――――


 話は少しさかのぼる。あれは一週間くらい前だったか、部活の帰りがちょうど千歳と一緒になった日の、その帰り道での話。いつもの朝はダッシュで学校に向かうこの一本道を歩いて帰っている時、


「なぁ、部活の人たちってどう思う?」


 歩きながら和也は千歳にそう切り出したのだ。


「えっ? どうって、どうしたの、急に? 具体的には何かあったの?」


 千歳は意表を突かれたような顔をする。


「正確に言うと、部活っていうより、オレの人間関係についてってところかな。千歳や晴樹はさぁ、オレに積極的に話しかけてくれるけど、他のやつら、まぁ下級生は百歩譲っていいとして、同学年のやつらってこっちから話しかけないとぜんぜん会話にならないじゃん? まぁ、久美あたりは話しかけてくれるけど」


 ずっと疑問だった事を聞いてみる。和也にはどうしても自分と相手との間に、何か見えない壁のようなものがあるように感じられてならないのだ。


「それとも、ただの考えすぎかな?」


 和也の言葉に、千歳はしばらく考えているようだった。


 そして、

「きみがそう思うのは正しいと思う」


 ゆっくりと、しかし、正対してそう話した。


「じゃあ」


 と、その先を続けようとした和也の会話を片手で制止して、


「でも、それだけで友人関係を一様に計るのは良くないと思うよ。うーん、何て言うべきだろう。例えば誰か一人を想像してみて、その人が和也にそういった態度で接しているとするじゃん? でも、その一点だけを見て[ああこの人はオレの事を嫌っているんだ]ってその人を嫌いになるのってちょっと早計だと思うんだ」


 そう言うと、一呼吸おいて、


「友人関係って、深いものから浅いものまでさまざまでしょ? 現に晴樹君なんかはきみに対してかなり好意的なんだし。そう意味では彼との関係は深いって事になるでしょ?」


 その答えは、慎重に言葉を選んでいるように見えた。まるで和也の事を傷つけないようにしているかのように。


「でも、積極性に関してはそれじゃあ説明にならないぜ。人間関係って相手とのコミュニケーションがあってはじめて成立するものだし」


 切り返した和也の言葉に、千歳はやはり何か思う事があるのか、しばらく黙ってから、


「それでも、ひとつひとつの関係を繰り返していくしかないんじゃあないかな。ゲームみたいに相手の思ってる事や感情のパラメーターが見えるわけでもないんだし。それも人間関係だと思うけど」


 千歳の答えは和也にとっては少し精彩を欠くものではある。


 ではあるのだが、


「そうか、わかったよ」


 そこでこの話は止めることにした。千歳をこれ以上困らせても仕方がない、実際困惑しているのは明らかだった。


 ――――――――


 和也はしばらく一人で本を読んでいる[ふり]をしながら辺りを見回す。今は本を読んでいるので誰も話しかけて来ないのは分かるのだが、千歳とああは話したものの、やっぱり気になっているのだ。


 だが、今それを考えても仕方のない事だというのも分かっていたので、おもむろに立ち上がり、


「ちょっと早いけど、先に帰ります」


 春から世代交代した二年生の部長の子にそう告げてカバンをもって席を立つ。


「はい、分かりました。お疲れ様でした」


 硬い返答が返ってくる。


 ――そう。みんな硬いんだよ、まるで身構えているようにしか見えないんだ。


 そんな事を考えながら立ち去ろうとした。


「カズ、帰るのか? んじゃあオレも一緒に……」


 晴樹が真っ先に反応する。


「カズ、帰るの?」


 一連の会話で気がついたのか、千歳が声をかける。


「いやぁ、今日発売の本があるんだよ、それ買いに行かないと」


 適当に理由をつけて二人を納得させようとする。


「そうか……。それじゃあ、また明日」


 少し表情の曇った晴樹を置いて、和也は帰宅の途についた。


「千歳、今日一緒に帰らないか?」


 晴樹は和也が帰ったあと、しばらくその扉を見ていたが、彼も帰る身支度をして千歳にそう声をかける。


「うーん、ゴメン! あたしも先に帰るね」


 しばらく何かを考えていた様子だった千歳は、カバンを引っつかみ慌てて出て行く。


「そうか……うん判った。じゃあ、また明日」


 晴樹もそれ以上は詮索せず、千歳が出て行くのを見つめていた。


60話で終わる予定です。

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