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麗しの王子と護衛魔法使い①

「ご覧になって。あの方が……」

「噂の、『エルドシャイル殿下の君』?」

「そうそう。殿下は実はアルベール伯爵領で幼少期をお過ごしになっていて、お二人はそこで共に成長されたのだとか」

「なんと、ではお二人は幼なじみの間柄なのか」

「伯爵令嬢は、幼い頃から想う王子殿下をお守りするべく、護衛魔法使いに?」

「妾腹の王子と伯爵令嬢の、許されぬ恋……ああ、素敵だわ!」


(うーん……どうしてこうなったのかしら?)


 貴族たちの好奇に満ちた眼差しと噂話を全身で感じながら、リネットはため息をついた。


 数日前、リネットは練兵場で王家付き護衛魔法使いの試験を受けて合格をもらった――まではまだいい。

 問題は、試験の後でシャイルがリネットを抱擁して、幼い頃からの仲であることをあっさり暴露したことだ。


 その後、リネットは「休みましょう」と言うミラに連れられて部屋に戻り、シャイルもまた「初っぱなからやりすぎですよ」とエルマーに引きずられていった。


 そうして国王の厳命を破ったことに怯えながら丸くなっていたリネットのもとに、シャイルの部下の一人がやって来た。


『エルドシャイル殿下は国王陛下に進言なさいまして、ご自分が六歳から十五歳までアルベール伯爵領でお過ごしになったことを公表することになりました』

『ええっ、いいのですか!?』


 リネットは驚いたが、騎士はあっさりと頷いた。


『ええ。……そもそも十五年前に殿下の滞在場所を準備せず放置したくせに、王妃殿下崩御をきっかけに呼び戻すなんて都合のいいことをした、国王陛下の命令に従ういわれもございませんので』

『エルドシャイル殿下は大丈夫なのですか?』

『はい。それに、この件について王太子殿下もご意見を呈されたようですからね。今や国王陛下よりも人望も権力もある王太子殿下にも言われれば、頷かざるを得ないでしょう』


 騎士は、ぺらぺらと言った。

 国王がろくでなしな人間であることはリネットもよく知っていたが、一介の騎士にここまでけちょんけちょんに言われるまでとは思わなかった。


『そういうことで、あなたのことは『エルドシャイル殿下の君』として有名になっています。ご安心ください。あなたのことは何があっても守ると、殿下も豪語なさっていましたので』


(違う、そうじゃないの!)


 先日の騎士とのやり取りを思い出したリネットは、頭を抱えたくなった。


 リネットの目的は、シャイルも含めたシャルリエ王家――一応国王も――を守ること。間違っても、シャイルに守られることではないのだ。


 練兵場での出来事は鷲が飛ぶよりも早く王宮中に広まり、リネットといえば「採用後半月で王家付き護衛魔法使い試験を受けた使用人」ではなくて、「エルドシャイル王子が猛烈に口説いた女性」となっていた。


(おかげで使用人仲間からもあれこれ聞かれるし、貴族たちからも好奇の目で見られるし……!)


 今のところ実害はないのだが、受け答えするだけで体力が削れる心地だ。


(シャイル様に直談判したいけれど、面会をお願いしてもかわされてしまうし……)


 リネットとシャイルの間は、部下の騎士やエルマーが取り持っている。だがリネットが頼んでも「殿下はお忙しいので」としか言われないし、エルマーに至ってはリネットをそっちのけでミラを口説く始末だ。


 ……だがそうこうしている間に、呼び出しが掛かった。

 マダムが教えてくれた呼び出し相手は――王太子だった。


「先日の試験の結果、王太子殿下はあなたを王家付き護衛魔法使いとして採用する方針を固めてらっしゃるようです。それについてのお話かと」


 シャイルとの関係がささやかれる中でも決してリネットへの態度を変えないマダムの存在は、リネットにとって非常にありがたかった。


(ひとまず、護衛魔法使いになる足がかりを得られるわ!)


 ついでに、シャイルとの仲についていくつか弁解できればいい。


 王太子はリネットの父くらいの年齢で厳格な雰囲気だが、とても気さくで寛大な人だという。

 昼行灯な現国王をさっさと引退させて王太子に玉座に就いてもらいたい――というのが、多くの人々の正直な気持ちだろう。


 そういうことで仕事を終えたリネットは身仕度を調えて、ミラを伴い王太子の執務室に向かったのだが。


「ああ、リネット。よく来てくれたな」

「……こんにちは、殿下」


(どうしてシャイル様までいるの……?)


 ドアを開けてくれたのは侍従かと思いきや、第二王子エルドシャイルその人だった。

 しかも彼はリネットを見るなり満面の笑みになり、遠い眼差しをするリネットの手を取って王太子のデスク前までエスコートした。無論、エスコートが必要なほどの距離でもない。


 気を取り直して、リネットはデスクの前に座る王太子にお辞儀をした。


「お初にお目に掛かります、王太子殿下。わたくし、アルベール伯爵が長女リネットでございます」

「よく来てくれた、アルベール伯爵令嬢」


 ゆったりとした声は、一度目の人生でたびたび聞いていたものと同じ。


(……ああ、本当に王太子殿下はご無事でいらっしゃるのね……)


 エルマーを見たときもそうだが、一度目の人生では命を落とした人が元気にしている姿を見られると、本当に自分は過去に戻ってきたのだと実感させられる。


 シャイルの異母兄である王太子・エリクハインは王妃似らしく、容姿は国王似、髪と目の色は愛妾フルール似だというシャイルとはあまり似ていない。年齢差もあるので、兄弟ではなくて親子だと言われた方が自然なくらいだ。

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