しあわせのあなぐら
あなぐらからノソノソはい出したクマのメイルは、青空を見上げてタメ息をつきました。
「ああ、あなた。いったいどこに行ったの?」
夫のアームがあなぐらを出てから、もう10日もたってしまいました。
夫のアームは食べ物を見つけるのがとくいで、メイルはとても幸せでした。
いつもなら、
「ラララぁ~ただいまー! 今日はおっきなサケをつかまえたぞぉ~」
とか、とにかく大声で歌いながら、子供みたいにはしゃいで帰ってくるのに……。
心配したメイルでしたので、はじめの一週間くらいは山奥の森とか、川の上流とか、谷底の岩場とか、ほうぼう探し回りました。
でも結局、どこにもいませんでした。
「これだけ探しても見つからないなんて」
ふたりにはかわいそうなことですが、山里にまよいこんで鉄砲でうたれたのかも知れません。
メイルはあなぐらでジッーと、アームの帰りを待ち続けました。
そのうちに日がすぎて、メイルは、
「そろそろ冬ごもりのしたくをしなきゃ」
と、さびしくつぶやきました。あなぐらの食べ物も心細くなっています。
決心したメイルはあなぐらから外の世界に飛び出しました。
本当は食べ物集めは苦手で自信がありませんでしたが、アームがいないのでメイルはがんばりました。
そのがんばりが神さまに伝わったのか、メイルは山のあちこちでどんぐりとか、ブドウとか、マスとか、たくさんの食べ物を見つけることが出来ました。
メイルはホクホク顔であなぐらに帰りましたが、テーブルに食べ物を並べると、ふと、またタメ息をもらしてしまいました。
「ああ。こんなにたくさん食べ物を見つけても、わたしひとりじゃ食べ切れないわ」
タメ息の後にはぽろぽろと涙もこぼれました。
そのときです。
アームの声が聞こえました。
「いっぱい食べ物がとれたね」
「えっ。あなた、どこ? どこにいるの? あなたの姿が見えないわ」
キョロキョロ探しましたが夫はどこにもいません。あなぐらの外にもいません。
「ボクはずっと前から君のそばにいたよ。でもね、ごめん。ボクはもう死んじゃってるんだ。だからキミにはもうボクの姿が見えないかも知れないけど、ボクたちはずっといっしょにいたんだよ」
メイルはこまってしまいました。
「そんな。死んじゃってたらもうふたりで食べ物だって食べられないし、それにわたしあなたがここにいないのはとても悲しいし、さびしいわ」
「だいじょうぶ。さびしくはならないよ」
そう言ったアームは「食べ物さがしの魔法を分けてあげる」と、ほんの一瞬だけメイルの前に姿をあらわしました。
「ああ、アーム! お帰りなさい!」
「ただいまー! メイル!」
長いハグのあと、夫のアームはメイルのオナカにそっと手を当てました。
「これからもずっと、このあなぐらはにぎやかで楽しい場所になるからね」
それからアームの姿がかんぜんに見えなくなるまで、ふたりはハグを続けました。
冬の終わり、かわいいふたごの子グマが生まれたあなぐらはアームの言った通り、ふたたびにぎやかで楽しい場所になりました。
アームの食べ物探しの魔法はふたりの子どもたちや、その孫たちにもかかっていたようです。それからもずっと、このあなぐらはにぎやかで、楽しい場所であり続けたそうです。
おしまい。
何事もチャレンジしようと応募しました。楽しかったです。読んで頂き有難うございました。