牛乳を飲めば牛乳ワープで異世界へ行ける
「なろうラジオ大賞2」の参加作品です。
指定ワードは「牛乳」を選びました。
食品売り場から牛乳の姿が消えた。入荷してもすぐに人々が牛乳を求めて買い、すぐに売り切れてしまう。
何故こんな事になったのか。
ある噂が流れたからだ。
「牛乳を飲めば、10分間だけ牛乳ワープで異世界へ行けるらしい」
え、どういう事?じゃあ給食の時間に子供達は一斉に消えちゃうの?と思ったかもしれない。
牛乳ワープは20才以上から適用される。
そして、「行きたいか行きたくないか」と牛乳神であるゴッド・ミルクに脳味噌に直接問われるので、行くかどうかその場で自分で選択できる。
どんな異世界に行けるのか。
それは自分が希望する通りの異世界に行ける。自分の好きなキャラクターがジャンルを問わず入り乱れ、豪華メンバーでフル出演してくれる。握手もできるしハグもできる。それ以上の事も…
しかし、サインや写真を持って帰る事はできない。
何一つ持って帰る事はできない。
それでも大人は牛乳ワープを追い求め、所構わず牛乳を買う。
だから、牛乳が売り切れる。
給食や育ち盛りの子供達の牛乳は「牛乳を純粋な気持ちで飲んで欲しい委員会」が必要分確保し、学校や子供達に適宜配給される。
勤務中に牛乳を飲む事は禁止され、大抵の施設で喫煙部屋の隣に牛乳部屋が設置される。
というのも、牛乳を飲み、異世界へのワープを希望する人間は現実世界から10分だけ姿形が消えるのだ。
牛乳部屋で牛乳を飲み、一瞬で姿が消えても、目の前から人が消える覚悟があるので誰も驚かないが、牛乳ワープをしているのを見た事がない人間からすると、急に目の前から人が消えると驚いてしまう。
かく言う私も何度も夫が牛乳ワープをしている所を目撃したが、未だに慣れない。
娘達が見ると「パパはどこへ行ったの?本当に帰ってくるの?」と心配するだろうから、娘達には見せていない。
そして、今夜私も牛乳ワープを初めてしようと思っている。
緊張が止まらない。
本当にちゃんと、この世界に帰って来れるのだろうか。はたまた今から行く異世界は私の望んだ世界なのだろうか。
もしちゃんと帰って来れたとしても、それは果たして本当に私なのだろうか。
夫が牛乳ワープで帰ってきた後は少し何かが違うように思う。でも何が違うかは分からない。
それでも行ってみようと思う。だって皆行ってるし。
そうして私は二度と元の世界へ戻れなくなったのだった。
なろラジで募集していた「牛乳」をタイトルに使った小説を何とか作れないものかと思い、書きました。