2 【 運命の出会い 】
朝早くから街を全力で走ったタケル・ヤマノは肩を落として落ち込んでいた。
ここは異世界が集まる街【ファンタジー】。
ありとあらゆる異世界の物が置かれていたり販売しているちょっと珍しい街。
そんな珍しい街の中でも1番珍しいと言われているのがさっきまでタケルがいた門番が建つ学園【バベル】だ。
バベルは一定以上の知識を用いれば希少な授業を受ける事ができる。
その中でも1番希少でバベルの入学を目指す者であれば必ず受けたい学科が【魔法科】である。
人の常識を超えた神秘の力。 ―――魔法。
それを扱う事が出来る者はこのファンタジーでもそれほど多く存在しない。
そんな憧れの魔法を学ぶ為に、バベルへの受験を受けに来たタケルであったのだが・・・。
「君、バベルの受験日は昨日だぞ?」
「・・・・・・・・・・へ?!?!」
天地がひっくり変えるような衝撃を受けて、タケルは街中を歩いていた。
「まさか受験日が昨日だったなんて・・母さんや父さんになんて言えばいいんだ。」
タケルの故郷はファンタジーから1週間以上もかかるほど遠い。 その為この街に来るだけでも高い出費を両親から出してもらっている。 さらには受験料もバカにならない額を支払ってもらっておきながら受験日を間違えて受けられませんでしたテヘペロッ! ―なんて言えない。 死んでも言えない。 というか言えば殺される。
指の骨をボキボキッと鳴らす修羅のオーラを醸し出す母を想像して思わず身震いを起こすほど恐ろしい。
「まずい! このままではぜぇぇぇたいにまずい! 何か! 何かこの状況を打破する策を考えなければ!! ~~~~~ッ! うん! ないな!!」
そんな都合のいい策が思いつけばこの世に苦労なんて言葉は存在しない!!
それでも何か方法はない物かと逆立ちをしたり壁に血が流れるまで頭を叩きつけたりと周りの人達に怪訝な視線を送られながらも結局、というかやはりそんな都合のいい事など思いつく事はなかった。
「・・・はぁ。 しょうがない。 腹を括って母さんにボコボコにされよう・・。」
腹を括ったとは言うが、やっぱりどうにかして回避できないものかと未練がましく腕を組んで考え込む。
そんな時、背後から「あのぅ」と遠慮気味に声をかけられた。
振り返ると、そこには上目遣いで俺を見る短髪のピンク髪がよく似合う美少女が立っていた。
「は、はぃ! にゃんでしょうか?!」
急に美少女が目の前に現れ思わず声が裏返る。 恥ずかしい・・・。
「大丈夫ですか? 頭から血が出てますし、なんだか顔も赤いような?」
少女はタケルの体調を気遣って顔を近づけ血が流れる頭をハンカチで優しくふき取ってくれた。
しかも、分かっているのかいないのか服の上からでも分かる豊満な胸が当たっている。 当たっています!!
より一層顔を真っ赤にして体温が上がるのが分かる。
「あれれ? お、おかしいな。 止まりかけてた血が余計出血しているような?」
少女は怪訝に思いながらも、血が流れる頭をハンカチで押さえながら腰に巻いてる小さいバックから紐のような物を取り出して、それを頭に巻いていく。
その巻いている最中と言えば胸との接触はさらに当たり、美少女の顔が頭に紐を巻く為に息がかかるほど近くまで迫っている。
(なんだこれ?! え? なに?! 何が起きてんの今?! こんな事してる場合じゃないのに! っていうかスゲェいい匂いがする・・じゃない!! 受験! 怖い母! えぇ~とそれから!!)
もう頭の中は混乱のパレードが起きている。 目がグルグル回って思考がうまくまとまらない。
そんなプチパニックが起きている中、紐を巻き終わったのか少女が離れた。
「よし! これで大丈夫かな? でもまだ血が止まらないみたいだから近くの素材ショップか道具ショップに行ってポーションでも買った方がいいかな?」
傷口に自身のハンカチを当ててそれを紐で頭を巻いて止血してくれていたが、タケルは今の状況を未だに理解できていなかった。
(かわいい! 美少女! いい匂い! そして大きい!!)
頭の中は煩悩で一杯である。
「ちょっと待っててください! そこのショップでポーション買ってきますから!」
そう言ってタケルの為に治癒効果のあるポーションを買いに行こうとした少女にタケルは思わず手を掴み取った。
少女は「え?」と困惑するが、タケルもまた困惑していた。
(待ってこっからどうすればいいの?! 思わず手をとっちゃった! めっちゃ小さい・・じゃくてお礼言わないと! えぇ~と! えぇ~と!!)
彼女が自分の為にポーションを買いに行こうとしているのではなく、そのままどこかへ行ってしまい合えないのではないかと勝手な妄想をしているタケルは手を握られ困惑する少女に向けて口を動かす。
「好きです! 付き合ってください!」
一瞬の静寂。 それは周りにいた人達もその現場を見ていたせいで全員が時がとまったように動きを止めた。
「え?」
「・・・え? ん? ・・・えぇぇぇぇえええええええ??!」
何故か告白した本人が一番驚くリアクションを取る。 さらにはそのリアクションと共に周りの人達から歓喜のような盛り上がる声が響き渡り気が付けばタケルと少女を囲んで盛り上がっていた。
「ごめんなさいすいません申し訳ありません!!」
自分が一体何を言っているのか自分でも理解できない中、とんでもない事を言ったことだけは自覚しているタケルは瞬時に故郷から伝わる『土下座』の姿勢を取り少女に詠唱のような早口で謝罪する。
しかし、こっちは全力で謝罪をしているというのに、周囲で盛り上がっている人達は「地面に頭をこすりつけるほど好きなんだな!」「もっとだ! もっと押すんだ兄ちゃん!!」などと楽しそうに盛り上がってくれている。
「あ、あの・・。」
さっきまで固まって動かなかった少女が口を動かした。
タケルはバッと顔を勢いよく上げて少女の顔を見る。
そこには顔を真っ赤にしながらオロオロと視線を横に逸らしている照れている少女の顔があった。
「こちらこそ・・よろしくお願いします。」
彼女のその言葉に周囲の人達がさらに盛り上がる。 祝福の声を上げ「おめでとう!」と祝いの言葉が雨が降ってくる。
そんな幸せな空間の中、タケルだけは口を大きく開けて土下座のまま固まっていた。
(一体・・何が起きているんだ?!?!)
現状を理解できずオーバーヒートしていた。
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それでは、また次回。