第1話 召還
鉄 賢一郎は無愛想で自分にも人にも厳しいが何より優秀であった。
学校の成績は上位であったし世間一般でも評判の良い大学にも入った。
社会人になると東亜銀行の総合職として入行した。
東亜銀行のエリート街道に乗り、来年は人事部の課長を任される話も出ていた。
出来事は唐突であった。
深夜、終電間際、彼はいつもの様に帰路に着き、
人犇く西京駅のホームから電車に乗った。
荷物を抱えたまま置き電車の椅子に深く腰をかけ、
その日は珍しくうたた寝をしてしまった。
ふと目を覚ますと、誰もいなかった。
普段であれば人がごった返す車内には一人もおらず、
辺りを見回しても人がいなかったのだ。
静かな車内にはガタンゴトンと音が響く。
電車の案内標識も何も書いてはいない。
スマートフォンを見ると圏外と表示されている。
窓から外を見ても暗すぎて何も見えない。
しばらく座っていると、ザザという音とともにアナウンスが流れる。
『終点、・・・・駅、・・・・駅。』
駅名が何と言ったか、聞き取れない。
記憶では終点は百木駅であったが、違うようだ。
とにかく終点の駅に着いたようだ。
降りると電車の扉が閉まり、文字通り消える。
サラサラと砂になったのだ。
砂になった後は壁があり、中央には崇拝しているであろう
女神像があるだけだった。
あまりの出来事に言葉が詰まり、目を疑う。
辺りを見回す。
真正面には石で出来たような扉がある。
左右を見ると窓はなく、大理石が詰まれて出来た壁があり、
神殿(あるいは教会)のような場所であった。
カツカツと音を鳴り響かせながら扉へ向かう。
やや重たい扉に手をかける。冷たい感触がする。
力を入れると扉が開く。案外軽かったようだ。
仄かな明るさと共に視界が開ける。
火の松明らしきものを片手にした中世の身なりの人間に
囲まれていることがわかった。
「よくぞおいでくださいました。異界人よ」