俺は彼女の全てを受け入れる
気分転換に勢いだけで書いて見ました。
一部修正しました
俺の幼なじみ北村咲はボクシングを嗜んでいた。親がボクシングジムを経営しているとかで彼女も自然とボクシングをするようになったらしい。俺こと大門哲太は小さい時から練習台にされ、泣かされてきた。
「哲太くーん。スパーリングしよー」
数年後
「哲太。サンドバックになってくんない」
そして、現在
「これがアルゼンチンバックブリーカーよ」
俺は彼女に持ち上げられ、彼女の首の後ろに乗せられ足と手をロックされていた。咲は昼休みに俺を練習台にプロレス好きな人間を集めて技の研究会をしていた。彼女は現在プロレスにはまっていたのだ。
「どうきれいに決まってるでしょ」
咲は満面の笑みで俺を締め付けた。
「ぐっ」
俺は思わず声をもらした。
「咲さん最高っす」
プロレスの技を見に来ていた一人が言った。
「へへ。まあね。昨日テレビでこの技見てどうしてもやってみたかったんだ〜。これ」
そう言うと俺をそのままの体勢で地面に投げつけた。
「ぐへえ」
「咲さんそろそろ」
咲は俺を投げつけると次のイベントに移っていった。
男子諸君が彼女の前に列を作った。
「俺昨日彼女に振られました!」
「次の恋をしなさい」
バチィ
「俺テストで赤点とりました」
「勉強しなさい。馬鹿」
バチィ
咲にびんたされると言うこの学校恒例の特殊なイベントが始まった。きっかけがなんだったか忘れたが咲が突っ込みながらびんたをするという形が男子諸君のツボにはまったらしく、咲を心から尊敬しているという河村君主導の下多くの男性が咲からびんたを食らっていた。教室には打撃音が響いていった。
「痛あ。叩きすぎて。手が痛くなっっちゃたよ。哲太ぁ」
バチィ
最後は俺の左頬にびんたをして終了することになっていた。おかげの俺の左頬は右よりも大きかった。
俺は高校2年の秋についに決意した。俺は今までの俺を脱却して、彼女を倒そうと思った。
咲は昔ほどボクシングに熱を入れているわけではなかったが、趣味程度にはボクシングを続けているようだった。そのため彼女は引き締まった筋肉をしていたし、身長も170cmくらいあった。俺が160cm前半くらいなので明らかに身長で負けていた。彼女が自慢の黒髪を風になびかせながら颯爽と歩く姿はなかなか絵になった。もちろん咲は男子にも人気があったが、彼女はどちらかといえばそのかっこよさから男の子よりも女の子に人気があるようだった。バレンタインデーには俺よりもチョコをもらったし、ラブレターも女の子からよくもらっているようだった。噂では彼女のファンクラブのようなものがあるらしかった。
俺は近所に新しくできたというムエタイを習いに行った。まだできたばかりらしく講師のハムチャイさんは俺に親身になって教えてくれた。俺は本気で習うために学校を一ヶ月休んでムエタイに全てを注ぎ込んだ。
一ヵ月後、彼女の下駄箱に果たし状を入れた。文面はこのようである。
果たし状
○月○日
○時○分
学校裏ににて待つ、死にたくなければ必ず来ることを勧める
お前の永遠のライバル 大門哲太より
俺は自分に気合をいれるために上半身裸で短パンに頭にヘッドリングを巻いて彼女を待ち構えた。
しばらくして彼女がやってきた。彼女は一瞬俺を見て帰ろうとしたが、ため息をついてこちらにやってきた。
「よく来たな」
「あんた。学校休んで何やってんの?」
彼女はちょい切れ気味だった。俺は構わず続けた。
「俺はお前を倒すために今日まで特訓を続けてきた。俺は今までの屈辱を晴らしたいんだ。咲。俺と勝負しろ」
昨日寝ないで考えたセリフを俺は噛まずに言えた。ちょっと満足感でいっぱいだった。
「めんどいからやだ。じゃあね」
彼女はそう言うと帰ろうとした。
「待て。待て。待てーい」
俺は慌てて彼女を引きとめるために蹴りを繰り出した。ハムチャイさん直伝のムエタイキックだ。
「しゅっ」
彼女はそれを華麗にスウェーイングで後ろに避けた。
「何してんの」
彼女は今の俺の攻撃で本気で怒ったようだった。その場の雰囲気が変わったのを感じた。俺の額から冷や汗が流れ出た。
「俺は本気だ。かかって来い。来ないなら俺から行くぞ」
「哲太。忘れたんじゃないでしょうね。私が本気出したらとんでもないことになるんだよ。それでもいいの?」
俺の脳裏に昔の色々な嫌な思い出が蘇ってきた。
「俺が今までの俺だと思わないことだな。いいからかかって来いって」
「いいのね」
彼女はそう言うと長い髪を束ねて後ろで纏めた。そして軽くステップして、シャドウをした。そのシャドウを見て彼女の実力が見て取れた。俺の汗は今や滝のように流れ落ちていた。
「私はいつでもいいよ」
彼女はステップを小刻みに刻みながら俺を迎えていた。彼女のスカートがステップを踏むたびにひらひらと揺れた。俺は覚悟を決めて彼女に突進した。
「ぬどらああああ」
俺はまず彼女の左脇腹を狙うためにミドルキックを仕掛けた。
彼女はステップで俺の視界から消えた。俺はキックの軌道を変えることができずに空を切った。そこに俺の左腹に激しい痛みが起きた。
「ぐっ」
どうやら俺は彼女のボディブローを食らったらしい。俺はなんとか持ちこたえて彼女から距離を取った。なんて思いボディブローだ。ハムチャイさんのミドルキックより重いかもしれないと思った。俺はあの特訓が無ければ今の一発で終わっていただろう。もしかしたら何本か骨を持っていかれたかもしれない。
「なか……なかいいボディブローだったぜ」
俺は彼女のボディブローを誉めた。
「……」
彼女はニコリともしなかった。彼女の目は殺気でギラギラに光っていた。彼女は本気で俺を殺る気だった。
俺はさっきのボディブローで殆ど体が利かなくなったので自分の全てをこめて彼女に攻撃を仕掛けた。
結果、俺は激しく散った。気がついたら俺は地面に倒れていた。
「これに懲りたら私には逆らわないことね。それと学校には来なさいよ」
咲はそう言うと去って言った。俺は立ち上がろうとしたが脇腹があまりにも痛くて立ち上がれなかった。どうやら本当に脇腹が折れたらしかった。
「ああ。俺は死ぬかもしれないな」
俺は覚悟を決めて目を瞑った。
「俺は頑張ったよな。ハムチャイさん」
俺は自分自身を誉めたたたえた。脳裏にはハムチャイさんの笑顔が写っていた。
俺がしばらく地面の息吹を感じていると、人の気配がした。
「まだ倒れてるの?」
どうやら咲が戻ってきたようだった。
「ああ。どうやらもう立ち上がれないみたいだ」
咲は大きなため息をつくと俺持ち上げて立ちあげさせた。
「痛っ」
脇腹に大きな痛みが走ったが咲が支えてくれるのでなんとか歩くことができた。
「あんたが来ないと誰が私の技の相手してくれるのよ」
彼女はなんだか赤くなって俯いていた。俺は彼女に悪いことをしてしまったかもしれない。今なら卍字固めくらいなら食らってもいいような気がした。
「悪かったよ。明日からは学校行くから」
俺たちは沈んで行く夕日に向かって少しずつ進んでいった。結局俺は自分のことしか考えていなかったかもしれない。これからは体が持つ限り咲の技を受け止めようと思った。
なんだか今日はやたらと夕日がまぶしいような気がした。
俺はそれから一週間入院することになった。
「咲。ごめん。俺受け止められないみたいだよ」
俺は病室で一人、呟いた。
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