三章十七話《龍皇様の裏方作業》
夜も深けた頃、大きな屋敷がそびえ立つ森の中で1人の女性が俊敏に駆け回っている。
その森の中は鬱蒼としているものの魔物は少なくあまり危険では無いものの普通の人間であれば確実に遭難するであろうほど広大で全く手入れの行き届いていないまさしくけもの道と言える状態だ。
なのにも関わらずそんなことお構い無しに颯爽と突き進むのは元《龍皇》であるミリアの母、リザリーだ。
リザリーはこの森の中の屋敷に用がありグリーダと話したあとすぐにそこへ向かって走っていた。
「相変わらず面倒な...はあ、グリーダに頼んで転移してもらった方が良かったかな」
と、走りながら愚痴ったりしていたがもちろんここにリザリー以外誰もいないのでそれを聞いている者も誰一人としていなかった。
グリーダ達がいる場所へ転移魔法なしで来れたのも、ここへ迷いなく来れたのも全てはリザリーの魔力探知の技術あってこそのものであり、今まさに目的の人物である屋敷の主へ会いに行っている途中だ。
「でもまあ、本当に知ってるのかな。グリーダにアイツに会いに行けば何かわかるかもしれないって...。忙しいからって自分出会いに行けばいいのに」
その屋敷の主とグリーダは面識がありリザリーもそれを知っていてまるでパシリのような扱いを不服に思っている。
(ま、多分会いたくないんだろうなーってことは察してたけど)
グリーダがその屋敷の主と会いたくない理由について心当たりのあるリザリーは大きなため息をつきながらさっさと用事を済ませてしまおうとさらに速度を上げた。
「おーい、久しぶりに来てやったぞー」
屋敷にたどり着いてすぐに扉を壊れない程度にゴンゴンと叩いて来たことを知らせるも、しばらくしんと静まり返っている。
「ッチ、居留守か?」
「主人はこんな夜中に無作法な客人を招くつもりはないって」
「あんた...大きくなったねえ」
どこからともなく後ろから声をかけてきて、リザリーは後ろを振り返るとそこには1人の女の子が立っていた。
リザリーが大きくなったと言う割にはまだまだ小柄で幼さを感じる容姿にこれまた可愛らしい顔立ちだった。
「...主人はあなたと話す気はありません、お引き取りを」
「そんな他人行儀な...いいよタメ口で。どうせ面倒だから早く帰って欲しいとでも思ってるんでしょ?」
リザリーはわざとらしく笑ってみせるがその瞳は据わっていて一切の油断は見せていない。
それどころか表には出ていないが無意識的に相当な威圧感が魔力として溢れ出ていて、目の前の少女も少し顔が引き攣っている。
「相変わらずとんでもない魔力、これは勝てないね」
降参とでも言うように両手を上に上げた。
「流石にここで門前払いしたら私が殺されかねないから一応主人のとこには案内するから、殺さないでね」
「分かればよろしい。...ってもまあ、どうやらその必要は無いかもしれないね」
そう言ってリザリーは上を見上げると目の前の少女も釣られて上を見る。
「おやおや、うちの従者に不届き者が襲いかかるところだったねえ。で?釈明は?」
「あるわけないでしょ?馬鹿なの?」
屋根の上には月に照らされた灰色の髪の青年がたっている、そしてその青年に対してリザリーは無遠慮に挑発するように言い放っていた。
「相っ変わらず...君は嫌いだ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてあげるよ引きこもり。久々に外出た感想でも聞きたいくらいだよ」
「あーあ...こうなるから合わせたくなかったのに、もうしーらない」
と、少女は呆れ返って魔法でどこかへ消えてしまった。
「さて、あの子を巻き込むのは私も望まないし...このままやっちゃおうか」
「君の声を聞くだけで虫唾が走るよ。リザリー、いや...グリーダの傀儡と言った方がいいか?」
その瞬間、リザリーは何かを察して後ろに飛び退きその場には直後大穴ができ轟音を響かせて土煙が上がる。
リザリーは別段驚いた様子もなく青年の方を睨みながら腕に魔力を集めて臨戦態勢をとっている。
「厄介だな、感覚が鋭い君はこんなこけ脅しの魔法なんて簡単に見破るか。しかしまあ、避けなくとも傷一つつかないとは思っていたさ」
「開戦の合図にしては随分とずさんな方法だよね。もっと強い魔法じゃなきゃ楽しめないよ!」
リザリーは有無を言わさず一瞬で距離を詰めてそこそこの力を込めて拳を撃ち込んだ。
「あれ?」
「流石、最強の龍皇だ。しかしまあ人のこと言えないくらいこれまたずさんな一撃だ。防がれることを考慮した方がいいんじゃないか?」
バチバチと魔力が電撃のように迸りながら半透明の壁がリザリーの拳を受け止めひび割れて悲鳴を上げるように大きな音を立てている。
「ッチ!吹っ飛べええ!」
リザリーはさらに魔力を高めてその壁ごと青年を吹き飛ばして壁はひしゃげて形を保てなくなり霧散しそのまま貫通して青年の腹に思い切りぶつかった。
「ガホッ!ぐう、ここまで強くなっているとは思わなかった...やはり久方振りの戦いで感覚がなまっているようだ」
「ねえ、エリテス...こんなことして言うのもなんだけどさ。今日は戦いに来たんじゃないんだけど」
「ああ、だいたい推測はしていたさ。しかしだ、君は1度殴って置かなければ私の気が治まらないんだよ」
「あっそう、なら死なない程度にぶっ飛ばすからお好きにどーぞ。気絶するまで張り倒すからそのつもりでね」
互いの魔力が高まりぶつかり合いせめぎ合う。
その衝撃で周りの木々は瞬く間に吹き飛び嵐のように辺り一面が地獄絵図と化している。
それらに意を介さず2人は向き合い戦いは始まった。
「ははっ、なんの気兼ねもなく君と戦えるのは存外気分が良いものだ。やはり私も戦いが好きなようだね」
「自覚してなかったの?私もあんたのこと正直あんま気に入らないけどその気持ちは理解できるよ」
2人は高揚して気分がいいのか明るい表情で攻防の応酬を繰り返し一進一退を繰り広げている。
エリテスと呼ばれた青年は先程魔力障壁を叩き割られたのを学習して回避を主体に立ち回り、様々な属性魔法を毎秒大量展開してとてつもない火力でリザリーを打ち落とそうとするが、負けじとリザリーはその自慢の身体能力で縦横無尽に駆け回り圧倒的なスピードとパワーで蹂躙せんと迫る。
やはり即席の属性魔法をいくら放とうとリザリーの体に傷をつけることなど叶わずもはや目眩しにすらならないために現状リザリーの方が俄然有利な状態であった。
普通の基準では無論、無茶苦茶な威力の魔法ではあるのだがやはり相手が悪い、龍の肉体をそれも最強であるリザリーの身体強化を含めればとてつもない硬度となる。
「ねえねえ、このままだとただの泥仕合になりそうだけどいいの?そんなことしてる暇があるならいいけどさ」
「確かにそうかもしれないな。しかし君相手にまともに相手できる貴重な存在である私と戦える機会を逃せば君は相当退屈ではないのかい?」
「いや、退屈になったらグリーダに頼むからいいよ。というかエリテスさ、今の口ぶりで思ったんだけどあんた私が嫌いなんじゃなくてグリーダに協力してるから気に入らないだけなんじゃないの?」
リザリーのその言葉で動揺したのか戦いの中一瞬動きが止まる。
リザリーがその隙を逃すはずもなく襟を掴み地面に押し倒して力を入れて地面に押し付ける。
「うぐっ、速っ...!」
「隙だらけだよ、ほんと素直だよね相変わらず」
押し倒してもう一方の手で首を掴んでギリギリと締め上げながらリザリーはエリテスに笑いかけてどんどんとエリテスの顔が青白くなっていく。
「うぐっ、調子に...乗るなぁ!」
腕に膨大な魔力を纏わせ腹に打ち付ける。
リザリーの肉体は普通であればただ魔力を込めただけの一撃では大して傷を負わせることなど出来ないが、今のエリテスの魔力はさっきまでの戦いでの魔法と比べると何倍にも膨れ上がっている。
流石のリザリーであってもこの一撃を受けて無傷とまでは行かずに吹き飛ばされて受け身はとれたがリザリーは痛そうに腹を押さえている。
「やっぱ油断なんないね。相変わらずとんでもない出力」
「君に言われたくないな。少なくとも私以上の魔力を持っている君にそんなこと言われたところで虚しいだけだよ」
腹を押さえて痛そうにしているがリザリーの顔は嬉しそうに笑みを浮かべていて、対してエリテスの方は渾身の一撃でもこんな軽い反応をされて少し機嫌が悪そうだった。
するとエリテスは一息つくと魔法陣が展開される。
「何するつもりなの?」
「君は強すぎる。この私を正面からねじ伏せることができるほどにね。久々の戦いでそんな簡単に終わらせられては私のプライドが傷ついてしまうからね。少々抵抗はあるが、アレを使わせてもらおうか」
「うっわ…嫌な予感」
蒼白の刃に魔力が宿り大気を凍り付かせるほどの威圧感を放つその剣は、エリテスの魔力と共鳴して脈打つように呼応している。
エリテスの手は剣に触れると身体中に魔力が行き渡り全身が魔力によりほのかに光る。
「聖剣、借り物の力ではあるが君と戦うにはふさわしい力だろう?それに、君はきっとこの力を卑怯だなんて言わないだろう?」
その言葉でリザリーは無言でエリテスを睨んでいる。
聖剣、それは圧倒的な力の象徴でありお伽噺でも度々出てくる伝説の武具と言われている。
「…まあ、そういう武器に思うところがないわけじゃないけど私は別にとやかくは言わないよ。でもさ、その武器が何でできてるかあんた知ってるの?」
「ふ、愚問だね。私だって当然知っているとも」
「じゃあ何で!」
突然のリザリーの怒り、それはその武器に向けられた感情であった。
力の象徴である聖剣の元を辿ればその悲惨な歴史を目の当たりにすることになる、それをリザリーは知っている。
「更なる力が欲しいと、そう願ったことは君にはないのかい?もちろん私はある。何度も何度も更なる強さを目指して夢みたさ。しかし現実は甘くない」
エリテスは言葉を続ける。
「勘違いしないでくれよ。この力を使うのはあくまでも君と対等に戦うためであり力を誇示するためではない。こんな呪われた力にでも頼らなければ君に勝つなど不可能だからね」
「そっか、そっちがそこまで本気でやろうって言ってるのにこっちがこんな気持ちじゃ侮辱してるのと変わらないね。…だったらさ、私も応えてあげるよ。その本気ってやつでさ」
二人が向き合い改めて構えをとる、そしてその様子を余波に巻き込まれないように遠目から少女が呆然と見ていた。
「...何しに来たの?ほんとに」
少女は熱くなって本来の目的を忘れて戦い続けるふたりを見て心底呆れながら転移魔法で屋敷の中に帰って行った。
蒼白の剣と黄金を纏った拳がいくつもぶつかり合い大きな打撃音が無数に重なり合う戦場。
屋敷を巻き込まないように森の中を縦横無尽に移動しながら繰り広げられる戦いで互いの魔力が衝撃波を生み森中の木々がなぎ倒されながらまっさらな大地が広がってゆく。
「馬鹿力が...聖剣相手にもその強さか...」
「へえ、早速余裕なくなってきてるよ?」
応戦しながら煽るようにリザリーは言うが、悠長に答える余裕はエリテスには無かった。
(全身凶器が...グリーダとは別の意味で無敵だな...。聖剣を持った私をここまで手玉に取るのは想定外だ)
なんの絡め手もなく、なんの工夫もないただの暴力。
ただひたすらに磨きあげられた無骨な力で特別たる聖剣の力が簡単に越えられてしまうという事実に、エリテスは内心戦慄している。
「こうしてると昔を思い出すね。私は」
「一体誰のことを想像しているんだか」
エリテスとリザリーの脳裏にはかつての戦友であり共通のライバルとしての存在、グリーダの姿がよぎっていた。
「しかし今はもう道を違えてしまった仲だ。彼女は強いがいかんせん未だ幼い」
「いいじゃん、それでもずっと頑張ってんだから。幼くて稚拙な精神でもずっとずっと、心が擦り切れるくらい頑張ってるよ...本当にね」
「本当に、これほどまでに報われる可能性のない努力は他に見たことがない」
拳と剣がぶつかり合い火花を散らして魔力の奔流が紫電のように辺り一面に広がりこの戦いの規模を物語っている。
「奴に付き従い犬に成り下がった愚か者が、ここまで私を翻弄するなど...」
「従う?犬に成り下がる?個人的にグリーダを応援して何が悪いのさ。娘を託したのも、私自身がグリーダに協力したのも、グリーダの仲間を守ろうと思ったのも...全部私の意思だよ。命令なんて1度もされた覚えは無いね」
侮辱されたのか、さらに体に力が入り聖剣を跳ね除けてエリテス自身にリザリーの渾身の一撃が突き刺さった。
「ガッ...ぐふ」
「悪いね、加減を間違えたよ」
リザリーの一撃が直撃して膝をついて今にも倒れてしまいそうなほど苦痛に歪んだ表情でエリテスはリザリーを睨みつけるが、リザリーはお構い無しに近づき見下ろした。
「ここまでやって...本気を見ることすら叶わないのか...」
「最後は結構本気だったよ。やっぱり他の皆とは違うよエリテス。私が言うのもなんだけどすごい強かったよ」
と、リザリーが戦っていた時とは一転してとても穏やかな表情でエリテスに手を差し出し釈然としないながらも渋々とその手を取って起き上がった。
「はあ、煽るのも程々にしなければ身を滅ぼす...か。我ながらとんでもないことをしてしまったみたいだ」
「え、あれ煽ってたの?本気だと思ってた」
「...本気で怒らせれば本気の力を見れると思っていたが、それも叶わずじまいだったがね」
エリテスの自嘲気味な言葉にリザリーは少し肩をすくめながら呆れたように苦笑している。
「どれだけ道を違えようと...どれだけ仲を違えようとも。本気で嫌いになどなれるはずもないさ」
「ふうん、意外とまともなこと言うじゃん」
「しかしまあ、結構やりすぎてしまったな。この惨状をどうしたものか」
「あっ、そうだった結構本気でやりあってたもんね」
エリテスとリザリーが戦ったあとの戦場は大国同士が戦争をした後と見間違えるほどに木々は吹き飛び大地はボコボコなクレーターのように凹んでいて、草1つ残らず全て無くなった荒れ果てた大地がそこにはあった。
「まあいい、そこは今度グリーダに頼めばどうにかなるだろう。運動も済ませた事だ、茶でも出そう。メノ」
「はいはい、相変わらず滅茶苦茶なことになってる」
エリテスの真横に空間が歪んでメノという名の少女が現れた。
「とりあえず中で要件を聞くとしよう。どうやら、少しややこしいことになっているようだ」
「わかってるならこんな茶番しないでさっさと本題話させてよ」
煽られていたという事実を根に持っているのか、リザリーは少し不機嫌そうに答えるが、さっさと話してしまおうとメノの転移魔法で屋敷の中へ入った。
「...それで、大方こちらも状況は把握してはいる...が、君は何を聞きたいんだ?」
「答えてくれる限りの情報。具体的にはあの化け物みたいなやつの正体とか」
客間に通されたリザリーはソファーに腰掛けてすぐに、回りくどい話は無しと言わんばかりに直球で1番聞きたいことを聞いた。
それも予め予想していたのだろう、エリテスの方は全く動じずにメノがいれてくれた紅茶を少し口に運んでから答えた。
「リザリー、君もなんとなく察しはついていると思うが一応前提として話しておこう。あれは元々この世界の存在では無い」
「へえ、私は遭遇したこと無かったからなんとなくそんなことだろうとは思ってたけどまさか本当にそうだったなんてね。まあ嘘言ってるとは思ってないから安心してね」
「まあ、この状況で嘘は言わないさ。ともかくあれは異界から来た魔物に近い何かだと思ってもらえればいい。強さは恐らく《十ノ頂》であっても油断ならない程の強敵であることは間違いない」
エリテスも表情を引き締めて真剣に答えていた。
「そんなに強いんだ」
「現状確認されているものは三体。そのどれもが相当な強さであり内一体は私が始末して地下に研究資料として保管し、なにか手がかりがないか色々調べてはいるのだが...いかんせんこれといって目新しい情報は無いな」
「へえ、エリテスが倒せるならまあグリーダ辺りなら殲滅するのもそう難しくは無いのかな」
「正面から戦えばグリーダであれば問題なく勝利することが出来るが...問題はそこでは無い」
若干険しい表情で言葉を切って少し溜めてから再び口を開いた。
「1番の問題は情報の少なさだ。生態も分からずどのような力を持っているかも不明であり、人的被害を考えれば迂闊な行動がさらなる大惨事を引き起こしかねないというのが可能性として高い」
「まあ、聞く感じ恐らくまだまだ複数潜伏してる可能性もあるし、知性があるなら密集地帯を集中して襲えば大量に民間人が死ぬよね」
情報の少なさはその分だけ対策を立てるのを困難にする。
リザリー、エリテス共に知っていることはそう多くないということは共有できたが、その後ここから具体的な対策となるとあまり有効な方法は見つからずに案を出し合っていた。
「はあ〜、やっぱグリーダに頼んで広域に結界敷いて安全確保してからシラミ潰しに殲滅するのが確実かなあ」
「いや、仮に既に街中に潜伏している可能性を考えれば内部崩壊の危険性もあるだろう。そうなれば目も当てられないな。閉鎖するのは得策では無さそうだ」
「それもそっか、形態変化も可能だって予想も多分間違いなさそうだし人に化けれるやつもいるかもだもんね。そもそも何かしらの魔法で誰かが召喚したのかもしれないし...」
出来ることは多いが未知数の敵相手に対策を講じるとなれば相当困難を強いられることになる。
グリーダを頼ることは出来るがそれでも万能とは行かないというのを2人は痛感していた。
「そういえば魔力の質は魔物みたいな感じだったの?」
「魔力の質か、たしかに魔物に近しい部分はあるが魔物は本能的に魔力が荒ぶる傾向にあるがアレはなんというか...感情が感じられない魔力だった」
「へえ、それは妙だね。魔力って基本的に感情や心とか精神的な側面が大きいから少なからず感情が魔力にのるはずなんだけどね」
そこでエリテスも考えにふけってしばらく黙り込んでじっと目をつぶっている。
考えが纏まったのか十数秒して目を開いた。
「...生物ですらないということなのか?」
「え?嘘」
リザリーはエリテスの行き着いた答えに少し驚いたような反応をしていたが、エリテスの真剣な表情を見て直ぐに表情が戻った。
「いや、元々そんな気はしていたのさ。ただ確証もなくこれはただの予想に過ぎない。君の考えも聞いておおよそこの世界の生物としては違和感を覚えざるを得ないと言ったところか」
「うん、まあそうなっちゃうのかな」
「しかしだ、生物ではないと仮定すると何故魔力を扱えるのかという疑問が残る。そして魔力を扱える非生物となると魔道具の類かとも考えたが、恐らくそれも違うだろう」
エリテスはいくつか既に仮説を立てていたようだったが、どうもそれら全てがいまいち当てはまらないみたいでやはり答えに辿り着くにはまだまだ情報が足りないとお互いに頭を抱えていた。
「うーん…どうなんだろ、異界から来たってさっき言ってたけどそれは確実なの?」
「ああ、それについては間違いないだろう。既存の文献や資料なんかをそれぞれの種族の国で探しては見たがそれらしいものは見当たらなかった。さらに言えば異界から来た存在というのは前例があり今調べている存在とも合致する点がいくつかあるのが根拠だ」
「ふーん、それ資料やら文献取り寄せたの全部メノにやらせたでしょ。可哀想に」
エリテスが説明している途中でリザリーはジト目でその姿を見ていて、説明が終わった途端に少し哀れみの混ざった視線を向けながらそう言い放った。
「こ、コホン。リザリー、今それは関係ないだろう。だからその可哀想な奴を見るような目を今すぐ辞めるんだ」
「否定しないんだ。んまあいいや、それじゃ真面目な話で私はどうすればいい?と言ってもぶっ飛ばすくらいしか私に出来ることは無いけどね」
「残念ながらそれをドヤ顔で言っているが、とんでもなく馬鹿なことを言っていると自覚した方がいい」
エリテスは若干引いていた。
「はあ、とりあえず今日はここで泊まって明日私が調べて纏めておいた文書をグリーダに渡しておいて欲しい。少なくとも何かしら役にはたつだろう」
「そもそも直接会いに行けばいいじゃん。馬鹿なの?」
「馬鹿と君にだけは言われたくないのだがね。色々あってグリーダと会うのは避けている。とりあえず明日渡すものをグリーダに届けてくれればそれでいいさ」
「はいはい、少し癪だけどまあいいよ。それよりも…」
言葉を途中で切ってリザリーは部屋の扉の方を見る。
「私にだけ構ってたらメノちゃん嫉妬しちゃうよ?」
「はあ?」
リザリーから出た言葉に流石に予想外だったのかエリテスが変な声を出して少し狼狽えていた。
「はあ?ってあんたね、さっきから部屋の外でずっと待ってるよ。私は適当に外出てるから相手してやりなよ」
「き、君に気遣われる必要はない。大体メノはあくまで使用人兼助手だそのようなことするはずも——」
「御宅はいいから。ほらおいで、もうお話終わったから」
エリテスのことを完全に無視して扉の向こうに声をかけた。
すると静かに扉が開いて少しだけメノが顔を出して部屋の中の様子を見ている。
「じゃあね、あとは好きにしなよ」
「……」
それだけ言い捨てて、リザリーは部屋の窓から飛び降りその場を去っていった。
「転移用の魔法印か...用意周到なヤツめ」
部屋から去ったあと、エリテスかリザリーの座っていた場所を見ると魔法陣が刻まれた石が置かれていた。
「さってと、エリテスが一体仕留めたって言ってたしそれはこの近くにいたのかな?っとなると他の個体も近くにいる可能性もあるけど...」
そして、ふと昼間の話を思い出した。
「ミラルに聞けばなにか分かるかな」
リザリーは空中で黄金の翼を広げて膨大な魔力を込め、そのエネルギーで空気は震え木々はしなり音を立てる。
「さあ!ひとっ飛びしますか!」
その掛け声とともに、空へと舞い上がり閃光の如く一直線に妖精族の国、エアリエル王国へと飛び去って行った。
数十分経った頃、ようやくエアリエル王国近辺の森へ到着して、比較的開けている場所で着地した。
真夜中なだけあって昼と比べると魔物の数は見るからに少なく、物陰に隠れてじっとしているのがほとんどで活発に活動している夜行性の魔物もいつもより少ないように見える。
「んー、でも今の時間に聞きに行くのもなあ...とりあえず様子だけ見ておいて危なかったらミラルに事故報告すればいいかな。怒られたらその時はその時で」
再び上空へ飛び上がり危険な魔物が居ないか、エリテスが先程言っていた不可思議な存在も一応居ないか確認する。
「ん?...あれが例のやつかな?」
リザリーが見つけたのは森の木よりも大きな巨体を持ち太い手足と白い彫刻のような物質の肉体を持つパッと見た感じは完全にゴーレムと思う存在がいた。
「あからさまじゃん。ってうん?」
とりあえず様子を見てみようと距離を詰めて気づいたが、何やら足元付近に誰かいるようだった。
「うっわこれ騎士隊じゃん。なんでこんなの相手にしてんの?死ぬってば」
リザリーが一瞬で気づくほど濃密な魔力を放つそれは明らかに異常な存在で、その足元にいるのだからなおさら絶望感は凄まじいことだろう。
「しかも...この魔力で大半が精神やられてるし、何人かは完全に壊れちゃってるね。とりあえずこれを何とかしてからどうするか考えよ」
まず先に人命救助を優先して騎士隊の方へ降り立ち、全員を囲える程の大きさの結界を張る。
「な、なんだ一体これは?!」
「あー、安心して。私の魔力を固めて結晶化させたものだから。多分目の前のやつの攻撃じゃビクともしないよ」
とにかく全員の最低限安全が確保されたのでここから攻撃に転じる。
リザリーは魔力を腕に集めて翼を使わず脚力だけで跳躍、巨大な敵の肩に拳を打ち込んだ。
そのまま勢いは衰えずに貫通、突き抜けて回り込み背中からも特大の一撃をいれて流石の威力に抗えず体勢を崩して倒れ伏す。
リザリーがその隙を逃すはずもなく連撃を放ち爆発音がいくつも重なり耳をつんざくほどの衝撃波が響いた。
「これで...終わり!!!!」
最後の一撃を言わんばかりにこれまでとは比べ物にならない程の威圧感を纏う程の魔力が集まり無遠慮にそれも無残な姿と化した残骸に叩きつけられる。
もちろんこれで無事なわけがなく完全に討伐は完了となった。
「あっけないね。ま、こいつ倒せばみんな帰れるでしょ。私は治療は専門外だからね」
「こ、これは一体...?」
精神をまだ保てていた何人かは短い間ではあったがこの戦いを目撃していて目を見開いて呆然としていた。
「あー、ごめんね驚かせて。でもこうでもしないとみんな多分死んでたし許してね」
「ええ...まあ、それよりも一体あなたは?」
「んー、内緒。というか今回の件は見なかったことにしておいてよ。多分他の誰かに知られたら面倒なことになるし」
人命救助を優先はしたが、リザリーは自分の正体がバレた場合に恐らくグリーダ辺りに怒られるだろうと考えている。
というかこんな化け物がいたなんて民衆に知られでもしたら町中大パニックを起こして然るべきでありどうあがいても絶対に周知されるのはまずい。
「あ、そうだ。女王様にも言わないでよ?普通にバレるからね私」
「ええ...それは流石に」
「い、い、か、ら!絶対だよ?!」
(人前で戦ってたなんてミラルに知られたらどんなこと言われるかわかったもんじゃないよ。ここは口封じに気絶でもさせとくんだったなあ...)
「うん、とりあえず戦えない仲間連れて安全な場所に戻りな。ここは危ないからね」
「それはそうですね。全体!即座に戦闘不能の隊員を背負って直ちに街へ帰還する!」
リザリーと話していたのはリーダー格の者であったらしい、仲間へ一喝していっせいに皆期間の準備に取り掛かった。
そしてリザリーは用が無くなったのでササッとその場を後にして転移魔道具でエリテスの屋敷へ戻ったのだった。
ご精読ありがとうございます、今回のお話は本編の裏では何が起こっていたのかについて書かせて頂きました。これから先、謎の存在の正体が明かされるかもしれません。是非是非ちょっと見てやるか程度にお楽しみいただければ幸いです。




