三章十六話《圧倒的敗北》
「ただいま、つっても今さっきだけど」
「2人ともおかえりなさい。気分転換もいいけど風邪引かないようにね。流石に今はそこそこ寒いもの」
「この体で病気になることは無い」
2人で家の中に入ると、グリーダが出迎えてくれた。
10人分の暖かい料理が机の上に置かれていて、明らかに疲れが見えるミリア、グラン、ジェノの3人とガルム、ジークは既に椅子に座っている。
「先に食べてて良かったんだけどな。冷めたらもったいないだろ」
「私もそれは気にしない」
「まあ、正直どっちでも良かったんだけどね。どうせなら待ってようってなっただけだよ」
ジークが笑いながら答える。
「ナーマちゃん、お疲れ様〜」
「ザインも疲れたろう。グリーダから聞いたがミラル女王と模擬戦をしたとね。彼女はとんでもなく強いのは知っている」
ジェノは昔を思い出すように言っていることから、ジェノとミラルは過去に戦ったことがあるのかはたまたその実力を見たことがあるのだろう。
そしてガルムはなんだか機嫌が悪そうに黙っている。
「が、ガルム...どうしたんだ?」
「あ?はあ...あの後俺は留守番だったがちと問題が起きてな。後処理で結構疲れてんだよ。誰かさんががトリニティ=ヘッドをボコボコにしたせいでな」
誰かさんって...ほぼ1人しか当てはまらないんだが。
「ナーマ...何してたんだよ一体」
「喧嘩売ってきてたから買った。それだけ」
「ああ、その後グリーダが治療してくれたがおもりをさせられたんだよ俺がな!完全にとばっちりだ、外でトレーニングしてた方がよっぽど楽だな」
「あー!あの子見ないなと思ったらそういうことだったんだ〜。お母さんもなんだか怒ってる感じだったし」
「あの表情の彼女を見たのは本当に久しぶりだったと思うよ。まさに鬼の形相だった」
と、先程の出来事を思い返して遠い場所を見るジェノ。
「ふむ、しかしまあ...事情を聞いてみれば今回ばかりは互いに落ち度があるんじゃ。もうこの話はよさんか」
「そ、そうだな。正直かなり気になるけどな」
グランさんが諌めてくれたお陰でナーマがこれ以上責められるってこともない...が本当に何したんだよ一体。
あの龍族の子供は俺でも分かるくらい相当な魔力を持ってて並大抵の実力じゃ歯が立たないはずだ。
ナーマは確かに強いけどそんな簡単に勝てる相手じゃないと思うんだが。
「ザインは気になるの?ナーマの戦いを」
「え?ああ、あの子相当強いだろ?魔力見ればすぐに分かる。いくらなんでもナーマ1人でボコボコにできるもんなのか?」
「そうね、実際見た方が早いわよね。ミリアもジェノもグランも事情聞いてただけで実際に見てないでしょうし」
と言ってグリーダが指を軽く振ると料理が並んでるテーブルの上に突如映像が流れ出した。
「私の記憶を映像化したものよ。私の視点からだから少し見えずらいかもしれないけど凄い白熱した戦いだったわね、途中までは」
そこには四方八方から間髪入れずに猛攻を繰り出すナーマとそれを持ち前の頑丈な肉体で受け止めて余裕の表情のトリニティ=ヘッドの姿が映っていた。
「...流石にやりすぎたことは自覚してる。ガルムにも怒られた」
「当たり前だ。おめえ本当に加減知らねえんだからよ」
今の映像を見る限りはナーマが攻め続けるもののトリニティ=ヘッドの方は全く動じていないからおそらくはここから何かしら起こるんだろうなとは予想している。
「ほら、ここからよ」
「うひゃー、相変わらずとんでもない速さ」
ジークもこの速さには流石に感嘆の声を上げる。
そして、俺はみんなが言っていた意味をようやく納得した。
「容赦ねえ...」
「ここまで弱いとは思ってなかった」
トリニティ=ヘッドの首が一つ、また一つと勢い良く吹き飛んでいくのがバッチリ映像として残っている。
しかも特殊な魔法でもなんでもなく完全に魔力の斬撃でぶった斬っているのがギリギリ見て取れた。
「あら、ザインはこれが見えるのね」
「分かるのか、流石にずっとみんなと特訓してきてたからな。ギリギリだけど見えたよ」
「食い入るように見てるもの。どう?凄いことになってるでしょう」
もう今後、ナーマに逆らうのは辞めておこう、死ぬ。
「これって嫌味?」
「自覚あるなら今後こんなこと辞めときなさい」
みんなの前で大画面で戦っている映像を見せられてナーマの顔が少し赤くなってる。
ナーマって恥ずかしがることあるんだ。
「っと、料理が冷めちゃうわね。これ見るのはいいけど早く食べましょ。冷めちゃうのは勿体ないわ」
「そ、そうだな。そうしよう」
手をパンパンと叩いて視線を集めてグリーダは言い放った。
とりあえずはみんな座って食事を始め、その間ナーマは少し居心地悪いようにおぼつかない様子だった。
みんなが食べ終わってそれぞれ自由な時間になる訳だが、いかんせんやる事がほとんどない。
外でトレーニングでもしてようかと思い外に出て少し走ると、肌寒いくらいの気温が絶妙に心地よく気分がどんどんスッキリしていくのが感じる。
そして走ると同時に身体強化と魔力の制御を同時に行うことで多岐に渡る特訓を可能としている、これは前にグリーダに教えて貰って普段している特訓法だ。
他のみんなは今日戦ったグラン、ジェノ、ミリアの3人はもう部屋で休んでてナーマは今食器洗いやらその他家事をしてくれてる、グリーダは多分地下室にこもってる。
ガルムとベルナードはどこ行ったんだろう、夕飯食べ終わってすぐ外に出てたけど走っててもその姿は見えない。
「ほんと、どこいったんだか」
それから様々な地形での動きになれるために魔法で広範囲の地面を改変して色々な環境を作り出して走り込みもした。
巨大な渓谷や砂漠や大量に降り積もった雪など、歩きにくかったり危険な地形を作り俊敏に動けるように体を慣れさせることに重点を置いて走り回る。
それから的を作って剣を走りながら投擲したり魔力を圧縮した魔力弾を撃ち込んだりして制御を正確に行えるようにしたりなど、最近忙しくてできてなかったいつもやっていた日課をこなしていく。
別にこれをしろとか命令されたわけじゃないけどできるだけ強くなろうとした結果こんな感じの日課が出来上がったというわけだ。
何故か時間経過で地面は元に戻るからこういう魔法での特訓には適してると思う、何で戻るかは未だにわかってないが。
「って、うわ?!」
そうして一通りこなしてると何やら物騒な爆発音が響き渡りあまりの音の大きさに耳鳴りで思わず変な声が出てしまった。
誰だよこんな時間に爆音響かせてんのは。
まあ、そんなことすんのは1人しか心当たりは無いが。
「何してんだ、ガルム」
急いでその場所に行くと汗だくで今にも倒れそうな状態で剣を構えているガルムがいた。
「ザイン...か。気にすんな、そんな大したことじゃねえよ」
「いやんなわけあるか。すごい音してたぞ」
「は?防音の魔法を使ってたはずなんだが」
「防音?」
ガルムが防音の魔法なんて使えるとは到底思えないけど、ってああ、だから2人の行方が分からなかったのか。
「ベルナードも一緒か」
「正解、よくわかったわねほんと」
すると背後から声が聞こえて振り返るといつの間にか後ろにベルナードがたっていた。
「ほんとどこから現れるかわかんねえ」
「いやまあ、姿消してたというか危ないから透化の魔法を使ってたの。ええっと具体的に言うと物理的に透けるのよ。こんな感じで」
と、俺の手をベルナードが触れようとするが、俺の手に触れることはなくそのまますり抜けてしまった。
「すごい魔法だな」
「でもかなり複雑で術式構築にかなり時間がかかるから実践ではほぼ使えないのが難点ね」
いや致命的じゃねーか。
だから前の戦いでは使ってなかったのか、確かに普通に考えてあんな状態で悠々とそんな魔法使ってられねーわな。
「それから防音用の結界と物理障壁両方使ったんだけど、ガルムがあまりにも無茶したせいで吹き飛んでしまったわ」
「悪かったな、少し熱くなりすぎた」
ガルムの方は少しバツが悪そうに目を逸らしてる。
「ガルムはもう休んだ方がいいんじゃないか?相当疲れてるみたいだし、もう魔力もすっからかんじゃん」
(そうそう、もう休もう。もう十分頑張ったでしょ)
「おい、てめーまで出てくんな」
ガルムの肩にちょこんとイフリートが座ってる、マジで自然にいつの間にか出てきたから全然気づかなかった。
「あーわかったわかった。ベルナード、適当にザインの相手してやってくれや。どうせならお前も特訓した方がいいだろ」
「え?私?私そんな戦闘に特化した魔法じゃないんだけど...」
「だから言ってんだよ。少なくともザインより弱いってこたねえだろうよ。まあ、俺はイフリートの言う通りそろそろ戻って寝るわ。あとは勝手にしとけ」
「ベルナードとか...そういえば全然手合わせしたこと無かったな。結構前に数回軽くしたことあるけどそれも簡単にいなされて終わったしな」
「まあ私は正面から戦うよりも絡め手や奇襲が得意だからどうしてもそんな感じの戦いになるのよ」
なるほど、通りであんまり戦ってるところを見たこと無かったわけだ。
理由としてはナーマとあんまり変わらないか。
「んじゃ、やるか」
「ええ、そうね。あそこまで言われちゃ引き下がる訳にも行かないわ。精々頑張りなさい」
ベルナードの黒髪と黒い洋服が闇夜に溶け込むようにして気配が希薄になっていく。
「気配遮断と視覚干渉で姿をくらましたか」
しかし、何故か魔力と音までは消してない、多分手加減でそれくらいは隠さなくていいと思ったんだろうか。
そう考えると少し悔しいけどまあそこまでされたら俺は全く何も出来なくなる。
「は!」
足を1歩踏み込む、そして地面から魔法を発動して音と魔力を頼りに巨大な刃を複数展開し高速回転させながら辺り一面を切り刻む。
ベルナードは自分で戦闘向きじゃないと言ってたけど十分強い、むしろ隠蔽魔法なしでもみんなと渡り合えるくらいの身体能力と多彩な魔法がある。
「無茶苦茶だよ、ほんと」
展開した刃が全てひしゃげて吹き飛んだ。
大きな魔力は感じない、つまり純粋な身体能力で全ての攻撃を弾き返したってことだ。
「っ?!」
突然の事に俺は咄嗟に姿勢を低く横に飛び退いた。
さっきまで俺がいた所は燃え盛りいくつもの雷撃が降り注いだ。
そして俺を追撃するようにいくつもの魔法陣が俺を取り囲んで連続で多属性の魔法が連続で飛来してくる。
魔法陣の数はどんどん増えるしどんどん威力も強くなり狙いも正確に、さらに未来を見てるのかと疑いたくなるほどに先読みで魔法を撃ち込んでくる。
「私はね、確かにあまり強くない。だからこそこうやって魔法の多彩さと魔力制御でそれをカバーしてるのよ。そう簡単に突破できるとは思わない事ね」
「んな事、思ってるわけ...ねえよ!」
どこからともなくそう聞こえてきたが、そんなこと思ってる暇なんて微塵もないしむしろこれで強くないって嘘だろ?って思ってるくらいだ。
どこからともなくベルナードの声が聞こえてきて広範囲に魔法を放つが全く当たらない。
一方的に防御に徹する他なく、魔力を圧縮して硬質化させた改変魔法で作り出したオリハルコンの防壁に大量の魔法がなだれ込んでくる。
「はあっ!!!」
突如、俺が作った防壁は難なく吹き飛び飛び散った破片が頬を掠めて少しばかり血が滴り落ちる。
「ほんと、どんだけ強いんだよ。みんな揃って」
その光景に思わず冷や汗が出てるのが分かる。
目の前にはさっきとは打って変わって美しい白い髪になり狼の耳が立派に際立ったベルナードの姿があった。
「殴るだけであれか、直撃したら死ぬな」
「安心して、殺しはしないから」
ベルナードの姿が消えた、今度は魔法で隠れたんじゃないことはすぐに分かる。
何せ、次の瞬間には体がはしゃげて宙に投げ出されていたのだから。
「ガハッ…!」
あまりの速さに反応する前に後ろから背中を蹴り飛ばされ、空中に吹き飛び口から血が漏れ出てしまう。
一瞬にして意識が朦朧として方向感覚さえ失いかけた。
あ、死んだ。
そう思ったが束の間またしてもベルナードが空中に、しかも目の前にいるのが見えた。
まずい本当に死ぬ。
咄嗟の事で無意識的に魔法が発動して空気を圧縮して改変し盾を形成、それをベルカードが殴りつけてその盾ごと俺は地面に叩きつけられた。
数回バウンドして俺は地面に倒れ伏し、体中に思い出したかのように痛みが巡っていく。
口の中に血が溜まり呼吸ができずにむせ返りさらに苦しくなってしまう。
「どう?降参?」
綺麗に着地してベルナードはそう俺に問う。
俺は何も答えることができずに薄まっていく意識の中で悔しさだけが頭に残った。




