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支配者の未熟者  作者: まっつん
人間世界調査編
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三章十四話《崩壊する町》

「それで?あの子に会うの?それとも私のところに顔を出しただけかしら?」


「…そうですね…今はやめておきましょう。あの子が帰ってくるのも時間がかかりそうですしそれに、あの子は私に空いたいとは思っていないと思いますから」


ミラルは少し悲しげな顔で答える。


グリーダからすればもう数十年前のこと、今更掘り返して気まずくなられてもとは思っているが、それだけのことをしたことは事実でありそれについてとやかくは言わないでいる。


「そう、ならマーナの方に挨拶はしておきなさい。あの子はきっと会えば喜ぶと思うわ」


「あの子も会うのは少し抵抗はありますが、こればっかりはもうどうしようもありませんね」


「はぁ、何言ってんのよ。実の娘に会うのに怯えてどうするの?第一娘を本気で想っているなら今すぐ行ってきなさい!」


「んな?!...見ないうちに頑固になりましたか?グリーダ」


「私は元々こんなもんよ。それよりほら、こんなところで駄弁ってないでさっさと行く」


と、半強制的に部屋から追い出される形でミラルは部屋を後にしてマーナの元へ向かう。


「なんで私がこうも言わないと会おうとしないのかしらね。本当に世話がやけるわ」


独り地下室、薄暗い灯りの下でそっと呟いた。


コンコンと扉を叩くノックの音が廊下で響く。


しばらくすると「どうぞ」と返事が聞こえてミラルはそのまま扉を開けた。


「って、え?お母様?!」


てっきりナーマかミリア辺りかと思っていたマーナはびっくりして素っ頓狂な声を上げる。


「ひ、久しぶりですね、マーナ」


ミラルとマーナは会わなくなってから結構な月日が流れていてミラルはどこかぎこちない様子だ。


マーナの方もびっくりして困惑していて、お互いに目が合って数秒間の沈黙が流れた。


「...えっと、き、今日は何のご用事で...?」


「用事は特にありませんよ。ただ、娘の様子を見に来ただけです。それにしても、大事なくて良かっです」


ミラルはマーナが魔力を過度に酷使したせいで療養していることは以前グリーダから聞いていて、実際に見て状態が回復しつつある事に安堵した。


「ごめんなさいお母様、グリーダから何度も忠告されていたのに無理をしてしまいました。そのせいで...皆さんにご迷惑を...」


「そうですね、あなたは皆様に迷惑をかけました。世界眼はあなただけのものでは無い、《十ノ頂》としてのあなたの役目です。あなたの力が機能しなくなれば《十ノ頂》は甚大な被害を受けることになります」


「返す言葉もございません...」


「ですが、あなたを卑下する気はありません。あなたはよく頑張ってくれました。今私から言えることは、しっかり休んで、そしてまたグリーダの役に立ちなさい」


「っ、はい!」


マーナの表情がぱあっと明るくなる。


「それと、今の話には関係ないですが、ナーマを...私の娘を...あなたの姉を大切にしてくださいね」


それを聞いたマーナはミラルの表情を見て、その悲しそうな顔に目を背けた。


「お母様、何故お姉ちゃんに会わないんですか?」


「私に...彼女に会う資格などないんです。私は母親として失格なのですから。あなたもそれは理解しているでしょう?」


「知りませんよ、そんなこと。何故お姉ちゃんに会うのに資格がいるんですか。お母様がただ会うのが気まずいから理由つけているだけでは無いんですか!」


「過去の事を水に流せるほど、私もナーマも器用ではありません。それに、もうとうに私はあの子を我が子だと思っていません」


「なんてことを...!」


お互い視線を合わせずに問答、ミラルは過去の重責からの哀切と後悔から、マーナは母のそんな顔を見たくなどないから。


「お母様、私は初めてお母様を殴ってしまいたくなりました。初めてあなたを嫌いになってしまいそうです」


「ええ、あなたに嫌われても、私は仕方の無いことだと思っています」


そこにもう、ミラルの笑顔はなかった。


ゆっくりと扉が閉められ、ミラルはそばの壁にもたれ掛かりため息を吐いた。


薄暗く灯りの少ない廊下、哀しさだけが心の中を渦巻きマーナに言われたことを頭の中で思い返す。


「嗚呼私は...どうすればいいのでしょうか」


かつて、幸せな家庭を...なんでもない日常を思い描いていた時期はあった。


そんな願いはもう一生叶わない、そんな思いは一生報われることは無い。


「...帰りましょうか」


いそいそとグリーダのところに戻って転移魔法で帰ると言って、城内の自室に帰った。


「本当に帰るのね?」と聞かれたが、最早何も答える気力すらなかった。


「私は一体...何がしたいのでしょうかね」


その場でへたりこんでポツポツとカーペットに染みができる。


抑えていた感情が濁流のごとく流れ込んできて、大粒の涙となって床に落ちる。


会わなければ良かった、なんて思ってしまう自分がいる、そんな思いが許せなくてどうしようもなく辛くなる。


「あの子達が幸せであれば...それでいいのに...」


マーナの最後に見たあの軽蔑するような表情を思い出し、やはり自分を許せる気はしなかった。


「ミラル...様?」


「あ、あらあら。ごめんなさいね。どうしました?」


「い、いえ...失礼...しました」


ガチャリと扉が開き、一人のメイドが部屋へ入ってくるが、ミラルを視認した途端にいそいそと部屋を出る。


「おまちなさい。いいわよ、入りなさい」


「いえ、ですが」


このメイドは、ミラルが外に出ていることを把握していて部屋の掃除をしにやってきていた。


女王の部屋にノックもせずに入ってしまい申し訳なさそうにしている。


「良いのです。ちょうど少し、お話がしたかったので」


「お話...ですか?」


「ええ、ただの世間話です」


困惑しながらも部屋へ入りミラルの前に立った。


「立ったままでは窮屈でしょう、そこのソファにでも座りなさい」


「いえ、ですが」


「ラキア、もう何十年も一緒に過ごしているのですからそこまで畏まらなくとも良いのですよ」


「陛下がそこまでおっしゃるのでしたら、お言葉に甘えて失礼します」


ミラルが立ち上がって部屋の椅子に腰掛けて、メイドを目の前のソファに座らせる。


「普通、逆では?」


「この椅子はお気に入りなのでこれで良いのです。それじゃ、適当に話しましょうか」


先程までの悲壮感を無かったかのようににっこりと笑って楽しそうに話す、がその姿はラキアというメイドから見ればとても心が痛むものであった。


「...例のお嬢様の事ですか?」


「ええ、そうですね。久々に会いました。久々にあって嫌いだと...そう言われました」


「...それはどちらから?」


「マーナの方ですね。あの子の所へ行きお姉ちゃんにもあって欲しいと言われて、まだ過去のことを引きずっている私にはどうしても会う勇気はありませんでした」


「お辛いでしょうに、お気持ちご察し致します」


「辛いのはそうですがそれ以上に申し訳ないのです。私の我が子を思う気持ちがあの子たちにとっては余計なものであることが、独りよがりであの子たちにすがっているのが」


「陛下...」


今更過去に戻るなどできず、かと言ってこれまでの行いを水に流して接するなど土台無理な話だった。


しかし、マーナからはナーマに会うことを迫られもうどうする事が正解なのか全く分からないでいた。


「っと、辛気臭い話はこれで終わりにしましょう。どちらにせよ私にはできることはありませんから」


「まあ、陛下がそうおっしゃるのでしたら...」


ラキアは少々納得していない様子だったが、渋々話題を変えることにした。


「ラキア、少しこちらへ」


「どうされましたか陛下?」


ミラルは手招きしてラキアを近くへ寄せる。


「んな?!」


先程までラキアがいた場所が部屋ごと巨大な刃物で両断された様な状態と化した。


それどころでは無い、城が一刀の元一瞬のうちにぶった斬られたのだった。


「ナーマ...一体どんな化け物と戦っているというの...?」


「陛下!これは一体なんなのですか?!」


斬撃により城が一部崩れ、そこから混乱しているラキアを抱えて飛び降りる。


「ラキア、私から離れないでくださいね」


「は、はい」


地面に着地と同時に障壁をいくつも展開し、続けざまに来る斬撃を受け止めようとするも、その圧倒的な威力の前には即席で作った壁はなすすべもなく切り裂かれた。


(これが戦いの余波だと言うのですからとんでもないですね。もしこの街にこのような化け物が襲撃してこようものなら...確実に滅びますね)


一応、障壁は一撃で切り裂かれるも威力の減衰はできていて何とか複数重ねがけすることで城への被害は抑えられていた。


ミラルは城そのものよりも、中にいる従者や警備などの人命を優先して障壁を厳重化して一瞬で張り巡らせたために何とか被害者を出すことなく斬撃はやんだ。


わずか数分の出来事だったがミラルからすれば永遠に感じられるほどに突然で切羽詰った出来事であった。


「ラキア、とりあえずもう安全なようです。私は民家の方へ向い被害の大きさを確認してきます。あなたは城内で瓦礫や今の攻撃での被害がないかどうかを確認し、救出をお願いします」


「わ、分かりました。お気をつけて」


ラキアはミラルから離れて城の方へ走り出し、ミラルもこの場を後にして民家の方へと向かった。


「これは...」


ミラルは街が見るも無惨な姿になってしまっているか、少なくとも被害者は多数出ていると思っていた。


実際民家の多くがズタズタで倒壊しているものもあり、大惨事にはなっていた。


しかし、街の中心の広場に奇妙な光のドームがあり、そこへ行くと思いもしない光景が拡がっていた。


数百人の民がそこに集合していて、誰一人怪我をおっている様子はなく、全員が無事でいたのだ。


「一体これは...」


「じ、女王様!ご無事でしたか!」


ドームの中へ入ると白髪の初老の男性がミラルに声をかけて無事でいたことに安堵していた。


「ダイム、この現状はどういうことか説明できますか?」


ダイムと呼ばれたこの男は、魔物の討伐隊と災害時の避難指示を担当している所謂憲兵のまとめ役であった。


「はい、この状況は恐らくあの少女が引き起こしたものかと...突然光に包まれ気づいたらここにいたんです」


「なるほど、少し話を聞いてみましょうか」


しかし、ミラルが辺りを見渡し件の少女が居ないか確認するが、そこにそれらしき少女の姿はなかった。


「...その少女はどのような?」


「申し訳ありませんが、流石にこと細かくは見ておりませんね。髪は黒く、身長は小さな子供でしたが...これ以上のことは急な出来事ゆえよく見ていなかったもので」


「黒髪に子供...妙ですね」


(ただの子供があの斬撃から街の民ほぼ全員を完全に守りきるほどの結界が張れるとはとても思えませんが)


ミラルが子供と言われて真っ先に思い浮かんだのはグリーダだが、先程話したあとここに来て防御するとは到底思えない上に彼女は黒髪ではない。


それに見知った者で黒髪の少女などこれまで見た事もなく、その上でここまでのことが出来るのであればいずれ《十ノ頂》の敵となる可能性も否定できない。


「もしそれが本当なら…っ、不味いですね。ですが今は被害状況を確認することが先決です。ここに避難できていない者もいるでしょう、私は外へ見回りへ向かいます。あなたも別行動で怪我人が居ないかの確認を」


「外は危険です見回りでしたら我々が...」


「私は簡単に死んだりはしません。倒壊した民家などが多数あるでしょうからそれらの情報収集と報告もお願いします」


それだけを言い残し、ミラルは身を翻し足早にその場を後にした。


「この辺りは人影もなさそうですね。魔力も感じられない上に音もしない...本当に被害者は出ていないのかもしれませんね」


「そ、そのようですね」


あの後ミラルはラキアと合流して情報共有、そしてラキアの方では被害にあった者と全く合わないことを聞かされて別の場所で捜索することにしていた。


しかし、どの場所でも全く怪我人はおろか誰一人としていないのはあまりにも不自然であった。


「本当に、彼の証言は正しいようですね。となるとグリーダに報告するのは早急にしなくてはなりませんね」


「では、また向かうのですか?」


「そうなりそうですね、ですがそれは日を改めてからにしましょうか。それよりも現状の把握が最優先です」


そして、ミラルとラキアはその後も被害者がいないか捜索を続けたが、やはり成果はなくその日は捜索を切り上げることにした。


夜、グリーダ達のいる拠点内の寝室でナーマは目を覚ました。


「...ぅん?」


少し意識がぼやけているが視界が鮮明になるにつれて自分が今まで疲れて寝ていたことを思い出した。


「...そうだ、夕飯作らないと」


そそくさと厨房へ向かいいつものように夕飯を作ろうと準備に取り掛かろうとするが、そこには先客がいた。


「あら、もう起きたのね。無理しないでまだ寝ていても良かったのよ?」


「グリーダ」


厨房ではグリーダが料理をしていた。


見るからに全員分の量がありそれから自分の代わりに夕飯を作ってくれていることを察した。


「...ありがとう」


「あら、なんだか不服そうね。私が料理をするのがそこまで嫌だったかしら?」


「それは違う」


「そう、まあいいわ。とにかく今日は無理させちゃってごめんなさいね。あなたの事だから断らないとは思っていたけれど流石に無理な時は言いなさい」


「今日の敵はそこまで強くはなかった。私は平気」


「嘘ね、下手したら死んでたわよ?少しでも命が危ないと思ったら無理せず逃げなさい。あなたのためにも、私たちの為にもね」


「...分かった」


ナーマは少し釈然としない様子ではあるが、渋々頷いた。


「それで、話は変わるけれどあの龍族の子と喧嘩したんですってね。私が見た時とんでもなく魔力が衰弱していたわ。まああなたの事だから殺すことは心配していなかったけれど少しやりすぎよ、気をつけなさい」


「あれは、リザリーの事を軽く見ていたから...」


「あのね、リザリーは確かに強いわ。でもあの子はまだ子供で力の全貌を知らないのだから当然なのよ。リザリーの今までの努力を知っていてその強さを間近で感じていたあなたが怒るのも無理はないけれど、あの子が子供だという前提は履き違えちゃダメよ」


「それでも...私に勝てない程度でリザリーに追いつくなんてただの戯言」


「あなたがリザリーの努力を尊重しているのはよく分かるわ。でもそれと同時にあの子の成長と努力を否定するのは良くないことなのよ。保護した子供をボコボコにするなんて怒られて当然よ普通なら」


ナーマは俯いて黙り込んでしまった。


「はあ、あなたは表情は変わらないのに自分の気持ちに素直すぎなのよ。別にそれが悪いとは言わないけれど少しは他人に優しくなさい。寛容さはあなたに必要よ」


「......」


ナーマは少し頷くと厨房から出て自分の部屋に戻った。


ボフッとベッドに倒れ込んでぼーっとしばらく黙り込んで部屋の中はしんと静まり返った。


ナーマはかつての日、リザリーとの思い出が頭の中に過った。


それは、かつてナーマが力を欲してリザリーに教えを乞うた時の記憶だった

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