三章十話《不可思議な正体》
「先日、私が送り出したしていた探索部隊が丁度昨日の深夜、到着いたしました」
ミラルさんが今回の件について話し始めた。
「それで、昨日は帰ってきていないとか言っていたけど結局それは杞憂だったのね。それはいいことだと思うけどなんだか浮かない顔ね。一体どうしたというの?」
「...森へ向かった探索部隊の約八割が死亡し、残る少数も命に別状はないものの重傷者や精神的なショックにより会話のできないものまで出ている状態でした」
「かなりまずい状態みたいじゃのう。やはり魔物かどうかは置いておいて何かがいるというのは確定じゃな」
「う〜ん、私の知ってる中でそんな被害が出るような魔物知らないんだけどな〜」
ミラルさんが言うには相当な被害で、ミリアもそんなことできる魔物は知らないらしい。
と言うよりもここの近くに生息している魔物で候補はいないと言うことなんだろうけど。
「しかし、何人かは事情聴取はできたと思うが、何か情報は得られたりはしていないか?」
「巨大な魔物が...っと、残念ながら詳しい容姿についてはあまりないですね。もしくは複数の魔物が混在していて特定の魔物についての説明ができなかったかですが」
「ええっと、もうそれみんなショックでまともに話せる人がいないんじゃ...状況的に見ると逃げ帰ってるような感じですし」
「ま、そうなるわよね。とりあえず相手が強そうと言うことはわかったけどそれ以上の情報は見込めそうにないわね。そうなると私も戦闘に出た方がいいかしらね」
「いや〜、その必要はないと思うよ〜。私たちが勝てないってことは多分一人残らず偵察隊なんて生き残らないだろうしね〜。そこ基準にすると多分みんなで行けば勝てるかな〜?」
「確かにそうですよね。俺たちでさえ勝てない場合接敵して生き残れる確率なんて無いに等しいか。実際見てみないとなんとも言えないですかね」
まず、ミリアやジェノを正面から相手して勝てるような相手であれば見つかった時点で普通の妖精族じゃ太刀打ちできるわけがない。
精神的なショックとか言ってたから心象とか神経、脳に影響を与える魔法を使う魔物という可能性も否定できないか...。
最悪の場合あの魔導具を使うことも視野に入れるならなんにせよ一旦はグリーダと別行動をとってもリスクは少ないか。
「ふーん、そう。なら私は私のやることがあるからそっちは全面的に任せるわ。何かあったら...わかってるわね?」
「その場合はアレを使う。心配はあまりしなくてもいいだろう」
グリーダが念を押すように問いかけ、ジェノはそれに自信を持って宣言する。
俺たちが勝てない場合を基準に考えてるけど心配しなきゃ行けない点は他にもまだいくつかあると思うんだが。
「ああそれと、ザインさん...でしたか。私のいる前での敬語や丁寧語は不要ですよ」
「あええ?そうですか?まあ、はい」
なんかノリが心なしかグリーダに近いな。
ここからは探索用の魔導具をいくつか持参してきていたと言うことでグリーダからいくつか渡された。
何処にしまってたんだ?とか聞きたくなったけど多分収納用の魔導具でも持ってるんだと思う、どう考えてもあの量の魔導具が入るほどの荷物は持ってきてなかった。
「さて、それじゃあ行ってらっしゃい」
「ああ」 「うむ」 「は〜い」「では」
それぞれ俺含めて四人が返事をして王城の城門から外に歩き出す。
と、城門からすぐの所で見覚えのある顔の人影が一つ。
「先日は大変失礼をいたしました。この場を借りて改めて謝礼を...」
「いや、別にいいよ。この国に必要なことだったんだろ?」
「はい、まあ」
どうやら昨日の態度についての謝罪らしい。
けどまああんまり気にしてないし、そこまでひどい態度とも思わなかったから謝る必要なんてあんまり感じないな。
「あ〜、オリヴィエちゃん久しぶり〜」
「え...あ!み、ミリア様?!」
「ミリアよ、お主こやつの知り合いかの?」
「んとね〜、この子が確か五歳くらいの時かな?お偉いさんの娘だから親はグリーダと顔合わせと会議みたいなことしてて〜、んで私がこの子の面倒見てたんだよね〜」
「ミリア、それは良いのか?私たちのルールに矛盾しないか?」
ジェノがまさかの行動に少し困惑しているところを見ると多分みんなに伝えないで勝手にやってたことなんだろうな。
「でも親がグリーダと面識あるなら良いんじゃないか?でもミリアって顔広いな」
「そうかな〜」
「え、えっと、あの、お気をつけて!」
そうして、オリヴィエは俺たちを城門から送り出してくれて、ここからまっすぐ森に向かった。
「んで、あの子ってどこの子なんだ?」
「ん〜?あの子は騎爵って言う所謂対魔物の軍務の統括の家なんだよね〜。んまああの子が近衛騎士団長にいるのザインは知ってるだろうから想像できるでしょ?」
「なるほど、それでか」
ガルムと魔物の掃討をしていた時に出くわしたのは自ら兵を率いて魔物と戦ってたわけだ、そんな地位なら後ろにいるべきだと言う常識とはかけ離れてるけど。
偉いからこそ前に出るものなのか?そこはよくわからないな。
「じゃがあやつの軍の指揮権はわずかじゃ。そうなれば自ずと自らが出兵しなければならんくなったんじゃろうなぁ」
「人手不足が深刻化しているとも取れるか」
「そういえばジェノは妖精族のそういうところにも詳しいのか?」
「いいや、ただ政治形態や上部の思考は大抵同じな場合が多い分予想はしやすいだろうね」
「なるほどな」
国を固める為に戦力を割いている中、オリヴィエがこの件の早期解決を計画して少ない兵を率いて魔物の討伐に当たったっていう可能性が考えられるわけか。
そうなると相当な戦犯もいい所だけど、もし俺たちが来なかったらと考えると一概にそれが間違っていたともいえないってことにもなる。
結果として俺たちに遭遇して協力を取り付けたことで無駄ではなかったのか。
「それで、森に入ってしばらく歩いてるけど敵の正確な位置はわかるのか?」
「ん〜、この辺で小型の魔物を何匹か見繕って送ってるけどそれらしいのはな〜...ってなんか今丁度わかったみたいだね〜」
甲虫の魔物がミリアの肩にとまって何やら羽や足を動かして何かを訴えているように見える。
「え〜っと、ふむふむ。なるほどね、うん...わかった、ありがと〜」
ミリアはその甲虫を軽く撫でるとどこかへ飛んで行ってしまった。
ミリアの様子を見るに何か収穫があったらしい、多分目的の魔物が見つかったとかだろうな。
それはそれとしてあの魔物小さいし結構早くて、意思疎通できるなら情報引き出すのに便利そうだな。
「ミリア、何かわかったのか?」
「うん、想像以上に近いみたいだね〜。というよりも街の方に向かってきてるから丁度このまま進めば鉢合わせると思うってさ〜」
「しかし、まだ数分しか森の中を進んでいない。ここからすぐに鉢合わせるとなると掃討街に近くなる。本当に街に入られたら一巻の終わりだ、気をつけるに越したことはないだろう」
例の魔物が街に侵入してくることをかなりジェノが懸念している。
もし俺たちが来るのが1日遅ければもしかしたら手遅れだったかもしれないと思うと中々タイミングがいいものだなと思う。
「ミリア、それでどんな魔物なんだ?こんな被害を出してるくらいだから普通じゃないことは俺でもわかるけど」
「...最悪グリーダの助けが必要になるかもしれないね〜」
「それはつまり、ワシらじゃ勝機は薄いと?」
「しかし、そうなるとなぜ相対して生き残れたのか気になる所だが、そうなれば油断はできないか」
その時、突然魔力のこもった威圧感が身体を痺れさせ形容しがたい恐怖が込み上げてくる。
魔力の鎖が身体中に巻きつき締め上げてくるようなその威圧感は、あまりにも突然で声すらあげずに膝をついて身体を震わすことしかできなかった。
「なん...これ...あ、が...」
「うぅ、すごい圧...」
わずかにミリアの声が聞こえてくるが、今はそれどころじゃなく呼吸も荒くなって手足も痙攣してまともに動かせない。
「こ、これは...意図的に発したものじゃな。ワシらが来ることを悟っていたというのか」
「ザイン、辛いのであれば後ろにいてくれ。私が運ぼう」
ジェノは俺の体を担ぐとミリアとグランの後ろに下がった。
「いや...大丈夫だ、はあ...はぁ、クッソ。悪いな足手纏いになった」
「いいや、あれでは仕方ない。私も少しギリギリでね。今から私は前に出るがその状態ではまともに戦えないだろうから後ろで魔法の構築を行ってくれ。決め手はそれにかかってる」
「ああ、わかった」
少し頭が朦朧とするけど、なんとか立ち上がるといつも通り魔法を展開する。
前方から木々をなぎ倒しながら何かが近づいてくる音が聞こえ、どんどん大きくなっていく。
「くっそ...なんだあれ...」
それは人の形をしていた。
しかしそれが人やほかの種族などではないことは一瞬でよくわかる。
大きさは俺よりも小さい、そして肌は真っ白で俺の目には彫刻みたいに芸術的に映った。
「はあ!」
魔力を纏ったミリアの拳がその存在に迫る。
避けるそぶりも見せない、俺でさえほとんど動きが捉えられないスピードの攻撃にやつは対応できないのかと一瞬思ってしまった。
「うぐっ...!あぁあ...」
だが、それは違った。
ミリアの拳はたしかに奴に当たったが傷一つつけられずあまりの硬さにミリアの手からは痛々しく血が流れる。
「こん、のぉ!」
ミリアは諦めず今の数倍の魔力を全身に纏って連続で殴り蹴り打撃を繰り返した。
奴はミリアの打撃を物ともせずに細長い腕を振りミリアを払いのける。
「すごい力、私じゃ...キツイ、グフッ、プッ!」
受け身をとったが無事じゃ済まない、口に溜まった血を吐き出しミリアは奴を睨む。
ミリアの表情はいつもの明るいものではなく戦いの中の一人の戦士のようだった。
「グルルルルァァアアアアア!!!!!!!!」
ジェノが俺の体長の四倍はあるほど巨大な狼の姿となり奴に突撃する。
その体躯では考えられないほど俊敏かつ力強く飛び込み爪を突き立てる。
「今じゃ!ザイン!」
「わかってる!」
グランさんの合図によって相当簡略化されているが一応完成した魔法《石化》をジェノに当たらないように調整して発射する。
「...反則だろ」
それでも奴は生きていた、ジェノが爪を突き立てた部分は決して小さくはない爪痕となっていたが、俺の使った魔法は腕の途中まで石化していたがそこまで致命的な損傷には見えない。
だが、これで両腕は使い物にならなくなって半分以上無力化に成功しているとみていいと思う。
「畳み掛けるとするかのう」
「そうだな」
このままいけば、もしかしたらこのまま勝てるかもしれない。
想定していたのよりも圧倒的に強かったのはビックリしたけどなんとかなりそうだな。
「待って!ザイン、グラン!ジェノ!」
再び攻撃に転じようと俺とグランは魔法を展開し、ジェノは再び狼の姿となったところでミリアに呼び止められる。
「んな?!」
突如何かが空を切って地面に叩きつけるように目の前に降ってきた。
多分、あと少し踏み込んでいれば直撃して即死だっただろうと思える距離だ。
「ザイン!避けて!」
「え?は?」
ミリアに言われ、よくわからないまま後ろに飛び退くとそこに光の線が横切り頰をかすめる。
目の前の落下物から光の線が俺めがけて飛んできていたのだ。
「っはぁ?!」
その光は俺のすぐ横を通り過ぎて後ろの木に当たりその木は跡形もなく消滅した。
「やべえ...やべえよこれは」
「みんな、アレ使おう」
ミリアは自分の首に下げている魔導具を手にとって提案する。
その瞬間、今さっき落下してきたものが宙に浮かび上がり目の前の人型の何かの腕に接続する形でくっついた。
それは小型砲台とも言えるもので、薄っすらと光を放ち奴と同じ白い色をしていた。
「時間がない、使うしかないか」
「そうじゃな」
ミリアは使うと判断したグランとジェノに目を向けて頷き魔導具に魔力を込めた。
「《簡易転移魔法》」
魔導具の起動とともにまばゆい光が溢れだし、転移魔法の魔法陣が地面に浮かび上がる。
「あんまり頼りたくなかったけど仕方ないか」
俺の体は光の糸によってある場所と遠隔で繋がり、転移魔法によって座標の転換が行われる。
その場所は王城の一室。
体がどこか遠くに飛ばされる感覚とともに視界が光で埋め尽くされ、意識が遠退いて行く。




